異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第184話:目玉

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『有り得ない!どう言う事だ、これは!?』

 フェイクスが俺の中で喚き、騒ぎ立てる。

 五月蝿え・・・

 突如出現した目玉は、フロアの天井いっぱいの大きさで、瞬き一つせずに眼下の俺達を見詰めていた。
 見付けたと言っていたが、それは俺をだろうか。それともフェイクスをか・・・

『ホント馬鹿だよね、悪魔ってさ。この人間・・・人間?人間だよね?まぁいいか。この人間を利用してって思ってたんだろうけど、虫程度の知能しか無い悪魔が考える事なんてこんなもんさ。逆にお前らの領域が侵されるとすら思って無いなんてね』

『な、何だと!?』

 うわー
 めっちゃ煽ってますやん

 等と思っていると、自分の身体が軽くなっているのに気付く。
 重力操作でもされているかの様に重かった身体が自由になったので立ち上がると、モニカとユーリーもそれに気付き体勢を整えた。
 周囲を見ると、先程まで狂気狂乱歓喜していた魔物達が頭上の目玉に向かって何かを訴える様に吼えていた。
 興奮状態にあり、他の仲間達との合流は難しいかと考えていたが、頭上に向かってイキり吠える魔物達はどんどんと一箇所に集まり出し、上へ上へ目指す。
 自分の爪を、牙をあの目玉へと突き入れ様とするあまり徐々に魔物は積み重なって行き、直ぐに小山を作る程折り重なって行った。
 外から内へ、魔物が作っていた壁は形骸し、小山に向かってどんどんと魔物が殺到して行く。
 この俺達の直ぐ近くで行われている行為は、目を向ければ他の場所でも行われているおり、小高い魔物で作られた山が何ヶ所かに出現していた。

「ハルッ!無事じゃったか!?」

 大分周囲に展開していた魔物の密度が薄れたからか、その間を縫ってアリシエーゼ達が俺達の元に駆け寄って来た。
 ファイとイリアのグループも暫くすると合流した為、一度安堵する。
 が、この状況がよく分からず、どうすれば良いか迷っていると、目玉が愉快そうに俺達にかフェイクスにか続けた。

『こっちも暇じゃないからさっさと終わらせよう。今日はこの宇宙誕生以来の、歴史的快挙を達成した日になるかもな~』

 そう言って目玉は一度、瞬きをする。
 これによって何かが起きた様だが、俺には全く分からなかった。
 が、フェイクスは何かを感じ取ったらしく俺の中で異様に騒ぎ立てた。

『巫山戯るなッ!!こんな事あってはならないッッ、貴様らが作った取り決めを反故にするのかッ!!!』

「―――イッ!」

 フェイクスの感情なのか思考なのかそれとも別の何かなのかは分からないが、それが俺の頭の中で幾度と無く跳ね返り、響いて残響すら残す。
 それが耐え難い頭痛となり俺はその場で蹲り、頭を抑えた。

「ちょっとッ、どうしたの!?」

「暖くん!?大丈夫!?」

 イリアや明莉が俺を心配して駆け寄って来るが、俺はそれに反応出来ずに地面に転がった。

「ぅッ、ギィィッ!ぁッ」

『そもそもその取り決めを幾度と無く破ろうとしていたのは何処のどいつだって話なんだけどさ、お前はちょっと一線超えちゃったよね~』

『黙れッ!!黙れ黙れ黙れ!!!!!』

 テメェが黙れッッッ!!!!
 巫山戯んなッ!!!

『この人間―――ん、本当に人間、だよね?まぁいい・・・か?これちょっと気に入ってるんだからさ、壊されると嫌なんだよね。だからもう終わり。ほら、早く何とかしないと!』

『ここまで来て・・・貴様ッ!殺してやる!!!』

 もうこの時点で此奴らのやり取りなどどうでも良くなっていた。
 そもそも、フェイクスの声も、目玉の声も俺以外には聞こえていない様で、仲間達には俺が突然呻き出し、その後地面を転がっている様にしか見えない。
 その後も暫く、目玉とフェイクスの問答は続いた。

『あー、やっぱりお前大した事無い虫けらじゃんか。地獄のこんな辺鄙な所しか領地として与えられて無いって。まぁいいや、とりあえず打っておこう』

『やめろぉおおおッッ!!!』

 目玉のその言葉が最後の一押しになったのかは定かでは無いが、それまで続いていた頭痛が嘘の様に止み、俺の中で何か、絡んでいた物が無くなる。そんな気がした。

「―――ッ、ハァッ、ハァッ」

 やっとこの痛みから解放されたと思いきや、突然、耳を劈き、大気を震わせる咆哮が響き渡る。

「な、何じゃ!?」

「ッ!?」

 皆、耳を抑えながらその咆哮の先を見るが、そこにはそれまで足元の魔物を踏み潰していた鳥頭フェイクスが、頭上の目玉にその怒りをぶつけるが如く咆哮し、その巨体からは想像も出来ない速さの右拳を目玉へと繰り出していた。
 バキンッと何とも形容し難い甲高くもあり、重厚でもある音がフロア中に響き渡ったかと思うと、すぐ後に周囲に凄まじい爆風の様な物が吹き荒れた。

「ッ!何なんだ、一体!?」

 皆で固まり何とかそれをやり過ごすが、恐らく目玉の障壁か何かが、鳥頭フェイクスの攻撃を防いだと言ったところだろう。

『これで俺の仕事は終わりッ、もう留まって居られないから後はお願いね~』

 は?

 たぶんこれは俺達に言っているのだろうが、意味が分からない。
 どう言う訳か、フェイクスは俺の能力の一旦の制御を手放し、鳥頭本体へと戻って行った様だが、幻幽体アストラルボディとなった此奴に勝てそうに無いからこれまで色々と頑張って来たのだ。
 本来の力を十全に使えるこの鳥頭に対して、例え制限時間が存在しようと俺達に何が出来ると言うのだろうか・・・

「ま、待てッ」

『待たないよ~、本当に今はもう無理なんだ。でも、ヒントね。もうお前にはがこびり付いてるんだ。だから―――』

 バキンッとまたフェイクスの攻撃が弾かれる音が響き渡り、目玉の言葉を遮る。

『あぁッ、もう!本当に目障りだよね、悪魔ってさ!此奴、子爵級とかその程度のカスでしょ?そんな奴、いくら集まろうが何の意味も為さないカス中のカスだってのにさ~』

「い、いやッ、そんな事より此奴をどうにか―――」

『あ、本当にもう無理だ。ごめんね~、どんどん取り込みなよ。それがお前が生き残る唯一の―――――』

 目玉の言葉は途中で途切れ、そして頭上にあった目玉自体もフッと消えてしまった。
 それでも尚、鳥頭フェイクスの咆哮は轟くが、それ以外の音は何も聞こえない。
 まるで目玉が帰ってしまった事を惜しむ様に、そんな虚しさがあった。

「もう何が何だか分からんぞッ!?」

 俺もだよ

 アリシエーゼの言葉に心の中で同意しながら、目玉の言葉を思い返す。

 因子・・・
 取り込む・・・

 どう言う事だかまるで分からない。因子とは何の因子だろうか。
 取り込むとは、この巨大な鳥頭フェイクスの事か?と頭を抱える。

「一体どう言う事だい、何があったんだ?」

 ファイが俺を案じてそう問い掛けて来る。
 が、俺はここまでの事を説明している暇は無さそうだと鳥頭フェイクスを見て思う。
 鳥頭フェイクスは目玉が消えたと認識し納得したのかどうだかは分からないが、咆哮を一旦止め、そして顔をゆっくりと此方に向けた。
 この後、鳥頭フェイクスが何を思い考え、どう言う行動に出るかは嫌でも予想が出来る。
 だが此処でウダウダと一人考えていても埒が明かない為、俺は掻い摘んで仲間達に報告を兼ねて相談した。

「そもそも、その因子とは何なんだい?」

「・・・分からない」

「それよりもあの目玉は一体何者なんだ?」

「・・・分からない」

「何も分からんでは無いかッ!」

「仕方無いだろッ、マジで俺も混乱してんだ!」

「あッ、アレじゃないですか、因子って!怪物の因子!」

「はぁ?何だよ、怪物って?」

 皆、それぞれ疑問を口にするが、俺も分からない事だらけの為、分からないしか言葉が見付からなかった。
 が、モニカは何を言っているんだろうか?
 怪物とは失礼な奴めと憤る。

「だって、ユーちゃんが最初に言ってたじゃないですか、ハルさんの言葉怖いって!」

 確かにそんな事を言っていた気がするが・・・

「・・・・・・チガウ、ソウイウコワイジャナイ」

 ほらぁ!
 何だよ、怪物ってさぁ!

「・・・取り込むと言うのも分からんな。あの巨体を喰えと言う事かのう?」

 俺は俺も考えたが。そもそも幻幽体を物理的に食う・・・事・・・は―――

 幻幽体?
 食べる?

 アリシエーゼの言葉に引っ掛かりを覚える。すると、それまで無言だった篤が突然、横から声を掛けて来た。

「コレの事では無いか?」

 コレとは・・・?

 篤の言葉を最初は理解出来ずに首を傾げたが、目の端に何か有り得ない物を捉えた様な気がして、それを二度見した。

「おッ、お前ッ!?それ何だ!?それ!」

「うん?これか。言っただろう、素材が欲しいと。ここに来る途中で見付けたから回収しておいたんだ」

「い、いや、マジで・・・?」

 篤は俺のドン引き具合に訳が分からないと言った表情を浮かべていたが、俺からすれば此奴の方が訳が分からない。狂ってるとしか思えなかった。
 篤の右手は、鳥頭フェイクスが受肉した物質体マテリアルボディの成れの果て、残骸の髪の毛が握られており、その髪の毛は当然それだけでは無く、頭部もくっ付いているし、何なら胸から上も損傷が激しいが、まだつくっ付いていた。
 胸部から下は魔物に踏み潰されたのか、喰われたのか何なのかは分からないが無くなっており、付いていないが、そんなスプラッタな死体?を篤は平然と持ち歩いていたのだ。

「取り込むとはコレを喰えと言う言葉なんじゃないだろうか?」

 篤の言葉に俺は生唾を飲み込んだ。

 え、マジで・・・?
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