異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第155話:落下物

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「ぉぉおおおおッ!!」

 俺は雄叫びを上げながら前方に居る魔物の群れを兎に角蹴散らして行く。
 時折、背中や腕を抉られるが、一切気にせずに突き進む。

 明莉達と何とか合流出来て気持ち的に少し余裕を持てる様になったが、状況は相変わらず最悪だった。

 後はアリシエーゼとアルアレか・・・

 アリシエーゼは何処かで暴れていて元気な気がするが、アルアレが非常に心配だった。
 もし一人だけだった場合、生き残るの無理では無いかと思ってしまう。

 アリシエーゼと一緒に居てくれていたら・・・

 そんな淡い希望を心の中に仕舞いつつ、周囲の敵を出来るだけ多く殺して回るが、圧倒的な物量を前に焼け石に水状態だった。
 アリシエーゼは呼べば飛んで来そうだが、もしアリシエーゼとアルアレが一緒では無いと考えると、一秒でも早く先ずはアルアレを見付けておきたかった。

 どうするか・・・

 ただ、俺達も闇雲に進んで行く訳にはいかないし、一応隊列を組んで対処しているが、これが何時まで上手くいくかは分からない。
 俺は仕方無いと一旦足を止め、目の前の敵を殴り、顔を吹き飛ばして残った胴体を前蹴りで吹き飛ばす。
 足を止めた俺を見て、仲間達は怪訝な表情をするが俺に話し掛けている暇が無く、必死にとめどなく襲いかかって来る魔物や悪魔の群れに対処している。

 仲間の様子を少し窺っているだけで、先程魔物を吹き飛ばして空いたスペースを別の魔物が埋め、左右から同時にボロボロの外套を纏った屍食鬼グールが二匹飛び掛って来た。

 素っ裸じゃないんだな

 そんな事を思いながら屍食鬼が俺へと接触する間際にその場で飛び上がり攻撃を回避しつつ飛び上がりの落下からの脳天へとかかと落としで一匹の頭部を蹴り潰す。
 着地と同時に残りのもう一匹が腕を伸ばしていたのでその腕を無理矢理引っ掴み、背負い投げの様に投げ頭部から叩き落とす。
 地面に頭から激突した屍食鬼は短い呻き声を上げるが、俺は構わずに二度、三度と同じ様に腕を持って屍食鬼を地面へと叩き付ける。
 完全に絶命した屍食鬼を力の限り近付いて来る魔物に向けて投げ付ける。

 迷ってる暇は無い!

 俺は意を決して近くの魔物を殴り飛ばしてから大きく息を吸い込む。

「アリシエェゼェェッッ!!!!」

 アリシエーゼにより変えられたこの身体は肺活量等も強化されているのかは分からないが、以前よりも声量が大きくなったと自分でも思う。
 そんな有難い様な有難く無い様な能力を駆使して叫んだ声は、魔物で埋め尽くされ、騒音に近い喚きに満ちた場所にも木霊した。

 すると、俺が叫んだ数秒後、少し離れた場所で微弱な振動を伴って、ドォォンッと言う音が聞こえて来たので、その方向に目を向ける。
 そこには天井に届きそうな勢いの火柱が上がっているのが見て取れて、俺はアリシエーゼだと直感した。
 だが、俺達の居る今の位置よりも更に入口の門から離れているのを鑑みると、其方に向かうかは戸惑った。

 とりあえずこっちの位置も知らせるか

 俺はそう思ってユーリーへと叫ぶ。

「ユーリーッ、こっちの位置が分かる様な派手な魔法直ぐに放てるか!?」

「・・・ウン」

「やってくれ!」

 俺がそう言うなりユーリーはその場で目を閉じる。
 直ぐにその隙を付いて魔物が殺到するが、モニカと俺は上手く連携してユーリーを護る。
 先程のク●イク発動よりも大分短い精霊との対話でユーリーの準備が整い、俺の合図を待たずに直ぐに魔法を発動した。

「・・・・・・」

 何も言わずにユーリーは地面をコツンと持っている杖で叩く。
 すると次の瞬間、俺達の直ぐ近くの魔物の集団の中で電柱程の太さの火柱がドンッ、ドンッ、ドンッと三本立ち上がった。
 すぐ近くだった事もあり、火柱の熱が顔を炙る。
 顔を背けつつ、後ろから迫る魔物に回し蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 これでアリシエーゼも此方の位置に気付きはした筈だと思いどうするか思案しようとしていると、上方から何かが此方に向けてもの凄い勢いで飛んで来るのを偶然目にする。

 何だ??

 魔物がひっきりなしに今も襲いかかって来るこの状況下で、ずっとそれを凝視している訳にもいかず、チラチラと確認しながら魔物の対処を行う。
 此方に向かって来る何かは放物線を描き、丁度着地地点は先程ユーリーが放った火柱の辺りかと思った所で俺の人間離れした視力がその何かが何であるかを正しく判断した。
 いや、判断したのは脳であって、目では無いかと思ったが、そんな事を思ったのはきっと混乱していたからだろう。

「オイッ!オイオイオイ!?オイィィィッ!!」

 俺は誰にとも無く叫んで目の前のオークを蹴り飛ばす。
 兎に角落下物の着地地点にとその場を離れ駆け出したが、間に合いそうも無いと分かり舌打ちをした。

「無茶苦茶だろッ!?」

 俺がそう言った瞬間、目の前に落下する
 ドカーンともの凄い音を立ててアルアレは地面に叩き付けられて数メートル程転がった。
 魔物達も突然飛来した人間に一瞬動きが止めるが、俺は分かってはいたので直ぐに辺りの魔物を排除ながらアルアレに駆け寄った。
 地面に倒れて身動き一つしないアルアレに内心焦るが、顔を顰めて小さく呻いた事で生きてはいると思い、走りながらアルアレを回収して踵を返す。

「明莉ッ!治して!!」

 直ぐに仲間達の元へとアルアレを運び入れ、俺は外側へと飛び出し近くの魔物へと飛び蹴りを放った。
 俺が突然運んで来たアルアレに明莉だけでは無く他の誰もが驚いていたが、明莉はアルアレの状態を見て直ぐに気持ちを切り替えていた。

 強くなったなぁ

 そんな親心なのか何なのかは分からないが、感慨深い気持ちになりながら魔物の死体の山を築いて行く。
 一箇所に留まり過ぎたと思い、アルアレが前線に復帰したら直ぐに移動を開始しようと思っていると、目の端に金糸雀色かなりあいろの光が見えた。
 明莉の奇跡は直ぐに効果を発揮して、呻き声を上げながらアルアレは立ち上がった。

 よしッ!!

「アルアレッ!大丈夫か!?」

「・・・ゥッ、は、はい」

 頭を振って俺の問いに答えるアルアレだが、きっと混乱しているに違いない。

 いきなり物の様に放り投げられたんだから、そりゃそうか

「よしッ!話は後だ、直ぐに移動する!」

 俺はチラリと入口の門の辺りを見るが、なかなか距離が離れており、小隊規模で突破出来るかは疑問だったが、この場に留まるよりはマシだと直ぐに気持ちを切り替えた。

 門の方から戦闘をしている気配も感じるしな

「門の方に移動するぞ!先頭は俺で道を切り開く!殿はナッズとソニだ!」

 そう言って仲間達の返事も聞かずに魔物の群れへと飛び込んだ。

 大丈夫、此奴らは付いて来てくれる!!
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