異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第137話:作成準備

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 午前中から始まった騎士団の屋敷での話し合いで一週間後に再アタックが決まり、情報共有も滞りなく終わった。
 ただ、話し合いが終わり外に出てみると、太陽は既に中天には無く傾き始めていた。

「マジかよ・・・もう夕方前くらいか?」

 俺の溜息混じりの物言いにアリシエーゼがつまらなそうに返す。

「仕方無かろう。お主がを望んだんじゃ。それくらい我慢せえ」

「まぁ、そうなんだけどさ・・・」

 俺は能力を使わず対話を望んだ。
 豚聖女の言動に面倒臭くなって能力を使おうと思った事は一度や二度では無いのだが、何とか使わないで乗り切る事は出来た訳だ。

「とりあえず飯でも食って帰るかのう?」

「でもみんな待ってるんじゃないか?」

「・・・そんな訳無かろう。彼奴らの事じゃ、きっと腹一杯食って、今頃は昼寝中じゃろ」

 まぁ、ナッズ辺りはそんな気はするが・・・

「そうかも知れないけど、皆に今日話した事を共有しといた方がいいんじゃないか?準備期間は一週間しか無い訳だしさ」

「そう急くな。今から何かするつもりか?それなら別に止めないのじゃがの」

「いや、別に今すぐに動き始める訳じゃないんだが・・・ちょっと焦ってんのかな」

 無意識の内にもしかしたら焦っていたのかもと思い、アリシエーゼがそれを気付かせてくれた事に心の中で感謝しつつ、アリシエーゼ、ドエインの三人で先ずは遅い昼飯を食べる事にした。
 遅めの昼食はアリシエーゼのたっての希望で肉料理をメインで出す店に決めて三人で食事を行った。
 料理の一品一品がかなりのボリュームであったが、主にアリシエーゼが主体で平らげたが、ボア肉以外にも色々な種類の肉が置いてあり、豚肉の様な物や、鶏肉の様な物を使った料理は久々過ぎてちょっぴり泣きそうになった。

 宿屋に帰るともう日の入りしそうな程だった為、その日は仲間達に状況報告を行うだけに留めた。
 と言っても、一週間、準備しっかりしましょうって話がほぼ全てなので真新しさは無く、また具体的に何を準備するかなどは決まっておらず、と言うか分からないので通常の準備と差程変わらない事を思うと、一週間と言う期間に何の意味があるのか分からなくなってしまった。

 遅い昼飯を食べて宿屋に戻って直ぐにナッズ達が夕飯をと言うので皆で食堂に行ったが、腹は減って居ない為、俺とドエインは何も食べずだったが、アリシエーゼは確りと夕食を食べていたのは、ある意味関心した。
 そんな食堂での話し合いの中、篤が唐突に俺に言う。

「一週間の準備期間と言うのは今日から七日後に出発と言う事か?」

「ん?いや、明日から七日間準備に充てて、八日目に出発だ」

「そうか・・・」

 篤は何かを考え込んでしまったので、一旦篤との会話を中断して周りと話を進める。
 豚聖女達との話し合いの中で、教会が直隠す魔界、悪魔についての秘密を問い詰めた。
 最初は頑なに口を閉ざしていた豚聖女とダグラスであったが、俺が今話せば不問に処すと笑顔で言うと快く話し始めてくれた。
 聞いた話は悪魔に関してはまぁ、テンプレと言うか、予想の範疇であり、悪魔には人間の社会と同じ様な階級が存在し、それが爵位であるとの事であったが、ここで豚の癖に聖女は面白い事を言っていた。

 寧ろ人間社会の今の階級は悪魔の社会構造を人間が真似た可能性もある

 そう言っていた。これが何を意味するのかはこの世界の世界史と言うか、人族の歴史等を理解していない俺には想像する事も出来ないが、何だか面白そうな推論だなと思った。
 本当に豚の癖に癪だが、そう思ってしまった。

 その話からどんどんと派生して行き、魔界とは何なのかと言う話になったが、それについては不明の一点張りだった。
 それが本当の事かどうかは分からないが、少なくとも以前ダグラスの脳を弄った時にはそう言った情報は見受けられなかったので、本当に分からない、その真実は聖女とそれより上の教会関係者しか知らず豚聖女が嘘を言っているとかその辺りかと納得した。
 また、これは驚いたが、豚聖女は十層辺りまでのマップを所持していた。
 しかも、魔界の色々な情報、爵位持ちの悪魔の情報が纏められた資料も同じく所持していたのだ。
 全て、初代聖女が記したものを裏外典として代々の聖女が受け継いでいるらしく、その内容は結構細かかった。
 が、二層以降は地鳴りと共に構造が変わっている為、地図自体はもう役に経ちそうに無かった。
 ただ、悪魔の情報や、各フロアの注意すべき魔物や悪魔の情報は役に立ちそうなので、この辺りの情報は豚聖女に有無を言わさずに全員で共有し、別で書き写した。

 そんな話を仲間としていると、それまで何かを思案していた篤がまた唐突に会話の流れをぶった切って口を開いた。

「暖、頼みがある」

 見ると結構真面目な顔をしている為、直ぐに例の装備作成の話だと理解した。

「いいよ、何すればいい?」

「うむ、先ずは時間が欲しい。明日一日で準備が出来たとして、作成には丸々五日掛かると思われる」

 結構ギリギリだが、次のアタックに間に合うなら文句などあろう筈も無い。
 そこから詳しく話を聞くが、それ一日で準備出来るのか?と本気で心配になる内容だった。

 先ずはかなりの設備の整った工房、高レベルの鍛冶師、彫金師の確保。
 大体の材料は魔界で入手したレッサー・デーモンやその他の魔物の素材や店売りの素材で何とかなりそうであったが、一つだけ問題があった。

黒魔泥ブラック・スライムって、このブーツのコーティングにも使われてるみたいだけど、そんなに入手難度高いんか?」

「ぶーッ!!お、お主!?そのブーツに黒魔泥ブラック・スライムが使われておると言ったか!?」

 俺の発言に、アリシエーゼ以外にも数人吹き出していたが、そんなに貴重な素材なのだろうかと思っていると、篤とユーリーを除く全員から怒号が飛び交った。

「お、お主!黒魔泥ブラック・スライムを知らんのか!?」

「いや、知らねぇよ。けど、黒いスライムだろ?」

「ただ黒いだけでは無いですよ!?そのブーツのコーティングに使うだけでの量で一体どれ程の金額が掛かると・・・」

 アルアレは顔を青くしながらそんな事を言うが、そう言われると段々と怖くなってきた・・・

「だ、旦那、それ周りに言って無いだろうな・・・?」

「え、言って無いと思うけど・・・」

「ぜ、絶対誰にも言うなよ!?一生命を狙われる事になるぞ!」

 え・・・
 そ、そんなに?

「ち、ちとそのブーツ脱いで見せよ」

「・・・いいけど」

 アリシエーゼの言葉に素直に従い、その場で片方のブーツを脱いでアリシエーゼに渡す。
 それを受け取り、外側も内側も隈無く観察していき、そして恐る恐ると言う感じで俺に聞いてきた。

「の、のう、この内側に使っておる毛はなんじゃ?」

「ん?魔羊デビル・シープの羊毛とか言ってたぞ?」

「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」

 俺の言葉に全員が固まる。

 いやいや、ただの羊の毛だぞ・・・?

 アリシエーゼは無言でブーツを俺に押し返して来たのでそれを受け取り履き直す。

「で、これはかなり貴重な素材が使われているって事でいいのか?」

「貴重と言うかじゃな・・・いや、良い。大事に使うんじゃぞ」

「え?うん、それは勿論」

「とりあえず話を戻すぞ。篤は黒魔泥ブラック・スライムを素材として欲しいというんじゃな?」

「うむ、量はそうだな・・・暖のブーツに使っているくらいの量で良い。同じく表面コーティングに使うだけだからな」

 何だか俺は釈然としないながらもアリシエーゼと篤の会話に耳を傾けるが、素材としてこのホルスにあるのならば俺の能力を使えば入手は簡単だろう。

「話は分かったよ。とりあえず準備始めるよ」

 俺はそう言ってボソリとデス隊を呼んでみる。
 匂いでこの食堂に居るのは把握していたが、デス1ワンが俺達の居るテーブルの三つ隣から歩いて此方に近付いて来て、恭しく頭を下げて挨拶をした。

「皆様、ご無事で何よりです」

「あぁ、早速だけど話をは聞いてた?」

「はい。情報収集を行えば宜しいでしょうか?」

「うん、黒魔泥ブラック・スライムの素材がこのホルスにあるかどうかと、一番設備の整った工房の場所、後はホルスで一番腕の良い鍛冶師と彫金師の居場所かな」

「はい、心得ております。でも構いませんか?」

 これは帝国側でも問題無いかと聞いていると理解して俺は頷いた。

「早急に情報を集めてくれ。明日中には全て終わらせたい」

「承知しました」

 デス1はそう言って頭を下げて離れて行く。
 その様子を仲間達と見送り、その後は話し合いもそこまで議題は無かったので直ぐに終了した。

「とりあえず篤の件は俺と篤だけで当たるから、他は全て任せるよ」

 俺は仲間達を見渡してそう言うと、皆無言で頷いて了承する。

 やっぱりここに明莉が居ないと―――

 感傷に浸りそうになるのをグッと堪えて食事を再開する。
 と言っても俺とドエインは酒と少しのつまみ程度だが、アリシエーゼは普通と言うか、なんと言うか・・・

「お前、ついさっきあれ程食ってまだ食う訳?」

「ついさっきと言ってもアレは昼飯じゃろ?」

「いや、まぁそうなんだが、俺が言ってるのは・・・」

 俺の言葉に何言ってんだよコイツ?みたいな表情でムシャムシャとバカでかいボア肉のステーキを頬張るアリシエーゼを見ると、指摘するのも馬鹿馬鹿しくなったので俺は、途中で諦めて酒を一気に煽って天井を見上げた。

 待ってろよ、明莉
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