異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第133話:撤退

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 自分の呼び方を本気で考える阿呆男爵を見て心底心が冷えきっていた。

 ミーシャは助かった

 助かったが、ミーシャの小隊はどうかと考えた時に、全員無事と考える程俺の頭はおめでたくは無い。
 別に仲間だと言うつもりは無いし、俺自体がミーシャの小隊や勿論、ファイの小隊も含めてだが、アイツらと仲良く打ち解けていたかどうかでは無く、俺の仲間が仲良く、打ち解けつつあった。
 其奴らをお前らは殺した。
 そう思うだけで、腸が煮えくり返りそうになるが、頭はそれと反比例するかの様に冷えに冷えていた。

 心は熱く、頭は常にクールに

 嶋崎先生の教えを思い出し、俺は算段する。
 が、現状俺の戦闘力ではこのクソ男爵に致命傷を与える事は不可能だろう。
 アリシエーゼやユーリーの精霊魔法ならどうにかなるかも知れないが、時間稼ぎすら無理かも知れない。

 なら、一時撤退やむ無しだろ

「とりあえず、クソ男爵、お前ら俺達に何か用事でもあるのか?」

「あぁッ!?お前、それじゃあ、両方の良いとこ取りみたいになっちまって―――用事?あるぜ」

「へぇ、何だよ」

「お前達全員じゃねぇ、お前と彼処の女だ」

 そう言ってクソ男爵は俺と明莉を指差す。
 明莉はえ?私?みたいな表情をしていて、ドエインがその間に割って入る。

「何でだ?」

「主が求めてるからなッ!」

 全身黒い革で出来たボンテージの様な衣服に身を包んだ悪魔男爵イーグは、よく分からないポーズを取って俺にキメ顔で答える。

「・・・主ってのは何だ?魔王か―――」

 そう言った瞬間、クソ男爵が地団駄を踏む様に脚を地面に叩き付け、地面を割る。
 凄まじい音と共に割れた地面の破片が周囲に飛び散った。

「・・・テメェ、二度とその名を口にするな」

 その名とは魔王と言った事を指すのか?と思ったが、どちらにしろ地雷を踏んでしまった事には違いは無い。

「・・・・・・」

「主はお前とその女を所望だ。黙って着いて来ればいいんだよ」

「・・・おー、怖い。黙って着いて行ったら俺の疑問にはその主とやらは答えてくれんのか?」

「・・・さあな。だが、連れて行く前に確かめる事があるのを忘れてたぜ」

 俺は会話をしながら、自然を装って少しずつ位置取りを変える。

「・・・確かめるって何をだ?」

「その前によ、別に逃げてもいいけど、そうなったら俺はこの雑魚共を真っ先に殺すから覚悟しておけよ?」

 ケタケタと嗤うクソ男爵に俺は内心舌打ちをしつつ会話を続けた。

「んで、何を確かめるって?」

「おう、そうだった。テメェさ、まだ力隠してんだろ?何で使わねぇんだ?」

 地獄に見付かった

 ユーリーがそう言っていたのが脳裏に過ぎった。
 真っ暗な通路を進み、多数の人であったと思しき黒い炭化した塊がそこら中に蹲るあの夢を思い出す。

「力?何の事だ?」

 俺は務めて冷静に、心情を悟られない様に話すが、俺の今の表情はどんなだろうか。
 笑っているのか緊張しているのか、それすらもよく分からなくなる。

「兎に角よ、お前このまま俺から逃げ伸びれると本気で思ってんのか?テメェら程度がよ」

「・・・」

 癪だが、このクソ男爵の言う通りだ。
 どう逃げ出すか・・・

「ケケッ、そうビビんなよ。さっさとお前の力見せろ。そして大人しく女と一緒に来れば他の雑魚共は今回は見逃してやるよ」

 気持ち悪い嗤い声を発しながらそう言うクソ男爵に俺はもう少し情報をと思いつつ、ユーリーをチラリと見る。
 ユーリーも此方を見ていて目が合うが、どうだろうか・・・
 先程から時折、ユーリーを見て何とか通じろと念じている事があるが、こんな状況でも眠そうにしているユーリーを見ると伝わって無いだろうなと言う思いの方が強かった。
 だが、タイミングはズレてしまうが、どうにかなるかも知れないと思う手があるので、それに向けてもう少し注意を此方に引き付けておきたかった。

「ちょっと思ったんだけどさ、何で俺の力が欲しいんだ、お前の主はさ?」

「んなの、どうでもいいだろうが。さっさと見せ―――」

「本当にお前の主とやらが臨んでんのか?その裏に魔王が絡んでたりしてな」

 そう言って俺は嗤った。
 先程の意趣返しでは無いが、クソ男爵と同じ様にケタケタと嗤ってやった。

「・・・お前、聞いて無かったのかッ、その名は―――」

「煩ぇよ、ウ●コ野郎」

 ケタケタ、ケタケタ嗤い、俺はクソ男爵に右手を突き出し、そして中指を立てた。

「魔王だか主だか知らねぇが、ビビって出て来れねぇ奴なんて眼中にねぇんだよ!魔王?マジ、●●●●だな、クソカスがよ!」

 ここぞとばかりに煽り煽ってワーハッハッハッと態とらしく笑った俺にクソ男爵は襲いかかった。
 音すら置き去りにするその突進を、そうなるであろうと予測していた俺は大きく横に飛び退いて躱す。
 そのまま仲間達とは反対方向に走り出して叫んだ。

「逃げろぉ!ユーリーィィ!頼む!!」

 突然の出来事に俺とクソ男爵のやり取りを固唾を飲んで見ていた仲間達だが、ファイなどはハッとして瞬時に切り替えて全員に退却指示を出して自らも出口へと走り出した。

 ユーリー上手く認識阻害使ってくれたかな?

 俺はユーリーに認識阻害の魔法で上手く撹乱して逃げてくれる事を期待していた。
 それを言って伝える訳にも行かず、そんなハンドサインを決めていた訳では無いし、ジェスチャーで伝える事も出来ずにただ願うだけだった。
 今も認識阻害を掛けたのか俺には分からなかったが、成功を祈るのみ。

 最初の突進を避けた俺をすぐ様追撃してくるクソ男爵に、横っ飛びで避けた際に拾った拳大の石ころを全力で走りながら前方に飛んで、身体をクルリと回して投げ付ける。

「そんな石ころでッ、舐めてんのか!」

 更に速度を増して俺に迫るクソ男爵に―――では無く、俺は全力で頭上に石を投げ付けた。二個とも。
 両肩が外れ、筋断裂も起こしたが、俺が投げた拳大の石は凄まじい勢いで天井へと衝突し、投げ付けた以上の大きさの岩がクソ男爵の頭上に落ちた。
 結果は確認せずに俺はそのまま仲間の元へ合流しようと方向転換してアリシエーゼと合流した。

「やるではないか!」

 ざまあみろとアリシエーゼはクソ男爵の方を振り返りながら笑う。

「だろ!とりあえず一旦撤退だ!」

 そう言って仲間の元へと急ぐが、直ぐにクソ男爵が瓦礫を吹き飛ばしたのが分かった。

「クソッ、邪魔クセェ!アイツらは・・・って雑魚共は・・・あーッ、クソ!!認識阻害か!」

 その叫びを聞き俺は笑った。

 ワハハッ!
 ざまあみろ!!
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