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第4章:偽りの聖女編
第169話:限界
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「ユーリーッ!!モニカァッ!!クソッ、何処だ!?って、邪魔クセェ!!」
ユーリーとモニカの名前を叫びながら俺は目の前から迫る魔物を三匹粗同時に屠る。
方拳で左前の魔物を穿ち、そのまま右前の魔物へ左脚を軸にして踏み出して右肘を鳩尾に突き入れる。
深くめり込んだ肘を引き抜きつつその場で跳躍して下がって来た顔を目掛けて飛び膝を当てる、下から上へ急激に顔が跳ね上がり、頭だけが勢い良く天井まで飛んで行きそうな所を首の皮で何とか留めるが、魔物は既に絶命していた。
それでも構わず、着地と同時に浮き上がった身体に俺は正拳突きを突き入れ、後方の魔物諸共吹き飛ばした。
「ふッ!」
短く呼吸をして息を止め、前方の魔物に一瞬で肉薄して胸部に右手を突き入れてそれを引き抜きつつ、右側の魔物の首を引き抜いたその右手で刈り取った。
「パトリックッ!何処だ!!」
暫く魔物の殲滅を行い、少し余裕が出来ると仲間の名前を叫んでまた魔物を屠る。
それを何度と無く繰り返すがまだ仲間からの返事は返って来ない。
「前方と右翼は妾に任せよ!残りは後方と左翼に集中すれば良い!明莉と篤は離れるで無いぞ!」
後ろの方ではアリシエーゼ達が俺が打ち漏らした魔物とそら以外から襲ってくる魔物に対処しつつ、俺の後に続く。
こうして見ると、ファイとダグラスはやはり別格の強さを持っている。
上位種だろうが何だろうが引けを取らないし、余程の数が殺到しなければ危なげ無く捌いている様に見える。
ドエインも言わずもがな、今は篤と明莉の傍で守りに徹しているので、積極的に攻めている訳では無いが、かなり上手い。
あのスーパーコボルトに手酷くやられていたが、アレはやはり別格と言うべきか。
他の傭兵や騎士達も奮闘しており、今の所抜かれる心配は無さそうだった。
それはイリアの援護が大きいかも知れないなと、イリアをチラリと見ると、丁度何かの魔法を発動したのか、ファイとダグラス、後はドエインを抜かした騎士と傭兵達の身体が発光したかと思うと、急激に動きが良くなったのが分かった。
何かの補助魔法か?
何はともあれ、ファイ達には必要無いと言う判断が出来ていて、ちゃんと周りが見えているのだなとこちらも安心した。
「アリシエーゼッ!どっちだ!?」
「分からんッ!じゃが、こやつら何処かを目指して進んでおるぞ!」
そう、目の前の魔物は、何処かを目指し一つの大きな流れを作って進んでいるのだ。
群れの中に突っ込んで無理矢理突き進んで行くと、何だか辺りの雰囲気が異様だったのを思い出す。
これは、浮かれている・・・?
そう表現するのが一番しっくりと来るが、確かに俺達に襲い掛かって来る魔物は多数いるのだが、全体の数からしたらそう多くは無い。
どちらかと言うと、何かに当てられたかの様に気分が高揚しているのか、興奮して騒ぐ者、それに釣られて騒ぎ始める者、その場で雄叫びを上げ、それが連鎖してまるで歌を唄っているかの様に感じたりもする。
中には、踊り出している魔物までいるのだ。
ただ、その魔物達は何処か目的地がある様に乱れる事無く進んで行く。
クソッ!何なんだ!!
訳が分からなかったが、今はとりあえずこの流れの向こうへと進んで行くしかないとまた魔物を殺して回った。
俺の身体はアリシエーゼにも言ったが、何だか頗る調子が良い。
身体強化の魔法を発動していないので、ある一定のラインを超えると、肉体自体が損傷、破損してしまうのは変わらないが、そのラインが明らかに変わっている気がする。
今もこうして魔物を殺す為に動き回っているが、改めて意識して自分の動きを考えると、人間離れしているとしか思えなかった。
目の前の敵を屠ったその直後には別の魔物へ飛び込み仕留め、また次へと飛び掛る。
その動きは魔物が犇めく中を縦横無人に駆け回る猿の様―――誰が猿かッ―――で、移動する度に一匹、二匹と魔物が死んでいく。
「おいッ!キリがねぇぞ!!」
顔に傷のある傭兵が叫ぶ。
「分かってる――よッ!!」
目の前の魔物の顔を吹き飛ばして、その場で回転して後ろ回し蹴りを放ちながら俺は返すが、実際このまま進んで良いのだろうかと思う。
段々と魔物の流れ、畝りが細くなって行っている気がするが、同時に密度は増している気もする。
「うわッ、何だ此奴ら!?」
後ろから傭兵の一人が驚いた声を上げたので、何事かとチラリと目を向ける。
そこには、先の尖った丸太の様な物を振り回すオーガがおり、良く見るとそう言った先の尖った丸太を持っている魔物がチラホラ居る事に気付く。
何だアレ、武器なのか?
低位の魔物は基本的には武装しない。
していても、拾ったボロボロの武具や、天然の資源を使って自作などだ。
その上位種になると、自作なのかは分からないし、だとしたら何処で作っているのかも分からないが、結構真新しい装備を身に付けたりしている。
あのオーガは通常種の様なので、大木を削り出した棍棒等を使っていても不思議では無いのだが、両手で持って振るっているそれは武器と言う感じはしない。
「アリシエーゼッ、ちょっとの間頼む!」
「何ッ!?あッ、コラッ!!」
俺はそう言って、アリシエーゼの制止を聞かずに跳躍して、まるで八艘飛びの様に魔物の頭を蹴り付けてピョンピョンと奥へと向かった。
途中、何体かのオーガやオークが、大小様々な先の尖った木を持っているのを確認し、更に謎は深まるが、総じて魔物はテンションが高い気がする。
先程、踊っているんじゃないかと思ってはいたが、実際踊り狂っている集団もあるし、手拍子や身体を叩いてリズムを取っていたりする様子も窺える。
マジで何なんだ、祭・・・?
一度、魔物達の頭上から飛び降りて、周囲の魔物を蹴散らしながら、踊り狂っている集団の方へ向かう。
円形になり騒いでいる集団の一角に飛び込んで切り崩し、何の感情も抱かずに数体屠ると、気付いた魔物が騒ぎ立て襲い掛かって来た。
興奮状態なのか、腕を千切っても怯まず、腹に穴を開けてもまだ動く。
「あぁ?完全にキマッてんだろ、これ」
仕方無く、頭部を完全に破壊して一撃で屠る事にして立ち回るが、押し寄せる魔物は何故か皆嗤っていた。
ゲラゲラ、ゲラゲラと何が可笑しいのかと問いたくなる位に、自分が傷付いても、他の魔物が傷付いても嗤いながら殺到する。
中央に二体の鎧を着込んだオーガの上位種と思われる魔物が居り、その周辺には多様な種族の魔物、その周りを取り囲む様に更に多くの魔物が居る状況である事を魔物を屠っていて空いた穴に飛び込む形で目撃した俺は、またあの場面の再現かと思うと同時に心臓が一際大きく一度、ドクンと脈打つのを感じた。
「テメェら・・・何やってんだよ」
上位種のオーガ二体の前には三人の人間が倒れており、手脚が千切られその千切られた物をオーガが一つ掴んで口に運んでいる。
視界が揺れる。俺が揺れているのか、それとも地面が揺れているのか。
分からないが、視界が揺れ、思考がブレて、頭に登った血が沸騰しそうになる。が、ふと気付く。
全員傭兵だ
そう、全員が思い思いの鎧に身を包んでおり、見るからに傭兵な成人男性が三人倒れている。
子供は居ない・・・
女も・・・居ない
ユーリーでもモニカでも無く、どうやらパトリックでも無さそうな事にホッとした。
安堵してしまった自分自身に一瞬嫌気が差すが、どちらにせよこのクソ共をこのままにしておく理由は無い。
「おーい、暖やー」
離れた場所で俺を呼ぶアリシエーゼの声が聞こえるが、俺はそれを無視してオーガの強化種に飛び掛った。
地面を蹴る力が強過ぎて、踏み込んだ瞬間その力に耐えられず地面が砕ける。
バキンッと言う音と共に地面が爆ぜ、小石が舞い散る頃には俺はオーガの目の前に躍り出ていた。
「死ね」
オーガは座っていた為、今の俺でも顔面に手が届く。
横を通り過ぎ様に座っていたオーガの顔面を左拳で撃ち抜きつつ真後ろまで移動する。
顔面が弾け飛んだオーガがゆっくりと後ろに倒れるが、それを見届ける事無くまだ反応出来ていないもう一匹のオーガに飛び掛った。
俺の姿が掻き消えた事で漸く何かが起こっていると理解したオーガだったが、俺は右方向に駆け出して邪魔な他の魔物を排除しつつオーガの後ろ側に回り込む。
辺りで他の魔物の叫び声が聞こえてキャロキョロとしているオーガだが、俺が背後を捉えた時になってやっと立ち上がっていた。
座っとけや
背後から上体が地面に着くくらい身を低くしてオーガに駆け寄り、膝裏へフック気味に放った右拳をぶち当てる。
バァンッと肉と骨が弾ける音と共にオーガはバランスを崩して左手を地面に付けた。
「シッ!」
右フックを放ってそのまま踏ん張らずに二歩程進みそこで踏ん張ってから今度は左フックを放つ。
丁度下がって来た顔面に拳が直撃して鼻下からブチャリと吹き飛ぶがオーガはまだ絶命していない。
「死ねってのッ」
フックを喰らって倒れ込んだオーガに飛び上がってからから拳を顔面に叩き込んで今度こそトドメを刺してから、腕にこびり付いた血や肉片を一度腕を振って落とした。
気付くと嗤っていた魔物が静かになっており、突然の招かざる客を前に困惑の表情を浮かべている様に見える魔物達を見て今度は俺が嗤う。
「ハハッ―――アハハハハッ!どーしたよ、糞虫共!嗤えよッ、なぁ!?嗤えってのッ!!」
ゲラゲラと嗤いながら俺はなりふり構わず、標的等定めずに目に付く全てを殺して回る。
「ギャハハハッ!オラッ、どうした!楽しいだろ!?」
そうだった
俺は此奴ら皆殺しにするんだった
あの時思った気持ちを思い出し、今こうしてそれを成し遂げようとしている自分に酔っていたのかも知れない。
いつの間にかすぐ近くに集まって来ていた仲間達にも気付かず俺は暴れ回っていたが、あんなに好戦的で人間を見付けたらなりふり構わずに襲い掛かって来ていた魔物達が周囲にもうあまりいない事に気付き、正気を取り戻す。
「―――ぁ?何だ、逃げたのか・・・」
「・・・お主、何やっておるんじゃッ」
何ってそりゃ・・・
俺は何て言い出そうとしたのだろうか。分からなかったが、アリシエーゼとその後ろの家族や仲間達の表情を見てハッとした。
「・・・いや、すまん。ついカッとなっちまった」
アリシエーゼは怒っている様に見えた。まるでそんなくだらない感情に支配されて情けないとでも言う様な表情だったが、その他は怯えの感情が見て取れた。
暴れ回る俺はその辺の魔物と大差有るんだろうか。そんな疑問が俺の中で芽生えるが、明莉を見ると泣いていた。
「―――ぁ、ッ、」
何か声を掛けたかったが、何も思い浮かばない。
仲間だ家族だと言っておきながら、そんな事忘れたかの様に、只獣の様に暴れ回り、魔物すら怯えさせるその行為を正当化出来る言葉等見付からない。
「兎に角、この辺りにはパトリック達は居らんな」
そう言ってアリシエーゼが辺りを見て、地面に横たわる三人の傭兵の遺体を見詰める。
その遺体の傍に膝を付き祈るイリアは、何か口にして頭から右手をスッと下ろす。
後ろに控えていた騎士達も同じ様にそれに倣ったが、死者が安らかに眠れる様にと祈りが込められているのだろうか。
「で、どうするのよ?魔物はあっちに流れて―――」
祈りが終わったイリアが立ち上がり、俺に向けて言葉を発するが、その言葉は途中で途切れた。
俺はそれが気になりイリアを見るが、視線の先は魔物達が流れ歩く先に向いており、俺も釣られて其方を見た時にイリアが言葉を途中で止めた意味を知る。
「な、何かしら、アレ・・・」
イリアは恐る恐る口を開く。皆その言葉でイリアの指差す方を見るが、遠く離れていて確りと認識出来ない様だった。
「・・・・・・アリシエーゼッッ」
「・・・・・・あぁ、巫山戯おってからにッッ」
俺とアリシエーゼは確りと認識していた。
その無駄に良くなった視力を呪ったくらいだった。
視線の先には先程から気になっていた先の尖った丸太を持ったオーガが歩いている。
手前に他の魔物が大量に居てオーガは頭しか見えなかったが、そこでは無い。
尖った先に何かが突き刺さってーーー辞めよう。もう分かっている。
丸太の先には手脚を千切られた人の、ミーシャの遺体が突き刺さっていた。
「・・・アリシエーゼ、俺はもう限界だ」
「・・・・・・」
アリシエーゼはそれだけで射殺せる様な視線を魔物達に向けている。
「「ぶち殺してやる!!!!」」
ユーリーとモニカの名前を叫びながら俺は目の前から迫る魔物を三匹粗同時に屠る。
方拳で左前の魔物を穿ち、そのまま右前の魔物へ左脚を軸にして踏み出して右肘を鳩尾に突き入れる。
深くめり込んだ肘を引き抜きつつその場で跳躍して下がって来た顔を目掛けて飛び膝を当てる、下から上へ急激に顔が跳ね上がり、頭だけが勢い良く天井まで飛んで行きそうな所を首の皮で何とか留めるが、魔物は既に絶命していた。
それでも構わず、着地と同時に浮き上がった身体に俺は正拳突きを突き入れ、後方の魔物諸共吹き飛ばした。
「ふッ!」
短く呼吸をして息を止め、前方の魔物に一瞬で肉薄して胸部に右手を突き入れてそれを引き抜きつつ、右側の魔物の首を引き抜いたその右手で刈り取った。
「パトリックッ!何処だ!!」
暫く魔物の殲滅を行い、少し余裕が出来ると仲間の名前を叫んでまた魔物を屠る。
それを何度と無く繰り返すがまだ仲間からの返事は返って来ない。
「前方と右翼は妾に任せよ!残りは後方と左翼に集中すれば良い!明莉と篤は離れるで無いぞ!」
後ろの方ではアリシエーゼ達が俺が打ち漏らした魔物とそら以外から襲ってくる魔物に対処しつつ、俺の後に続く。
こうして見ると、ファイとダグラスはやはり別格の強さを持っている。
上位種だろうが何だろうが引けを取らないし、余程の数が殺到しなければ危なげ無く捌いている様に見える。
ドエインも言わずもがな、今は篤と明莉の傍で守りに徹しているので、積極的に攻めている訳では無いが、かなり上手い。
あのスーパーコボルトに手酷くやられていたが、アレはやはり別格と言うべきか。
他の傭兵や騎士達も奮闘しており、今の所抜かれる心配は無さそうだった。
それはイリアの援護が大きいかも知れないなと、イリアをチラリと見ると、丁度何かの魔法を発動したのか、ファイとダグラス、後はドエインを抜かした騎士と傭兵達の身体が発光したかと思うと、急激に動きが良くなったのが分かった。
何かの補助魔法か?
何はともあれ、ファイ達には必要無いと言う判断が出来ていて、ちゃんと周りが見えているのだなとこちらも安心した。
「アリシエーゼッ!どっちだ!?」
「分からんッ!じゃが、こやつら何処かを目指して進んでおるぞ!」
そう、目の前の魔物は、何処かを目指し一つの大きな流れを作って進んでいるのだ。
群れの中に突っ込んで無理矢理突き進んで行くと、何だか辺りの雰囲気が異様だったのを思い出す。
これは、浮かれている・・・?
そう表現するのが一番しっくりと来るが、確かに俺達に襲い掛かって来る魔物は多数いるのだが、全体の数からしたらそう多くは無い。
どちらかと言うと、何かに当てられたかの様に気分が高揚しているのか、興奮して騒ぐ者、それに釣られて騒ぎ始める者、その場で雄叫びを上げ、それが連鎖してまるで歌を唄っているかの様に感じたりもする。
中には、踊り出している魔物までいるのだ。
ただ、その魔物達は何処か目的地がある様に乱れる事無く進んで行く。
クソッ!何なんだ!!
訳が分からなかったが、今はとりあえずこの流れの向こうへと進んで行くしかないとまた魔物を殺して回った。
俺の身体はアリシエーゼにも言ったが、何だか頗る調子が良い。
身体強化の魔法を発動していないので、ある一定のラインを超えると、肉体自体が損傷、破損してしまうのは変わらないが、そのラインが明らかに変わっている気がする。
今もこうして魔物を殺す為に動き回っているが、改めて意識して自分の動きを考えると、人間離れしているとしか思えなかった。
目の前の敵を屠ったその直後には別の魔物へ飛び込み仕留め、また次へと飛び掛る。
その動きは魔物が犇めく中を縦横無人に駆け回る猿の様―――誰が猿かッ―――で、移動する度に一匹、二匹と魔物が死んでいく。
「おいッ!キリがねぇぞ!!」
顔に傷のある傭兵が叫ぶ。
「分かってる――よッ!!」
目の前の魔物の顔を吹き飛ばして、その場で回転して後ろ回し蹴りを放ちながら俺は返すが、実際このまま進んで良いのだろうかと思う。
段々と魔物の流れ、畝りが細くなって行っている気がするが、同時に密度は増している気もする。
「うわッ、何だ此奴ら!?」
後ろから傭兵の一人が驚いた声を上げたので、何事かとチラリと目を向ける。
そこには、先の尖った丸太の様な物を振り回すオーガがおり、良く見るとそう言った先の尖った丸太を持っている魔物がチラホラ居る事に気付く。
何だアレ、武器なのか?
低位の魔物は基本的には武装しない。
していても、拾ったボロボロの武具や、天然の資源を使って自作などだ。
その上位種になると、自作なのかは分からないし、だとしたら何処で作っているのかも分からないが、結構真新しい装備を身に付けたりしている。
あのオーガは通常種の様なので、大木を削り出した棍棒等を使っていても不思議では無いのだが、両手で持って振るっているそれは武器と言う感じはしない。
「アリシエーゼッ、ちょっとの間頼む!」
「何ッ!?あッ、コラッ!!」
俺はそう言って、アリシエーゼの制止を聞かずに跳躍して、まるで八艘飛びの様に魔物の頭を蹴り付けてピョンピョンと奥へと向かった。
途中、何体かのオーガやオークが、大小様々な先の尖った木を持っているのを確認し、更に謎は深まるが、総じて魔物はテンションが高い気がする。
先程、踊っているんじゃないかと思ってはいたが、実際踊り狂っている集団もあるし、手拍子や身体を叩いてリズムを取っていたりする様子も窺える。
マジで何なんだ、祭・・・?
一度、魔物達の頭上から飛び降りて、周囲の魔物を蹴散らしながら、踊り狂っている集団の方へ向かう。
円形になり騒いでいる集団の一角に飛び込んで切り崩し、何の感情も抱かずに数体屠ると、気付いた魔物が騒ぎ立て襲い掛かって来た。
興奮状態なのか、腕を千切っても怯まず、腹に穴を開けてもまだ動く。
「あぁ?完全にキマッてんだろ、これ」
仕方無く、頭部を完全に破壊して一撃で屠る事にして立ち回るが、押し寄せる魔物は何故か皆嗤っていた。
ゲラゲラ、ゲラゲラと何が可笑しいのかと問いたくなる位に、自分が傷付いても、他の魔物が傷付いても嗤いながら殺到する。
中央に二体の鎧を着込んだオーガの上位種と思われる魔物が居り、その周辺には多様な種族の魔物、その周りを取り囲む様に更に多くの魔物が居る状況である事を魔物を屠っていて空いた穴に飛び込む形で目撃した俺は、またあの場面の再現かと思うと同時に心臓が一際大きく一度、ドクンと脈打つのを感じた。
「テメェら・・・何やってんだよ」
上位種のオーガ二体の前には三人の人間が倒れており、手脚が千切られその千切られた物をオーガが一つ掴んで口に運んでいる。
視界が揺れる。俺が揺れているのか、それとも地面が揺れているのか。
分からないが、視界が揺れ、思考がブレて、頭に登った血が沸騰しそうになる。が、ふと気付く。
全員傭兵だ
そう、全員が思い思いの鎧に身を包んでおり、見るからに傭兵な成人男性が三人倒れている。
子供は居ない・・・
女も・・・居ない
ユーリーでもモニカでも無く、どうやらパトリックでも無さそうな事にホッとした。
安堵してしまった自分自身に一瞬嫌気が差すが、どちらにせよこのクソ共をこのままにしておく理由は無い。
「おーい、暖やー」
離れた場所で俺を呼ぶアリシエーゼの声が聞こえるが、俺はそれを無視してオーガの強化種に飛び掛った。
地面を蹴る力が強過ぎて、踏み込んだ瞬間その力に耐えられず地面が砕ける。
バキンッと言う音と共に地面が爆ぜ、小石が舞い散る頃には俺はオーガの目の前に躍り出ていた。
「死ね」
オーガは座っていた為、今の俺でも顔面に手が届く。
横を通り過ぎ様に座っていたオーガの顔面を左拳で撃ち抜きつつ真後ろまで移動する。
顔面が弾け飛んだオーガがゆっくりと後ろに倒れるが、それを見届ける事無くまだ反応出来ていないもう一匹のオーガに飛び掛った。
俺の姿が掻き消えた事で漸く何かが起こっていると理解したオーガだったが、俺は右方向に駆け出して邪魔な他の魔物を排除しつつオーガの後ろ側に回り込む。
辺りで他の魔物の叫び声が聞こえてキャロキョロとしているオーガだが、俺が背後を捉えた時になってやっと立ち上がっていた。
座っとけや
背後から上体が地面に着くくらい身を低くしてオーガに駆け寄り、膝裏へフック気味に放った右拳をぶち当てる。
バァンッと肉と骨が弾ける音と共にオーガはバランスを崩して左手を地面に付けた。
「シッ!」
右フックを放ってそのまま踏ん張らずに二歩程進みそこで踏ん張ってから今度は左フックを放つ。
丁度下がって来た顔面に拳が直撃して鼻下からブチャリと吹き飛ぶがオーガはまだ絶命していない。
「死ねってのッ」
フックを喰らって倒れ込んだオーガに飛び上がってからから拳を顔面に叩き込んで今度こそトドメを刺してから、腕にこびり付いた血や肉片を一度腕を振って落とした。
気付くと嗤っていた魔物が静かになっており、突然の招かざる客を前に困惑の表情を浮かべている様に見える魔物達を見て今度は俺が嗤う。
「ハハッ―――アハハハハッ!どーしたよ、糞虫共!嗤えよッ、なぁ!?嗤えってのッ!!」
ゲラゲラと嗤いながら俺はなりふり構わず、標的等定めずに目に付く全てを殺して回る。
「ギャハハハッ!オラッ、どうした!楽しいだろ!?」
そうだった
俺は此奴ら皆殺しにするんだった
あの時思った気持ちを思い出し、今こうしてそれを成し遂げようとしている自分に酔っていたのかも知れない。
いつの間にかすぐ近くに集まって来ていた仲間達にも気付かず俺は暴れ回っていたが、あんなに好戦的で人間を見付けたらなりふり構わずに襲い掛かって来ていた魔物達が周囲にもうあまりいない事に気付き、正気を取り戻す。
「―――ぁ?何だ、逃げたのか・・・」
「・・・お主、何やっておるんじゃッ」
何ってそりゃ・・・
俺は何て言い出そうとしたのだろうか。分からなかったが、アリシエーゼとその後ろの家族や仲間達の表情を見てハッとした。
「・・・いや、すまん。ついカッとなっちまった」
アリシエーゼは怒っている様に見えた。まるでそんなくだらない感情に支配されて情けないとでも言う様な表情だったが、その他は怯えの感情が見て取れた。
暴れ回る俺はその辺の魔物と大差有るんだろうか。そんな疑問が俺の中で芽生えるが、明莉を見ると泣いていた。
「―――ぁ、ッ、」
何か声を掛けたかったが、何も思い浮かばない。
仲間だ家族だと言っておきながら、そんな事忘れたかの様に、只獣の様に暴れ回り、魔物すら怯えさせるその行為を正当化出来る言葉等見付からない。
「兎に角、この辺りにはパトリック達は居らんな」
そう言ってアリシエーゼが辺りを見て、地面に横たわる三人の傭兵の遺体を見詰める。
その遺体の傍に膝を付き祈るイリアは、何か口にして頭から右手をスッと下ろす。
後ろに控えていた騎士達も同じ様にそれに倣ったが、死者が安らかに眠れる様にと祈りが込められているのだろうか。
「で、どうするのよ?魔物はあっちに流れて―――」
祈りが終わったイリアが立ち上がり、俺に向けて言葉を発するが、その言葉は途中で途切れた。
俺はそれが気になりイリアを見るが、視線の先は魔物達が流れ歩く先に向いており、俺も釣られて其方を見た時にイリアが言葉を途中で止めた意味を知る。
「な、何かしら、アレ・・・」
イリアは恐る恐る口を開く。皆その言葉でイリアの指差す方を見るが、遠く離れていて確りと認識出来ない様だった。
「・・・・・・アリシエーゼッッ」
「・・・・・・あぁ、巫山戯おってからにッッ」
俺とアリシエーゼは確りと認識していた。
その無駄に良くなった視力を呪ったくらいだった。
視線の先には先程から気になっていた先の尖った丸太を持ったオーガが歩いている。
手前に他の魔物が大量に居てオーガは頭しか見えなかったが、そこでは無い。
尖った先に何かが突き刺さってーーー辞めよう。もう分かっている。
丸太の先には手脚を千切られた人の、ミーシャの遺体が突き刺さっていた。
「・・・アリシエーゼ、俺はもう限界だ」
「・・・・・・」
アリシエーゼはそれだけで射殺せる様な視線を魔物達に向けている。
「「ぶち殺してやる!!!!」」
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長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。
彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。
眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。
これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。
*あらすじ*
~第一篇~
かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。
それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。
そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。
~第二篇~
アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。
中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。
それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。
~第三篇~
かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。
『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。
愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。
~第四篇~
最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。
辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。
この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。
*
*2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。
*他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。
*毎週、火曜日に更新を予定しています。
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