異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第162話:顕現

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 今、目の前にこの元凶の親玉が居る。これは千載一遇のチャンスだった。

「ベラベラと説明ありがとよ。んで、もうお前殺していいよな?」

「私を殺すと?ただが人間がか?」

「絶望だったか?得意げにそんな事に言っておいて、そのたかが人間をまだ殺せてねぇのは何処のどいつだよ」

 売り言葉に買い言葉だが、お互いにふふん、どうよ?とか言い合っているのが、何だか滑稽だったが、俺はもう殺ると決めている。

「お前はやはり勘違いしているな。まだ前菜の段階だが―――そうだな、確かに予想外にしぶといと思ったのは認めよう」

「・・・意外だな。認めるのか」

「あぁ、このままだとお前を絶望の淵に追いやる事が出来なくなってしまうかもしれない。それは避けたいしな。だから、此方も身を切るとしよう」

「あぁ?それはどう言う―――」

 また絶望かよと思いつつも、フェイクスの言葉に何か不穏なものを感じた事は否めない。

「お前達、今までご苦労であった。存分に暴れ殺すと良い」

 俺の言葉を遮り、俺のでは無い誰かと話し出したフェイクスであったが、何だろうか、嫌な予感しかしない。

「お前、何言ってんだ?って言うか、誰と話してる」

「―――さぁ、第二幕と行こうじゃないか!」

 俺の言葉等耳に入っていないフェイクスが、両手を広げ妙に演技掛かった動作で宣言する。
 瞬間―――――

「ッッ!?!?」

 フロア全体に、まるで耳を劈く様な高音の金切り声と、大気と全身を震わせる様な重低音が重なった様な聞いた事も無い叫び声が聞こえ、俺は身構えた。

「な、何だ!?」

 凡そ人間の其れでは無い、慟哭とも取れる雄叫びを浴びて、俺の身体はまるで重力が増したかの様に重くなる。
 それと同時に、今にも叫び狂いたくなる衝動に駆られながらそれを必死に抑え込むが、目の前のフェイクスはご満悦で、怪しい嗤いを浮かべながら俺を見て言った。

「良いのか、こんな所で立ち止まって居て?人の皮を脱ぎ捨て、本来在るべき姿に戻った彼奴らは殺し尽くすぞ。それだけの時間くらいは顕現していられるだけの強さを持たせているのでな。ほら、また一人死んだぞ?ほら!ほら!!」

「クソッッ!!!」

 今のフェイクスの言葉から分かるのは、イーグ達あの爵位持ちの悪魔が、受肉した肉体を捨てて本来の幻幽体アストラルボディとなりここに顕現したと言う事だ。
 この世には幻幽体では活動出来ないと言っていたが、その前に少しの間なら活動出来るとも言っていたなと思い出しながら俺はフェイクスに背中を向けて走り出した。

「誰か一人でも助かっていると良いが、精々足掻いて絶望してくれたまえ」

 走り去る俺の背中にフェイクスは余裕の様子でそんな言葉を投げ掛けるが、俺は無視してただ全力で仲間達の元へ向かう。
 仲間達が何処に居るのかは分からなかったが、振り向いた先の方に、黒く輝く光の柱の様なものが見えたのでそこかと方向を定める。
 俺の目線の先の方、少し遠いがそこには一本の黒い光の柱、更に右奥の方に二本の光が見えた。

 一本の方はイーグで、二本の方はシューザとスロイか?

 二本の方には恐らくアリシエーゼが居るが、此方もアイツだから何とかなるだろうとは今は思えなかった。
 走って向かう今も身体の奥底から漏れ出てくる、単純な恐怖。
 これは魂など無いと思っている俺でさえ魂にこびり付いた恐怖と言う名の呪いなのでは無いかと思ってしまうそれを身を持って体感したからこそ言えるが、人間でどうにか出来る存在では無いと思ってしまう。
 俺やアリシエーゼが人間かと問われると首を傾げてしまうのだが、それでもこれに抗えるイメージが全く湧かない。

 それでもアリシエーゼならッ

 今は何方を優先すべきか考えた時、やはりアリシエーゼ以外と言う事になってらしまうのは仕方が無いと自分に言い聞かせながら、此方に気付いて向かって来る魔物の群れを見て舌打ちした。

「チッ、テメェら何かに構ってる暇はねぇんだよッ!!」

 中空を滑空している間にまた襲われるかもと言う思いが脳裏を過ぎるが俺は構わず跳躍した。

 間に合えッ!!

 魔物の群れの頭を飛び越え、群れの中に着地と同時に踏み潰し、目の前の魔物を殴り飛ばしてまた跳躍する。
 周囲からの奇襲を警戒しつつ跳躍していたが、どうにも足元が疎かになっていたらしい。
 それを次の着地からすぐ様の跳躍時に思い知らされた。

「―――ゥッ、おぅッ!?」

 着地してゴブリンの様な何かを踏み潰し、目の前の豚面に前蹴りを喰らわせて数体纏めて吹き飛ばす。
 左右の魔物にも攻撃を加えつつ空いたスペースを使って短い助走でまた跳躍したその時、右脚を突然捕まれて飛び上がっていた状態から反対にそれも急激に引き摺り降ろされる、臓物が身体の中で浮遊する感覚に見舞われて思わず口から素っ頓狂な声が盛れた。

「ガッ!?」

 引き摺り降ろされそのまま地面に叩き付けられ漸く状況を理解する。
 跳躍したその直後、近くに居たオーガが俺の足首を引っ掴み地面に叩き付けたのたが、俺が地面に叩き付けられると周囲に居た魔物が倒れる俺に一斉に群がった。

「グッ・・・あ、ギャッ!?」

 腕を耳を食いちぎられ、片目を抉られる。
 更には俺の上にどんどんと魔物が折り重なっていき、それだけで圧死しそうになるが、手甲の障壁出力を最大にして上にいる魔物を思い切り殴り上げる。更に殴り上げる。

「ぶはッ、痛ぇ・・・なぁッ!!」

 素早く立ち上がり目に付く魔物を殴り、蹴り、噛み付き、そして投げ飛ばして排除して行く。
 全身を殴打され噛みちぎられ、骨折は勿論、外傷と言う面でも正に満身創痍であったが、すぐにそんなものは修復する。

「後で全員漏れ無くぶち殺しやるから覚えてろよッ!」

 俺はそんな捨て台詞を吐いてまた跳躍してその場を離れ様とするが、あるものが目に止まり、動きを止める。
 確かに俺に群がって来ていた魔物は多数存在したのだが、俺に相対する魔物の群れとは別に此方に見向きもせずに山になって何かに群がる集団も、俺が暴れるその直ぐ横に存在している事に今更になって気付いたのだ。

 俺の動きが止まった事を良い言葉に、どんどんと襲い掛かって来る奴らを意識せずに蹴散らし、俺はその別の山に目が釘付けになった。

 何に群がってる?

 お互いを蹴落としながら山の内部に進んで行こうと藻掻く魔物を外側から剥がしに掛かった。

「お前らッ、何ッ、やってんだッ!!」

 剥がしては別の所から魔物が飛び付いて来て、またそれを剥がして殺すがまた別の魔物がとキリが無い。
 俺の背後から襲い掛かって来る魔物の攻撃を受け、その度に動きを止めてそれの対処をする。
 振り返ると山がまた大きくなっている。
 本当に埒が明かなく、苛立ち焦った。

「退けよッ!お前らッ!!」

 俺は渾身の力と障壁を拳に込めて、目の前の魔物の群れへと解き放つ。
 目の前に積み重なる様に蠢く魔物の山の一部が俺の打撃で爆散し、肉と臓物を辺りに撒き散らす。
 俺はそのままもう一撃山に狙いも定めず拳を繰り出したが、仲間である魔物が肉塊にされていく今この時も、そんな事には脇目も振らずに一心不乱に山の奥へと唯、妄進するクソ虫共に俺は我慢の限界を迎えた。

「退けって言ってんだろうがッ!!!」

 と言うか、我慢などとうに出来ていなかったのだろうが、感情が吹き出した。
 左右のフックで魔物を吹き飛ばし、腕を一振りすれば数体の魔物が山から剥がされて飛んでいき、爆散する。
 何度も何度を拳を振るい、その隙間を縫う様に後ろから俺を狙って襲い掛かる魔物の攻撃を寸での所で交わしてその場でクルリと相手の背後に回り込んでバックハンドブローを叩き込んで、山になっている魔物諸共屠っていく。
 何度と無く山を崩しに掛かりら漸く後数体の魔物になるまで漕ぎ着けるが、魔物と魔物の間に見え隠れするものが、嫌でも目に付き怒りで我を忘れそうになった。

「誰だッ!テメェらッ、誰を殺したぁぁッ!!」

 見え隠れする両脚はピクリとも動かない。
 目の前の二体を纏めて左脚で蹴り飛ばし、残りも拳を叩き込み殺す。
 いつの間にか周囲の魔物は俺達を取り囲んではいるが、俺に恐怖を感じたのか向かっては来なかった。
 恐る恐る動かぬ脚の持ち主に近付くと直ぐにそこに横たわるのが三人だと分かった。

「―――ぁ、ぁぁ・・・」

  三人の内二人の遺体は激しく損壊していた。
 両腕はもがれ、首から上も無くなっているし、残った身体も鎧は一部剥がされて胴体も臓物が引き抜かれている途中だった。
 鎧は一部残っていた為、騎士では無く傭兵である事が分かった。
 もう一人、脚が見えていた人物に目を向ける。
 此方は、片腕は無くなっていたが他は無事―――と言う言葉は適切では無いのだが、喰われて無くなっている訳では無さそうだった。
 ゆっくりと近付くと、手足は無事でも他が酷い事に気付く。

「ぅッ、酷ぇ・・・」

 うつ伏せになっている遺体は俺の位置からは後頭部が見えていたが、その後頭部は頭蓋が半分程無くなっていて、その中身が一部飛び出ている。
 此方からは顔は見えていなかった為誰かは判断出来なかったが、明らかに体型的にも髪の長さ的にも女性だった。

 顔が見えて無くても、傭兵で女で、明るいブロンドの髪が長い奴なんて俺は一人しか思い浮かばなかった。

 そんなまさか

 初めて会った時も敵意剥き出しだったし、このアタックでも大して絡みも無かった筈の想像する人物で無い事を願いつつ俺は顔を確認する為反対側に回り込む。

 ファイは知って―――ファイに何て報告すれば

 震える脚を拳で殴り付け解して俺は倒れている遺体の顔を確認する。

「ッ!?」

 あぁ・・・
 やっぱりな・・・

 そこには目が虚ろで涙を流しながら息絶えているディアナの変わり果てた姿があった。

「・・・・・・・・・」

 俺はそっと跪き、遺体を仰向けにする。
 前半分はあまり損壊はしていない様でそれを確認して何故だか少しホッとした。
 開いたままの目を閉じさせ様と、右手をそっと瞼に添えて下に下ろす。
 映画なんかでよくあるアレだが、一度では閉じてくれず俺は二度、三度と繰り返した。

「あ、あれ、おかしいな・・・ハハッ、テレビで見るより難しいじゃねぇかよ」

 少し右手が震えているのに気付き、左手で右手を抑えて震えを抑え込む。
 右手の親指と人差し指を使って強めに瞼を抑えながらやると漸く瞳は閉じてくれた。
 目を瞑るだけで何となく安らかな顔になったので良かったと思いながら俺は立ち上がる。
 同時に辺りを少し見回すと、ここからそう離れていない場所に魔物が山になって群がっている箇所が何個か確認出来た。

 一度、ディアナの遺体に目を落とし俺は小声で呟いた。

「・・・俺が魔法でも使えればこの場で簡易的な火葬でもしてやれて、これ以上、死体を弄ばせる事もアンタの尊厳を貶める事もさせない様に出来たんだが・・・・・・すまん、このままにして行く。でも必ず―――」

 俺はそこまで言った後、徐ろに前に群がる魔物を見つめる。

「仇は取ってやるッ!!!!!」

 その瞬間、俺は全力で魔物へと肉薄した。
 太腿が、脹脛が損傷しようとお構い無しに全身全霊を持って一動作を行った。
 目の前の魔物の顔面を鷲掴みにしてそのまま頭から地面に叩き付ける。
 一撃で頭がトマトの様に潰れ絶命する魔物の腹に手刀を叩き入れ、中の臓物を引き抜く。
 ブチブチと音がして感触が手から伝わるが、俺はそれに眉一つ動かさずに引き抜いた臓物を周りの魔物に投げ付ける。
 そしてまた別の魔物に瞬時に肉薄して今度は飛び込んだ勢いのまま左手を魔物の腹に突き刺して臓物を掴んで引き抜き。そのまま前蹴りで魔物を吹き飛ばしてまた引き抜いたものを周りに投げ付ける。

 そうやって何度か丁寧に魔物を殺して進んで行くと、いつの間にか辺りの魔物が襲って来なくなった。
 恐れを為していたのだろうが、それはあくまでこの中でも低位の魔物だ。
 強い個体はそんな恐怖を乗り越えて襲い掛かって来るが、俺はそれを全力でぶち殺した。
 死んでも殴り、死んだ後も殺した。

「テメェら必ず殺してやるからよ、震えて待ってろや」

 そう言い残して、俺はまだ見えている黒い光の元へと向かった。

 まだ光ってるって事は活動限界では無いって事で、まだ仲間が戦ってるかも知れない!
 先ずは生存者が優先だ!

 あの他の魔物が群がって出来ている山の下で身体を貪り喰われているのが誰なのか。
 自分の仲間ーーー家族であると言う可能性を頭から敢えて排除して走った。
 割と近くであの巨人が三匹暴れているが関係無い。

 絶望と言う名の怪物の足音が、ヒタヒタ、ヒタヒタと忍び寄って来るのを自覚しながら俺は唯々、走った。
 全ての想いを振り切る様に闇雲に走った。
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