異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第153話:宴

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 俺達はフェイクスに続いて、明莉の元へと二手に割れている魔物の群れの間を無言で歩いて行く。

「お前は一体、何に対して感情が振れるのだ?」

 前を歩くフェイクスが顔だけ此方に向けて突然話し掛けて来たので、俺は少し驚いたが表情を変える事無く対応する。

「何って言われてもな・・・嬉しいときは喜ぶし、ムカつく時は怒るし、楽しい時は笑うぞ」

「そうでは無く、お前の魂が特段に反応する時はどんな時だと聞いているんだ」

「・・・そんなの知らねぇよ。魂とか、何だってんだ」

 此奴が何を言いたいのか理解出来なかった。
 魂とか言われても俺には分からない。

「歓喜した時か?それとも慨嘆した時か?」

「・・・・・・」

 そんな意味の分からない質問をスルーしつつ進んで行き、明莉の居る場所へと辿り着く。
 フェイクスは明莉を囲っている鎧を着込んだ、レッサー・デーモンの様な悪魔を一瞥すると、一匹がスッと横にズレる。

「明莉ッ」

 俺は明莉の名前を呼び、こっちに来いと手を伸ばす。
 それを見て明莉は周囲を気にしながらゆっくりと此方に歩き出した。

「お前の協力は残念だが、諦める事にする」

 フェイクスは横を通り過ぎる明莉を目で置いながら俺にそんな事を言った。

「・・・そうかい。しつこくて参ってた所だ。ありがとよ」

「その代わりと言っては何だが、今から宴を開く。異論は認めない」

 は?

「宴・・・?どう言う事だ」

「宴を開始する」

「ちょ、ちょっと待―――」

「「「「「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 ッ!?

 フェイクスの突然の宴とやらの開始宣言に、周囲の魔物達が一斉に雄叫びを上げる。
 その声は命の限り叫ぶ咆哮であり、外側へと徐々に広がっていく。
 自身の脚を地に打ち付け、ダンッ!ダンッ!と激しい音を響かせ、まるで宴の開幕を報せるファンファーレの様に、酒場で傭兵達が陽気に歌い出す何処かの民族音楽の様でもあった。
 そんな地を揺らす、咆哮と地団駄に合わせるかの様に、まるで事前にそう示し合わせていたかの様に魔物の軍勢は移動を開始した。

「な、何なんだ!?」

 俺の叫びは魔物の咆哮に掻き消される。
 丁度その時に明莉が俺の前まで辿り着いたので、無理矢理手を引き、俺の後ろへと匿う。
 仲間達も明莉を中心に自然と円形の防御陣形を整えてくれるのは有難かった。

「一体何が始まるんだ!?」

「分からんッ!じゃが、一旦下がった方が良さそうじゃ!!」

 周囲が煩くて、俺達は大声でやり取りをするが、魔物達の歓喜の歌は治まりそうに無い。
 周囲を素早く確認するが、俺達とファイ達の間にいつの間にか大量の魔物が入り込んでおり、分断されてしまったことに気付く。
 それを認識してマズいと思った時には既に俺達は完全に包囲されてしまっていた。

 今からでも無理矢理突破してファイ達に合流するか?

 そう考えはするが、なかなか行動に移せずにいた。情けない話だが、完全に雰囲気に飲まれていたのだ。
 魔物の群れは今にも飛び掛かって来そうな程興奮しており、また距離もかなり近い。
 ゴブリンやオーク、コボルトの上位種は勿論の事、オーガにトロール、屍食鬼グールも居るが、一見して通常種とは思えない様な外見をしており、この魔界で生きて行くには相応しい強さを身に付けている者達だと言う事は明らかだった。
 魔物の種類はそれだけでは無い。
 見た事も無い魔物も数多く居るが、今はそれらを備に観察している暇は無いので、記憶に留めるだけにしておく。
 幾重もの層となって取り囲む魔物の集団は未だに雄叫びを上げたり、武器を打ち付けたり、脚を地面に叩き付けたりして俺達を圧倒する。
 何時襲い掛かって来るのか。そんな恐怖が仲間達を支配し、精神を摩耗させて行く。

 どれくらいの時間その場で警戒していたのか分からないが、魔物達の咆哮か突然ピタリと止んだ。
 それと同時に謎の神殿の方角、先程明莉が居た辺りだろうか、その辺りから地響きが鳴り響く。
 ゴゴゴと音を立てて、地面が盛り上がり、小高い岩山を形成して高さを増して行くその頂上にフェイクスが立っているのを視認するが、突然の出来事で俺は見入ってしまった。

 ある程度まで岩山が形成されるとピタリと岩山生成が止まり、それと同時に魔物達の咆哮なども止んだ。

 ・・・・・・

 否が応でも緊張感は高まるが、それを知ってか知らずか、フェイクスは軽い口調で言った。

「お前の協力を得るのは諦めた。が、それでもお前達には利用価値がある。存分に足掻いて見せろ。最近ではここ迄辿り着く者も極端に少なくなってしまってな。此奴らも飢えているのだよ」

 何にだよ

 そんな事を思ったが、俺は口には出せなかった。
 これから起こるであろう事を想像すると焦りしか生まれない。

「出来ればお前の魂は甘美なものになって欲しい。お前の魂が一番熟れるのはどの感情と交わった時なのだろうと考えてな、観察していたがやはりこれが一番だろう―――」

 そこまで言ってフェイクスは一度言葉を切る。
 俺を見詰めながら話す顔は無表情であったが、それが突然変化する。

「―――絶望」

 グニャリと顔を歪めて言うフェイクスだが、これは笑っているのだろうか。

「・・・・・・」

「お前の魂を絶望で染めてやる。お前は良い素材になりそうだ。この間は失敗してしまったが、次は何と掛け合わせてやろうか。もしかしたらお前はそのままでも至れるかもしれないがな」

 素材?

 その言葉を聞き、 隼人を思い出した。そして繋がるが、そう言い終わったフェイクスは突然ゲラゲラと笑い出した。
 何だ?と思っていると、周囲の悪魔や魔物も同じ様にゲラゲラと笑い出す。
 直ぐに全体に広がり、耳障りな騒音へと変わる。
 笑い声だけで大気が震え出す様な感覚が身体に纏わり付き、俺は顔を顰める。

 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ―――

 嗚呼ァァァァアアアアアッッ!!!!
 煩ぇッッ!!!!

「煩ぇぇんだよッッ!!!テメェ!!掛かって来いよ!!テメェなんか―――」

「開演」

 俺に最後まで言わせずフェイクスは宴とやらの開始を宣言した。
 その瞬間、俺達を絶望で満たし魂を穢す、悪魔の儀式が始まった。
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