146 / 335
第4章:偽りの聖女編
第146話:閉門
しおりを挟む
「ぉぉぉおらッ!!」
上空からかかと落としを一際巨体が際立つオーガの脳天へと叩き込む。
グシャリと音がするが、これは俺の骨が砕ける音では無い。
俺の足はデス隊がどうやって手に入れたのかは不明の黒魔泥コーティングが施されたブーツを装備している。
これの対衝撃性能は凄まじく、どんな落下衝撃も、衝突衝撃も粗粗無効化してしまう。
勿論、そのブーツに保護されていない太腿などは先程の様に損傷したりはするが・・・
もう治ってるから問題、無しッ!
頭を破壊したオーガの最後を確認する事無く、続いて飛び出して来たこれまた身体が通常種の二倍程有りそうなオークへ瞬時に肉薄して、篤手製のミスリル製の手甲でガラ空きだった横っ腹に左ボディアッパーを捩じ込む。
オークは金属製の鎧を着込んでいた為、手甲と接触すると甲高い金属音が響くが、それと同時にまたしてもグシャリと鈍い音も響き渡った。
このミスリル製の手甲は魔力の自然吸収率を爆増させており、かつミスリルの新の特性となる精神に反応する様に魔導回路を組み込んでいる為、魔力の無い穢人の俺でも念じるだけで魔力障壁等の出力を自在に変化させられる。
そんなとんでもない能力を秘めた手甲に三割程の力を込めるイメージをして振り抜いた拳は、あまり手応えを感じさせずに着込んでいた鎧ごとオークの胴体を根こそぎ穿つ。
すっげ・・・
その思いもよらぬ威力に舌を巻きつつ、心の中でほくそ笑む。
拳に伝わる衝撃が殆ど感じられない事に違和感はまだ残るが、それもその内慣れるだろうとたかを括り、俺は続けて腹を穿ったオークの後ろに続いていたもう一匹のオークに飛び掛る。
目の前の仲間のオークが突然前のめりに倒れたかと思うとその影から小さい人影が飛び出して来た事に驚き、身体が一瞬硬直する。
その隙は見逃さない。左ローでオークの右脚をへし折り、上体が下がった所にすかさず右フックを顔面に叩き込んだ。
断末魔すら上げずに事切れるオークに一瞥すらせず、素早く辺りを確認する。
「右翼が差し込まれそうだ」
そうボヤいて一足跳びにそちらに向かう。
途中、上を見るとまだアルアレの魔法効果は続いている。
この魔法にも注意しないと・・・
俺にまで攻撃が来たらたまらん
上を注意しつつ右側に展開し始めた小規模な魔物の群れに近付き、上空に飛び上がってから落下の速度と体重を乗せて屍食鬼の群れの一体を頭から叩き潰す。
着地と同時にまた飛び上がり前に居る屍食鬼へと浴びせ蹴りの要領で右脚を鎌の様に屍食鬼の左肩から袈裟斬りにする様に振り抜く。
ブチブチ、グシャグシャと肉や骨を断つ音を右から左に聞き流しながら横を抜けそうになった屍食鬼を視認して追撃を行おうとするが、目の上辺りに眩しさを感じて飛び退いて別の一体へと後ろ回し蹴りを胴体に当てる。
蹴りを喰らった屍食鬼はまるで弾丸の様に真後ろへと飛んで行き、別の魔物とぶつかり爆散した。
追撃を行おうと思っていた屍食鬼を見るとアルアレの魔法で頭を貫かれて絶命していたので次のターゲットを探す。
「グボォォアアアッ!!!」
左の方で地を震わすかの様な咆哮を上げる大きな魔物を見付け、間髪入れずにそちらに向かった。
おいおい、これってトロールか?
咆哮を発した巨体は近付くと見上げる程の体長で優に五メートルを超えており、腕は長く四肢は異様に発達していて、まるで大木の様だった。
トロールってイメージでは体毛とか無くツルツルだったけど・・・
巨体で体毛は無く、頭も髪などは生えていない。
毛皮の原始的な衣服を身に付けて木製の棍棒を携えている。
そんなイメージを抱いていたトロールだが、目の前のそれは、筋肉質で巨体は間違ってはいないが、全身毛むくじゃらで手には岩を削り出したのだろうか、ゴツくて長い岩を携えている。
それに・・・
何で真っ裸なんだよ!!!
屍食鬼と言い、この魔界の魔物は結構な確率で衣服を身に付けてはおらず、それが何を意味するのかは分からないが、不愉快極まりない。
俺は内心で舌打ちをしながらトロールへと肉薄し、先ずは足を止めさせようと迫る勢いを殺さずに飛び蹴りをお見舞いした。
「―――ォッガァッ!?」
足元の小さい存在など気にも止めてなかったのか、トロールは俺が接近していた事に気付かずに真面に飛び蹴りを膝の辺りに喰らい、低音の悲鳴を上げてその巨体を地に倒した。
多少、障壁は硬かった気はするが、別に大した事は無いな・・・
俺は拍子抜けしつつも、腕の支えでどうにか完全に倒れずにはいたトロールのその支えとなる腕にも攻撃を加えると、支えを失ってトロールは完全に倒れ込んだ。
流れる様に頭部の辺りに移動して、ただただ無心でその頭に一発、二発と打撃を加えて行った。
一発毎に頭部を破壊し、確実にその命を削って行く俺に対しトロールは何の抵抗をする事無く、三発程で全く動かなくなった。
最後に俺は四発目を半分以上砕け飛んだ頭部の残りの部分へと叩き込んで首無しトロールを完成させた。
アルアレの魔法は、オーク位の魔物には有効だが、今のトロールや、オーガの上位種等には致命傷を与える事が出来なかったり、素早い動きの屍食鬼には避けられたりするので、何だかんだ抜けてくる魔物は居る。
が、屍食鬼が抜けて行って門まで辿り着こうが、大量で無ければアリシエーゼやファイが苦も無く排除出来ると思ったので、俺は大型の厄介そうなトロール等を中心に狙う事にした。
そこからアルアレが放った殲滅魔法の効果が終わるまでの間、俺は暴れ続けた。
殴って蹴って、飛び上がり蹴って、避けて飛び掛かり、手や足だけで無く、肘や膝等も使い縦横無尽に駆け回った。
気が付けば、辺りには大量の魔物の遺骸が散乱しており、宛らハリケーンが通過した後の様だった。
アルアレの殲滅魔法も既に終わってるか
俺は上を確認してそして門の方へ振り返る。
既に殆ど皆門の中へと入っており、皆が俺を呼んでいた。
三小隊程が門の外で俺が取りこぼした魔物を処理していたが、その中にはファイと騎士に護られているイリアの姿もあった。
そろそろ合流するか
そう思って俺は門の方へと走り出す。
その際に後ろを見遣ると既に通路の奥、十四層のフロアの方に溜まっていた魔物がどんどんと広場の方へ向けて動き出しているのを感じたが、その数はやはり多い。
俺が広場の中央辺りに差し掛かると、広場全体に鳴り響く石材と石材を擦り合わせる様な地響きに似た音が聞こえて来た事に俺は眉を寄せた。
「何の音だ・・・?」
俺は走りながら広場の周囲をキョロキョロと見るが、特に変化は感じ無い。
が、門の方から仲間達が何か俺に向けて言っているのが聞こえて来る。
何だ?と思い見ると、ファイやイリア、他傭兵達が頻りに俺に大袈裟な手招きをしていた。
何か言ってるな
俺はまさか後ろから何かが迫って来ているのか?と思い慌てて立ち止まり後ろを振り向くが、見た事のある魔物が通路の奥から溢れ出して来るだけなのを確認して、自分の考えが間違いである事を知る。
また門の方を向き走り始めようとした時、先程とは何かが違う様な気がしたが、とりあえず走り始める。
さっきから変な音してるし何なんだ?
門の方で相変わらず焦った様に手招きをする奴らを見ている内にある事に気付く。
あ、あれ・・・?
何か門閉まって来てね・・・?
広場に鳴り響く地鳴りの様な音が門の閉まる音だと気付くが、そもそも門が開いた時はこんな音だったか?思ったが、それよりも門が閉じていっている事実の方が問題だ。
ちょっと、まだ門まで距離が結構あるんですが・・・
焦って走る速度を少し上げるがそもそも身体強化も出来ず、魔力障壁も張れない俺はこの不死者としての能力を十全に扱えない。
今もかなり身体が壊れないギリギリの所で頑張っているのだが、間に合うかどうかと言った所か。
「―――早くッ!早く来なさいッ!!」
「ハルッ!!」
イリアとファイが門と広場のギリギリの所で此方に向かい叫んでいるのに気付く。
早くこっちに来いと腕を降っているが、周りに抑えられ助けには来られない様だ。
ってかイリア、そんなに叫んで大丈夫か・・・?
魔法は維持しているんだろうな?
等と関係無い事を考えるが、現実逃避かも知れない。
門の大きさは本当に巨大で、近付いたら分かるが、先程のトロールの倍以上はありそうだ。
横幅も十メートルはありそうだし、これがもし閉まって閉まったら自力で開けられそうには無いし、壊すのも難しいかもしれない・・・
そんな巨大な門に近くまで来たが門の扉はかなり閉まって来ていた。
いやいやいやッ!マジで閉まっちゃわない!?
意味が分からなかった。突然現れた悪魔だろうあの人物が現れ門が開いたので、悪魔側が開閉を制御しているのだろうが、悪魔の狙いはそもそも俺では無かっただろうか?
そのターゲットである俺を締め出す?何で??
え、頭悪くね?
後ろから迫る魔物の群れはまだ少し距離があるが、確実に迫って来ている。
門が閉められるなら確実に閉めて門の中に退避する状況ではある為、イリアとファイが飛び出して行きそうになっているのも周りが必死で羽交い締めにして止めている状況を何故か他人事の様に見つめ、そして周りのその行動にも納得するが、ここで何か頭の中で今まで感じた事の無い類の情報の奔流が駆け巡る。
「ちょッ、まッ!あ、いや、マジで?」
目の前にはもう締まりかけている門の扉が見えて、その隙間から、ファイやイリア、他の傭兵達が見える。
まだ俺は門の手前、後十歩程の距離にいる。
手を伸ばすが届かない。皆が何か叫んでいるが、もう何を言っているのかを理解する暇も無いが、門の中から手を伸ばしている。
その手を取ろうと藻掻くが、まだ届かない。扉はその間も徐々に閉じて行く。
間に合わないッ
そう思うと何故か急に耳鳴りの様な、耳の奥の更に奥の方でキーンと言う音が静かに聞こえて来た気がするが、それに気付くと自分が体感している時間そのものがとてもゆっくりなものに感じた。
スローモーションの世界の中で閉じ行く扉の隙間の更に奥にふと目が行く。
無意識であったが、その視線の先にはアリシエーゼが居た。
アリシエーゼは何故かふんぞり返って無い胸を張り、自信に満ち溢れた様な、そんな所で何やっている、早く来いと言っている様なそんな表情だった。
その表情を見た瞬間、耳鳴りが止み、見ている景色が一変する。
なん、だ、これ・・・
それはまるで無機質なゲームの世界の様な、そのゲームの作成者側の様な、そんな感覚に陥る景色だった。
俺の視界に映る全てにグリッド線の様な物が現れたのだ。
平面で展開されている訳では無く、立体的と言うか、奥に行く程そのグリッド線で囲まれた一つ一つの四角は小さくなっており、パースが効いている。
グリッド線のマスの先、十三個目にアリシエーゼが居る。
そう思った瞬間、この現象の全てを理解する。
それと同時に扉の隙間が一センチ程になり、程無くして完全にズシンと言う激しい音を立てて閉じた。
暗かった。そして次の瞬間、もう明るかった。
扉が閉じる瞬間、俺の視界はブラックアウトし、浮遊感を感じた刹那、目の前が明るくなる。
目の前にはアリシエーゼが居た。俺は、アリシエーゼの目の前に片膝を付き、跪く形となっていたが、もう分かっている。
「・・・出来た」
「・・・うむ」
俺の呟きにアリシエーゼは優しく微笑み、そして俺の頭を抱える様に抱き締めた。
出来ちゃったよ、影移動ッ
上空からかかと落としを一際巨体が際立つオーガの脳天へと叩き込む。
グシャリと音がするが、これは俺の骨が砕ける音では無い。
俺の足はデス隊がどうやって手に入れたのかは不明の黒魔泥コーティングが施されたブーツを装備している。
これの対衝撃性能は凄まじく、どんな落下衝撃も、衝突衝撃も粗粗無効化してしまう。
勿論、そのブーツに保護されていない太腿などは先程の様に損傷したりはするが・・・
もう治ってるから問題、無しッ!
頭を破壊したオーガの最後を確認する事無く、続いて飛び出して来たこれまた身体が通常種の二倍程有りそうなオークへ瞬時に肉薄して、篤手製のミスリル製の手甲でガラ空きだった横っ腹に左ボディアッパーを捩じ込む。
オークは金属製の鎧を着込んでいた為、手甲と接触すると甲高い金属音が響くが、それと同時にまたしてもグシャリと鈍い音も響き渡った。
このミスリル製の手甲は魔力の自然吸収率を爆増させており、かつミスリルの新の特性となる精神に反応する様に魔導回路を組み込んでいる為、魔力の無い穢人の俺でも念じるだけで魔力障壁等の出力を自在に変化させられる。
そんなとんでもない能力を秘めた手甲に三割程の力を込めるイメージをして振り抜いた拳は、あまり手応えを感じさせずに着込んでいた鎧ごとオークの胴体を根こそぎ穿つ。
すっげ・・・
その思いもよらぬ威力に舌を巻きつつ、心の中でほくそ笑む。
拳に伝わる衝撃が殆ど感じられない事に違和感はまだ残るが、それもその内慣れるだろうとたかを括り、俺は続けて腹を穿ったオークの後ろに続いていたもう一匹のオークに飛び掛る。
目の前の仲間のオークが突然前のめりに倒れたかと思うとその影から小さい人影が飛び出して来た事に驚き、身体が一瞬硬直する。
その隙は見逃さない。左ローでオークの右脚をへし折り、上体が下がった所にすかさず右フックを顔面に叩き込んだ。
断末魔すら上げずに事切れるオークに一瞥すらせず、素早く辺りを確認する。
「右翼が差し込まれそうだ」
そうボヤいて一足跳びにそちらに向かう。
途中、上を見るとまだアルアレの魔法効果は続いている。
この魔法にも注意しないと・・・
俺にまで攻撃が来たらたまらん
上を注意しつつ右側に展開し始めた小規模な魔物の群れに近付き、上空に飛び上がってから落下の速度と体重を乗せて屍食鬼の群れの一体を頭から叩き潰す。
着地と同時にまた飛び上がり前に居る屍食鬼へと浴びせ蹴りの要領で右脚を鎌の様に屍食鬼の左肩から袈裟斬りにする様に振り抜く。
ブチブチ、グシャグシャと肉や骨を断つ音を右から左に聞き流しながら横を抜けそうになった屍食鬼を視認して追撃を行おうとするが、目の上辺りに眩しさを感じて飛び退いて別の一体へと後ろ回し蹴りを胴体に当てる。
蹴りを喰らった屍食鬼はまるで弾丸の様に真後ろへと飛んで行き、別の魔物とぶつかり爆散した。
追撃を行おうと思っていた屍食鬼を見るとアルアレの魔法で頭を貫かれて絶命していたので次のターゲットを探す。
「グボォォアアアッ!!!」
左の方で地を震わすかの様な咆哮を上げる大きな魔物を見付け、間髪入れずにそちらに向かった。
おいおい、これってトロールか?
咆哮を発した巨体は近付くと見上げる程の体長で優に五メートルを超えており、腕は長く四肢は異様に発達していて、まるで大木の様だった。
トロールってイメージでは体毛とか無くツルツルだったけど・・・
巨体で体毛は無く、頭も髪などは生えていない。
毛皮の原始的な衣服を身に付けて木製の棍棒を携えている。
そんなイメージを抱いていたトロールだが、目の前のそれは、筋肉質で巨体は間違ってはいないが、全身毛むくじゃらで手には岩を削り出したのだろうか、ゴツくて長い岩を携えている。
それに・・・
何で真っ裸なんだよ!!!
屍食鬼と言い、この魔界の魔物は結構な確率で衣服を身に付けてはおらず、それが何を意味するのかは分からないが、不愉快極まりない。
俺は内心で舌打ちをしながらトロールへと肉薄し、先ずは足を止めさせようと迫る勢いを殺さずに飛び蹴りをお見舞いした。
「―――ォッガァッ!?」
足元の小さい存在など気にも止めてなかったのか、トロールは俺が接近していた事に気付かずに真面に飛び蹴りを膝の辺りに喰らい、低音の悲鳴を上げてその巨体を地に倒した。
多少、障壁は硬かった気はするが、別に大した事は無いな・・・
俺は拍子抜けしつつも、腕の支えでどうにか完全に倒れずにはいたトロールのその支えとなる腕にも攻撃を加えると、支えを失ってトロールは完全に倒れ込んだ。
流れる様に頭部の辺りに移動して、ただただ無心でその頭に一発、二発と打撃を加えて行った。
一発毎に頭部を破壊し、確実にその命を削って行く俺に対しトロールは何の抵抗をする事無く、三発程で全く動かなくなった。
最後に俺は四発目を半分以上砕け飛んだ頭部の残りの部分へと叩き込んで首無しトロールを完成させた。
アルアレの魔法は、オーク位の魔物には有効だが、今のトロールや、オーガの上位種等には致命傷を与える事が出来なかったり、素早い動きの屍食鬼には避けられたりするので、何だかんだ抜けてくる魔物は居る。
が、屍食鬼が抜けて行って門まで辿り着こうが、大量で無ければアリシエーゼやファイが苦も無く排除出来ると思ったので、俺は大型の厄介そうなトロール等を中心に狙う事にした。
そこからアルアレが放った殲滅魔法の効果が終わるまでの間、俺は暴れ続けた。
殴って蹴って、飛び上がり蹴って、避けて飛び掛かり、手や足だけで無く、肘や膝等も使い縦横無尽に駆け回った。
気が付けば、辺りには大量の魔物の遺骸が散乱しており、宛らハリケーンが通過した後の様だった。
アルアレの殲滅魔法も既に終わってるか
俺は上を確認してそして門の方へ振り返る。
既に殆ど皆門の中へと入っており、皆が俺を呼んでいた。
三小隊程が門の外で俺が取りこぼした魔物を処理していたが、その中にはファイと騎士に護られているイリアの姿もあった。
そろそろ合流するか
そう思って俺は門の方へと走り出す。
その際に後ろを見遣ると既に通路の奥、十四層のフロアの方に溜まっていた魔物がどんどんと広場の方へ向けて動き出しているのを感じたが、その数はやはり多い。
俺が広場の中央辺りに差し掛かると、広場全体に鳴り響く石材と石材を擦り合わせる様な地響きに似た音が聞こえて来た事に俺は眉を寄せた。
「何の音だ・・・?」
俺は走りながら広場の周囲をキョロキョロと見るが、特に変化は感じ無い。
が、門の方から仲間達が何か俺に向けて言っているのが聞こえて来る。
何だ?と思い見ると、ファイやイリア、他傭兵達が頻りに俺に大袈裟な手招きをしていた。
何か言ってるな
俺はまさか後ろから何かが迫って来ているのか?と思い慌てて立ち止まり後ろを振り向くが、見た事のある魔物が通路の奥から溢れ出して来るだけなのを確認して、自分の考えが間違いである事を知る。
また門の方を向き走り始めようとした時、先程とは何かが違う様な気がしたが、とりあえず走り始める。
さっきから変な音してるし何なんだ?
門の方で相変わらず焦った様に手招きをする奴らを見ている内にある事に気付く。
あ、あれ・・・?
何か門閉まって来てね・・・?
広場に鳴り響く地鳴りの様な音が門の閉まる音だと気付くが、そもそも門が開いた時はこんな音だったか?思ったが、それよりも門が閉じていっている事実の方が問題だ。
ちょっと、まだ門まで距離が結構あるんですが・・・
焦って走る速度を少し上げるがそもそも身体強化も出来ず、魔力障壁も張れない俺はこの不死者としての能力を十全に扱えない。
今もかなり身体が壊れないギリギリの所で頑張っているのだが、間に合うかどうかと言った所か。
「―――早くッ!早く来なさいッ!!」
「ハルッ!!」
イリアとファイが門と広場のギリギリの所で此方に向かい叫んでいるのに気付く。
早くこっちに来いと腕を降っているが、周りに抑えられ助けには来られない様だ。
ってかイリア、そんなに叫んで大丈夫か・・・?
魔法は維持しているんだろうな?
等と関係無い事を考えるが、現実逃避かも知れない。
門の大きさは本当に巨大で、近付いたら分かるが、先程のトロールの倍以上はありそうだ。
横幅も十メートルはありそうだし、これがもし閉まって閉まったら自力で開けられそうには無いし、壊すのも難しいかもしれない・・・
そんな巨大な門に近くまで来たが門の扉はかなり閉まって来ていた。
いやいやいやッ!マジで閉まっちゃわない!?
意味が分からなかった。突然現れた悪魔だろうあの人物が現れ門が開いたので、悪魔側が開閉を制御しているのだろうが、悪魔の狙いはそもそも俺では無かっただろうか?
そのターゲットである俺を締め出す?何で??
え、頭悪くね?
後ろから迫る魔物の群れはまだ少し距離があるが、確実に迫って来ている。
門が閉められるなら確実に閉めて門の中に退避する状況ではある為、イリアとファイが飛び出して行きそうになっているのも周りが必死で羽交い締めにして止めている状況を何故か他人事の様に見つめ、そして周りのその行動にも納得するが、ここで何か頭の中で今まで感じた事の無い類の情報の奔流が駆け巡る。
「ちょッ、まッ!あ、いや、マジで?」
目の前にはもう締まりかけている門の扉が見えて、その隙間から、ファイやイリア、他の傭兵達が見える。
まだ俺は門の手前、後十歩程の距離にいる。
手を伸ばすが届かない。皆が何か叫んでいるが、もう何を言っているのかを理解する暇も無いが、門の中から手を伸ばしている。
その手を取ろうと藻掻くが、まだ届かない。扉はその間も徐々に閉じて行く。
間に合わないッ
そう思うと何故か急に耳鳴りの様な、耳の奥の更に奥の方でキーンと言う音が静かに聞こえて来た気がするが、それに気付くと自分が体感している時間そのものがとてもゆっくりなものに感じた。
スローモーションの世界の中で閉じ行く扉の隙間の更に奥にふと目が行く。
無意識であったが、その視線の先にはアリシエーゼが居た。
アリシエーゼは何故かふんぞり返って無い胸を張り、自信に満ち溢れた様な、そんな所で何やっている、早く来いと言っている様なそんな表情だった。
その表情を見た瞬間、耳鳴りが止み、見ている景色が一変する。
なん、だ、これ・・・
それはまるで無機質なゲームの世界の様な、そのゲームの作成者側の様な、そんな感覚に陥る景色だった。
俺の視界に映る全てにグリッド線の様な物が現れたのだ。
平面で展開されている訳では無く、立体的と言うか、奥に行く程そのグリッド線で囲まれた一つ一つの四角は小さくなっており、パースが効いている。
グリッド線のマスの先、十三個目にアリシエーゼが居る。
そう思った瞬間、この現象の全てを理解する。
それと同時に扉の隙間が一センチ程になり、程無くして完全にズシンと言う激しい音を立てて閉じた。
暗かった。そして次の瞬間、もう明るかった。
扉が閉じる瞬間、俺の視界はブラックアウトし、浮遊感を感じた刹那、目の前が明るくなる。
目の前にはアリシエーゼが居た。俺は、アリシエーゼの目の前に片膝を付き、跪く形となっていたが、もう分かっている。
「・・・出来た」
「・・・うむ」
俺の呟きにアリシエーゼは優しく微笑み、そして俺の頭を抱える様に抱き締めた。
出来ちゃったよ、影移動ッ
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~
村雨 妖
恋愛
森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。
ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。
半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界でもプログラム
北きつね
ファンタジー
俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。
とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。
火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。
転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。
魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる!
---
こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。
彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。
注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。
実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。
第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ミネルヴァ大陸戦記
一条 千種
ファンタジー
遠き異世界、ミネルヴァ大陸の歴史に忽然と現れた偉大なる術者の一族。
その力は自然の摂理をも凌駕するほどに強力で、世界の安定と均衡を保つため、決して邪心を持つ人間に授けてはならないものとされていた。
しかし、術者の心の素直さにつけこんだ一人の野心家の手で、その能力は拡散してしまう。
世界は術者の力を恐れ、次第に彼らは自らの異能を隠し、術者の存在はおとぎ話として語られるのみとなった。
時代は移り、大陸西南に位置するロンバルディア教国。
美しき王女・エスメラルダが戴冠を迎えようとする日に、術者の末裔は再び世界に現れる。
ほぼ同時期、別の国では邪悪な術者が大国の支配権を手に入れようとしていた。
術者の再臨とともに大きく波乱へと動き出す世界の歴史を、主要な人物にスポットを当て群像劇として描いていく。
※作中に一部差別用語を用いていますが、あくまで文学的意図での使用であり、当事者を差別する意図は一切ありません
※作中の舞台は、科学的には史実世界と同等の進行速度ですが、文化的あるいは政治思想的には架空の設定を用いています。そのため近代民主主義国家と封建制国家が同じ科学レベルで共存している等の設定があります
※表現は控えめを意識していますが、一部残酷描写や性的描写があります
世界⇔異世界 THERE AND BACK!!
西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。
友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。
しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。
「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」
これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。
週一、不定期投稿していきます。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる