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第4章:偽りの聖女編
第130話:フロアボス
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「見付けた!」
俺は走りながら叫ぶ。屍食鬼との戦闘から一時間も経って無いが、漸く上層へと続く階段を見付ける事が出来た。
通路から、少し開けた広場の様な場所へと足を踏み入れ、素早く周囲を確認するが、特に危険は無さそうだった。
ファイ達を待っている間、広場の奥に見える上り階段に近付き、階段の奥の様子を伺うが、階段自体は長さは無く、直ぐに上の階層まで辿り着けそうであったが、上層と階段の間に大きな鉄製の扉が鎮座しており、先がどうなっているかまでは分からなかった。
「おぉッ!上の階に続く階段か!」
俺達に追い付いた残りのメンバーが口々に嬉々として階段の発見を喜んだ。
「漸くだね」
近付いて来たファイも嬉しそうに俺に言って笑った。
「あぁ、まだ後どれくらい続くのかは分からないけど、まぁ、一歩は進んだかな」
俺もこの時点で漸く安堵して少し笑って答えた。
「それでどうする?」
このまま進むか?とファイが聞いて来たが、少し思案してみるが、強制転移させられたのが夕方前か?だとしたら夕飯には丁度良い時間かもしれない。
今いる場所も開けた場所で野営は出来そうだし、その際の見張りも階段前と、広場の入口の二箇所に配置すれば問題は無いだろう。
「野営をするならここが最適だろうね。少しでも早く地上に戻りたいけど、次にこんな野営に適した場所を見付けられるのが何時になるか分からないし、そもそもそんな場所が今後あるのかも分からない」
「そうだね、休める時に休む。食べられる時に食べる。傭兵の基本だよ」
確かにその通りだ。
戦闘自体は俺とアリシエーゼが全て行って来たのでそう言った意味での疲れは無いだろうが、慣れない未踏破階層での強行軍なので、皆精神的な疲れはある筈だ。
「今日はここで野営しよう」
「分かった」
ファイは頷いて傭兵達に野営の準備を取り掛かる様に指示をした。
俺はアリシエーゼに確認がしたかったので、横に居るアリシエーゼに何気無く話し掛ける。
「上、探索出来るか?」
「・・・いや、あの扉を境になんじゃか上手く嗅ぎ取る事が出来ん。阻害でもされとるのかの」
アリシエーゼの回答に俺はやっぱりかと思った。
階段の先を確認した時に鼻を鳴らしてみたが、まったく感じ取る事が出来なかったので、もしやと思って聞いてみたが俺だけでは無いらしい。
「階層を跨いでの探知系の魔法だとかスキルは使えないのかもな・・・どういう原理かは知らないが」
「そうかも知れんな」
二人で眉を顰めていると、篤と明莉が此方に歩いて来るのが見えた。
二人共特に怪我等も無いし、見た目には元気そうに見える。
「この階層はダンジョンと言う感じで面白いな」
開口一番そんな事を言う篤に対して明莉はマジかよ?と言う様な表情で篤を見て言った。
「何言ってるんですか。暖くんとアリシエーゼちゃんが頑張ってくれてるから、私達はただ走ってるだけで良いんですよ?」
「む、そうなのだが・・・しかしまだ伝説の槍を―――」
「もう聞き飽きましたって!何なんですか伝説の槍って?その槍にどんな伝説があるんですか?」
「え、あ、いや、その・・・」
早口で明莉に捲し立てられ、篤がどもっていたが、何だかそのやり取りが・・・懐かしい?嬉しい?良く分からないが、自然と心が和み声に出して笑った。
突然笑い出した俺に篤も明莉も、そしてアリシエーゼもキョトンとしていたが、それも何だか可笑しくって更に笑った。
「ど、どうしたんですか、突然?」
明莉が心配して声を掛けて来る。
「・・・い、いや、ごめん。何か急に笑いが込み上げて来た。とりあえず篤、もしかしたらその伝説の槍を使う時はそう遠く無いかも知れないぜ?」
「どう言う事だ?」
俺は魔界に入ってから頭の片隅で考えていた事を伝える。
一層は予想外だったけど、二層とこの階層は言ってしまえば、俺や篤、アリシエーゼにとっては想像通りのダンジョンだった。
強制転移のトラップや、今も階層を跨いでの探知系スキルが効果が無い事、屍食鬼などの魔物やそいつらから取れる魔核、挙げればキリが無いが、概ね俺達が想像する異世界のダンジョンが此処にある。
「まぁ、この洞窟めいた階層であったり、二層の様な明らかな人工物の通路であったりと、その辺りは頭の中で思い描く、異世界のダンジョンの姿と言われれば頷く他無いのう」
「だろう?だったらさ、後一つ、ダンジョンに不可欠な要素がまだ出て来て無いと思わないか?」
「???」
アリシエーゼは首を傾げる。
明莉も俺達が話している内容自体が理解不能の為同じ様に首を傾げた。
「―――フロアボス」
そんな二人の様子を尻目に、篤がボソリと呟いた。
「フロアボスにまだ出会っていない」
「正解ッ!」
俺は篤を指差して軽快に答える。
「成程・・・確かに言われてみれば。じゃが、そんなもの本当に居るのか?」
「逆にこれだけ思ってるダンジョンと一緒なのにそこだけ違う事の方が違和感があると思うんだよ。それに、上の階層とを隔てるあの扉。扉の奥には広い空間があって、そこに一個上の階層のフロアボスが待ち構えている。そう思うと妙にしっくり来るんだよね」
俺の言葉にこの場に居る三人が押し黙る。
「一つ気になるのだが・・・」
黙っていた篤が口を開くが、言いながらまだ考えているのか一泊置いてから続きを口にする。
「一層には何故フロアボスが居なかったんだ」
「それね、俺も考えてたんだけど、あの一層って実は魔界じゃ無いんじゃないかって思ってる」
「何ッ!?」
俺の言葉にアリシエーゼがその驚きを口に出す。
篤は黙ったまま何かを考えている。
「何て言うかな、一層はこの魔界の主、魔王?だかなんだかは知らないが、そいつにとっては、まだ自身の城の敷地の外、正門の中ですら無い場所なんじゃ無いのかな?」
二層から漸く魔界と呼ばれる仮魔王の領地なのでは無いかと告げると、篤が同意する。
「確かにそう言われると間違いとは言えないな」
「・・・うむ、そうかもしれんな」
アリシエーゼも渋々と言った様に同意する。
俺が言った事が正しいのならこの上でフロアボスが今も侵入者を待ち構えている事になる。
「まぁ、フロアボスが居るならぶっ倒して進む。居ないのらそのまま突っ走る。それだけだ」
俺の言葉にアリシエーゼと篤は小さく笑い、明莉は結局何の事だか終始分からずに首を傾げていた。
野営の準備が終わり、見張りも立ててやっと一息付ける段階になったので、ファイに情報と言うか、考えを共有した。
「フロアボス!?」と驚いていたが、自信満々で言う俺に押され気味にファイは頷くしかなかった。
ただ、本当にやる事は変わらない。
俺とアリシエーゼで突っ込み、フロアボスがいるのなら二人で相手取る。
あまりにも強敵なら時間稼ぎをしている間に皆を先ずは上層に逃がし、折を見て俺達も離脱。
倒せそうならそのままぶち殺す。
ファイ達に参戦してもらうなどうかはあいたいしてから判断する事にした。
納得はしていなかったが、ファイは渋々頷き、情報を傭兵に伝達した。
夕食は、前回のアタックの時に俺が薦めたからか、蒼炎の牙でも、ダンジョン内で調理出来る様に調理機材や食材をポーターに持たせていた様で、俺達の方と合わせるとかなり豪勢な食事となった。
流石に酒は持ち込んでいないところは流石だと思ったが、ダンジョン内での暖かい食事に皆士気が上がり、この後待ち受けているであろう試練の数々も乗り越えられる、そんな気になった。
見張りは広場へ入る通路と、広場の奥にある上へと繋がる階段前に配置したが、階段側はあまり人を置く意味は無いかもしれないので、人数を抑えた。
俺とアリシエーゼはずっと戦闘を行っていたので見張りは免除されたが、別に寝なくても問題無いので何となく起きている事にした。
「―――眠れないのか」
俺が一人、影術の練習に悪戦苦闘していると、突然バックパックをクッション代わりにダラけた体制になっている俺の枕元で声が聞こえたので其方を仰ぎ見る。
「ん、まぁ。そっちそどうした、寝れないか?」
声の主は意外にもミーシャであった。
体制を起こし周りを見ると、皆寝静まっており、見張りの者は少し遠くに居る為声は聞こえない。
アリシエーゼは・・・起きてるな、たぶん
こう言う所に抜け目の無いアリシエーゼを疑り観察するが、中々尻尾を掴ませない辺り流石だと心の中で舌打ちした。
「どうした?」
「いや、何でも無いよ。それより何か用か?」
「あぁ、少し話がしたくてな。そこ良いか?」
ミーシャは俺の隣を指差したのでら俺は何も言わずに頷いた。
「・・・その、今日はありがとう。助かった」
ミーシャは言い出しにくそうにしながら俺に謝意を伝える。
「それはミーシャの隊員を救った事の話か?それなら明莉に言ってくれ。まぁ、十分伝わってると思うけどな」
明莉は先程の夕食時、蒼炎の牙の面々から随分と話し掛けられていた。
口々に感謝の言葉を伝えられ、時には聖女様とお呼びしても何て言われていた。
明莉は丁重にお断りしていたが、その傭兵も引かずに、聖女と呼ぶ時は周りに配慮して絶対にバレない様にするからと懇願され渋々同意すると、俺も俺もと瞬く間に明莉教の信者ぎ増えていった。
それを見てドエインが今までに無く慌てており、明莉に寄る虫を振り払うかの様な立ち回りをしていたのには笑った。
「それもあるが、キミと、アリシエーゼさんにも感謝している。あの時、突然階層移動が起こり、私の以外の隊員はほぼ動けなかった。私も夜目は効く方だが、光が一切無い空間では流石に何も見えないが、キミが灯りを用意させ、直ぐにこちらにも救援に来てくれたから、犠牲は最小限に抑えられた」
「俺も一瞬動くのが遅れたよ。アリシエーゼだけだったんじゃないかな、直ぐに動けて判断出来たのは」
「そうか、でもキミ達がいたから何とかなったんだ」
買い被り過ぎだと思ったが俺は敢えて口には出さず黙って聞いた。
「後、ファイ様を止めてくれて・・・ありがとう」
ミーシャはそう言って座ったまま俺に頭を下げた。
「・・・いや、アイツなら俺が言わなくても最終的にそう判断したと思うよ。ここまでの事も別に感謝なんて言われる筋合いは無いよ。俺達はただ、仲間と地上に帰りたいだけだし、それで好き勝手やってるんだ」
「・・・そうか。一つ、恩人にこんな事を聞くのは失礼だと言う事は分かっているんだが、一つだけ確認させて欲しい」
「・・・なに?」
そう言ってミーシャは大きく息を吸い、それをゆっくりと吐き出す。
そんなに聞くのが緊張する事なのだろうかと首を傾げる。
「キミとアリシエーゼさんは・・・その、本当に人間か?」
!?
俺はそう問われて思わずミーシャを凝視した。
戦闘中も身体が欠損してそれを瞬時に修復する様な人外の力を見せない様に心掛けたし、動きもそこまで人間離れしない様にもした。
それでもミーシャは何か感じてこんな質問をしているのだろうが、何故そう思ったのだろうか。
「い、いや、勘違いしないでくれッ、人間じゃ無いからってキミ達をどうこうしようなどとは思っていない!ただ・・・・・・」
「・・・ただ?」
「・・・・・・キミ達は私達を、ファイ様を裏切ったりしないか?」
「・・・・・・」
さて、どう答えたものか
ミーシャの質問に俺は暫く回答はせずに黙って思案する。
「・・・・・・人間かどうか何て些末な問題だろ。お前が尊敬するファイは種族が違うからと差別して信頼しない様な人間なのか?」
「そ、それは無いッ」
まぁ、猫人族やエルフ、ドワーフと言った種族ならそうだろうが、ヴァンパイアとかはどうかなぁとか言っておいて何だが考えてしまったが、ミーシャはファイが大好きで、信頼していて、尊敬していて、きっと愛しているんだろう。
俺やアリシエーゼのその力を目の当たりにして、得体の知れぬ存在を感じ取って、それがファイの敵とならないか、裏切らないかが心配で仕方無いのだ、きっと。
「だろ?俺はさ、俺を裏切ったりしない限り、俺から裏切る事は絶対にしないよ」
裏切られる痛みは十分分かってるから
そう言って俺はミーシャを真っ直ぐと見つめた。
ミーシャも真っ直ぐにその視線を受け、そして頷いた。
「・・・分かった。キミ達を信じる」
少し笑ってそう言うと、身軽にミーシャは立ち上がり、尻の土埃を手で払った。
因みに、ミーシャの尻にあの例のアレが存在しない。
尻尾がねぇよッ!!!
意味分からぁぁんッ!!!
獣人に尻尾が無いってどう言う事だ!?と頭を抱えそうになるが、この世界ではそれが当たり前らしく、猫人族は獣耳と、身体の一部に獣の名残の様な物が出るだけで後は人と全く変わらないらしい。
顔が猫っぽいとか、爪がちょっと長いだとかはあるが全く人と変わらない。
寧ろ、尻尾があったり、獣の特性を多く引き継いでいたりすると亜人と呼ばれ徹底的に迫害される様だった。
語尾に「にゃ!」とかも付けないし、ネコと言うより唯の人じゃねぇか、俺は認めねぇ!と心の中で思っていると、ありがとうと一言言ってミーシャは踵を返すが、何かを思い出したのか、立ち止まり振り返って言った。
「あの肉をパンに挟んだあれ、もの凄く美味しかった」
飛びっきりの笑顔でそう言ったミーシャに俺も笑顔で返した。
「だろ?また食べさせてやるよ」
餌付け成功かな?
俺は走りながら叫ぶ。屍食鬼との戦闘から一時間も経って無いが、漸く上層へと続く階段を見付ける事が出来た。
通路から、少し開けた広場の様な場所へと足を踏み入れ、素早く周囲を確認するが、特に危険は無さそうだった。
ファイ達を待っている間、広場の奥に見える上り階段に近付き、階段の奥の様子を伺うが、階段自体は長さは無く、直ぐに上の階層まで辿り着けそうであったが、上層と階段の間に大きな鉄製の扉が鎮座しており、先がどうなっているかまでは分からなかった。
「おぉッ!上の階に続く階段か!」
俺達に追い付いた残りのメンバーが口々に嬉々として階段の発見を喜んだ。
「漸くだね」
近付いて来たファイも嬉しそうに俺に言って笑った。
「あぁ、まだ後どれくらい続くのかは分からないけど、まぁ、一歩は進んだかな」
俺もこの時点で漸く安堵して少し笑って答えた。
「それでどうする?」
このまま進むか?とファイが聞いて来たが、少し思案してみるが、強制転移させられたのが夕方前か?だとしたら夕飯には丁度良い時間かもしれない。
今いる場所も開けた場所で野営は出来そうだし、その際の見張りも階段前と、広場の入口の二箇所に配置すれば問題は無いだろう。
「野営をするならここが最適だろうね。少しでも早く地上に戻りたいけど、次にこんな野営に適した場所を見付けられるのが何時になるか分からないし、そもそもそんな場所が今後あるのかも分からない」
「そうだね、休める時に休む。食べられる時に食べる。傭兵の基本だよ」
確かにその通りだ。
戦闘自体は俺とアリシエーゼが全て行って来たのでそう言った意味での疲れは無いだろうが、慣れない未踏破階層での強行軍なので、皆精神的な疲れはある筈だ。
「今日はここで野営しよう」
「分かった」
ファイは頷いて傭兵達に野営の準備を取り掛かる様に指示をした。
俺はアリシエーゼに確認がしたかったので、横に居るアリシエーゼに何気無く話し掛ける。
「上、探索出来るか?」
「・・・いや、あの扉を境になんじゃか上手く嗅ぎ取る事が出来ん。阻害でもされとるのかの」
アリシエーゼの回答に俺はやっぱりかと思った。
階段の先を確認した時に鼻を鳴らしてみたが、まったく感じ取る事が出来なかったので、もしやと思って聞いてみたが俺だけでは無いらしい。
「階層を跨いでの探知系の魔法だとかスキルは使えないのかもな・・・どういう原理かは知らないが」
「そうかも知れんな」
二人で眉を顰めていると、篤と明莉が此方に歩いて来るのが見えた。
二人共特に怪我等も無いし、見た目には元気そうに見える。
「この階層はダンジョンと言う感じで面白いな」
開口一番そんな事を言う篤に対して明莉はマジかよ?と言う様な表情で篤を見て言った。
「何言ってるんですか。暖くんとアリシエーゼちゃんが頑張ってくれてるから、私達はただ走ってるだけで良いんですよ?」
「む、そうなのだが・・・しかしまだ伝説の槍を―――」
「もう聞き飽きましたって!何なんですか伝説の槍って?その槍にどんな伝説があるんですか?」
「え、あ、いや、その・・・」
早口で明莉に捲し立てられ、篤がどもっていたが、何だかそのやり取りが・・・懐かしい?嬉しい?良く分からないが、自然と心が和み声に出して笑った。
突然笑い出した俺に篤も明莉も、そしてアリシエーゼもキョトンとしていたが、それも何だか可笑しくって更に笑った。
「ど、どうしたんですか、突然?」
明莉が心配して声を掛けて来る。
「・・・い、いや、ごめん。何か急に笑いが込み上げて来た。とりあえず篤、もしかしたらその伝説の槍を使う時はそう遠く無いかも知れないぜ?」
「どう言う事だ?」
俺は魔界に入ってから頭の片隅で考えていた事を伝える。
一層は予想外だったけど、二層とこの階層は言ってしまえば、俺や篤、アリシエーゼにとっては想像通りのダンジョンだった。
強制転移のトラップや、今も階層を跨いでの探知系スキルが効果が無い事、屍食鬼などの魔物やそいつらから取れる魔核、挙げればキリが無いが、概ね俺達が想像する異世界のダンジョンが此処にある。
「まぁ、この洞窟めいた階層であったり、二層の様な明らかな人工物の通路であったりと、その辺りは頭の中で思い描く、異世界のダンジョンの姿と言われれば頷く他無いのう」
「だろう?だったらさ、後一つ、ダンジョンに不可欠な要素がまだ出て来て無いと思わないか?」
「???」
アリシエーゼは首を傾げる。
明莉も俺達が話している内容自体が理解不能の為同じ様に首を傾げた。
「―――フロアボス」
そんな二人の様子を尻目に、篤がボソリと呟いた。
「フロアボスにまだ出会っていない」
「正解ッ!」
俺は篤を指差して軽快に答える。
「成程・・・確かに言われてみれば。じゃが、そんなもの本当に居るのか?」
「逆にこれだけ思ってるダンジョンと一緒なのにそこだけ違う事の方が違和感があると思うんだよ。それに、上の階層とを隔てるあの扉。扉の奥には広い空間があって、そこに一個上の階層のフロアボスが待ち構えている。そう思うと妙にしっくり来るんだよね」
俺の言葉にこの場に居る三人が押し黙る。
「一つ気になるのだが・・・」
黙っていた篤が口を開くが、言いながらまだ考えているのか一泊置いてから続きを口にする。
「一層には何故フロアボスが居なかったんだ」
「それね、俺も考えてたんだけど、あの一層って実は魔界じゃ無いんじゃないかって思ってる」
「何ッ!?」
俺の言葉にアリシエーゼがその驚きを口に出す。
篤は黙ったまま何かを考えている。
「何て言うかな、一層はこの魔界の主、魔王?だかなんだかは知らないが、そいつにとっては、まだ自身の城の敷地の外、正門の中ですら無い場所なんじゃ無いのかな?」
二層から漸く魔界と呼ばれる仮魔王の領地なのでは無いかと告げると、篤が同意する。
「確かにそう言われると間違いとは言えないな」
「・・・うむ、そうかもしれんな」
アリシエーゼも渋々と言った様に同意する。
俺が言った事が正しいのならこの上でフロアボスが今も侵入者を待ち構えている事になる。
「まぁ、フロアボスが居るならぶっ倒して進む。居ないのらそのまま突っ走る。それだけだ」
俺の言葉にアリシエーゼと篤は小さく笑い、明莉は結局何の事だか終始分からずに首を傾げていた。
野営の準備が終わり、見張りも立ててやっと一息付ける段階になったので、ファイに情報と言うか、考えを共有した。
「フロアボス!?」と驚いていたが、自信満々で言う俺に押され気味にファイは頷くしかなかった。
ただ、本当にやる事は変わらない。
俺とアリシエーゼで突っ込み、フロアボスがいるのなら二人で相手取る。
あまりにも強敵なら時間稼ぎをしている間に皆を先ずは上層に逃がし、折を見て俺達も離脱。
倒せそうならそのままぶち殺す。
ファイ達に参戦してもらうなどうかはあいたいしてから判断する事にした。
納得はしていなかったが、ファイは渋々頷き、情報を傭兵に伝達した。
夕食は、前回のアタックの時に俺が薦めたからか、蒼炎の牙でも、ダンジョン内で調理出来る様に調理機材や食材をポーターに持たせていた様で、俺達の方と合わせるとかなり豪勢な食事となった。
流石に酒は持ち込んでいないところは流石だと思ったが、ダンジョン内での暖かい食事に皆士気が上がり、この後待ち受けているであろう試練の数々も乗り越えられる、そんな気になった。
見張りは広場へ入る通路と、広場の奥にある上へと繋がる階段前に配置したが、階段側はあまり人を置く意味は無いかもしれないので、人数を抑えた。
俺とアリシエーゼはずっと戦闘を行っていたので見張りは免除されたが、別に寝なくても問題無いので何となく起きている事にした。
「―――眠れないのか」
俺が一人、影術の練習に悪戦苦闘していると、突然バックパックをクッション代わりにダラけた体制になっている俺の枕元で声が聞こえたので其方を仰ぎ見る。
「ん、まぁ。そっちそどうした、寝れないか?」
声の主は意外にもミーシャであった。
体制を起こし周りを見ると、皆寝静まっており、見張りの者は少し遠くに居る為声は聞こえない。
アリシエーゼは・・・起きてるな、たぶん
こう言う所に抜け目の無いアリシエーゼを疑り観察するが、中々尻尾を掴ませない辺り流石だと心の中で舌打ちした。
「どうした?」
「いや、何でも無いよ。それより何か用か?」
「あぁ、少し話がしたくてな。そこ良いか?」
ミーシャは俺の隣を指差したのでら俺は何も言わずに頷いた。
「・・・その、今日はありがとう。助かった」
ミーシャは言い出しにくそうにしながら俺に謝意を伝える。
「それはミーシャの隊員を救った事の話か?それなら明莉に言ってくれ。まぁ、十分伝わってると思うけどな」
明莉は先程の夕食時、蒼炎の牙の面々から随分と話し掛けられていた。
口々に感謝の言葉を伝えられ、時には聖女様とお呼びしても何て言われていた。
明莉は丁重にお断りしていたが、その傭兵も引かずに、聖女と呼ぶ時は周りに配慮して絶対にバレない様にするからと懇願され渋々同意すると、俺も俺もと瞬く間に明莉教の信者ぎ増えていった。
それを見てドエインが今までに無く慌てており、明莉に寄る虫を振り払うかの様な立ち回りをしていたのには笑った。
「それもあるが、キミと、アリシエーゼさんにも感謝している。あの時、突然階層移動が起こり、私の以外の隊員はほぼ動けなかった。私も夜目は効く方だが、光が一切無い空間では流石に何も見えないが、キミが灯りを用意させ、直ぐにこちらにも救援に来てくれたから、犠牲は最小限に抑えられた」
「俺も一瞬動くのが遅れたよ。アリシエーゼだけだったんじゃないかな、直ぐに動けて判断出来たのは」
「そうか、でもキミ達がいたから何とかなったんだ」
買い被り過ぎだと思ったが俺は敢えて口には出さず黙って聞いた。
「後、ファイ様を止めてくれて・・・ありがとう」
ミーシャはそう言って座ったまま俺に頭を下げた。
「・・・いや、アイツなら俺が言わなくても最終的にそう判断したと思うよ。ここまでの事も別に感謝なんて言われる筋合いは無いよ。俺達はただ、仲間と地上に帰りたいだけだし、それで好き勝手やってるんだ」
「・・・そうか。一つ、恩人にこんな事を聞くのは失礼だと言う事は分かっているんだが、一つだけ確認させて欲しい」
「・・・なに?」
そう言ってミーシャは大きく息を吸い、それをゆっくりと吐き出す。
そんなに聞くのが緊張する事なのだろうかと首を傾げる。
「キミとアリシエーゼさんは・・・その、本当に人間か?」
!?
俺はそう問われて思わずミーシャを凝視した。
戦闘中も身体が欠損してそれを瞬時に修復する様な人外の力を見せない様に心掛けたし、動きもそこまで人間離れしない様にもした。
それでもミーシャは何か感じてこんな質問をしているのだろうが、何故そう思ったのだろうか。
「い、いや、勘違いしないでくれッ、人間じゃ無いからってキミ達をどうこうしようなどとは思っていない!ただ・・・・・・」
「・・・ただ?」
「・・・・・・キミ達は私達を、ファイ様を裏切ったりしないか?」
「・・・・・・」
さて、どう答えたものか
ミーシャの質問に俺は暫く回答はせずに黙って思案する。
「・・・・・・人間かどうか何て些末な問題だろ。お前が尊敬するファイは種族が違うからと差別して信頼しない様な人間なのか?」
「そ、それは無いッ」
まぁ、猫人族やエルフ、ドワーフと言った種族ならそうだろうが、ヴァンパイアとかはどうかなぁとか言っておいて何だが考えてしまったが、ミーシャはファイが大好きで、信頼していて、尊敬していて、きっと愛しているんだろう。
俺やアリシエーゼのその力を目の当たりにして、得体の知れぬ存在を感じ取って、それがファイの敵とならないか、裏切らないかが心配で仕方無いのだ、きっと。
「だろ?俺はさ、俺を裏切ったりしない限り、俺から裏切る事は絶対にしないよ」
裏切られる痛みは十分分かってるから
そう言って俺はミーシャを真っ直ぐと見つめた。
ミーシャも真っ直ぐにその視線を受け、そして頷いた。
「・・・分かった。キミ達を信じる」
少し笑ってそう言うと、身軽にミーシャは立ち上がり、尻の土埃を手で払った。
因みに、ミーシャの尻にあの例のアレが存在しない。
尻尾がねぇよッ!!!
意味分からぁぁんッ!!!
獣人に尻尾が無いってどう言う事だ!?と頭を抱えそうになるが、この世界ではそれが当たり前らしく、猫人族は獣耳と、身体の一部に獣の名残の様な物が出るだけで後は人と全く変わらないらしい。
顔が猫っぽいとか、爪がちょっと長いだとかはあるが全く人と変わらない。
寧ろ、尻尾があったり、獣の特性を多く引き継いでいたりすると亜人と呼ばれ徹底的に迫害される様だった。
語尾に「にゃ!」とかも付けないし、ネコと言うより唯の人じゃねぇか、俺は認めねぇ!と心の中で思っていると、ありがとうと一言言ってミーシャは踵を返すが、何かを思い出したのか、立ち止まり振り返って言った。
「あの肉をパンに挟んだあれ、もの凄く美味しかった」
飛びっきりの笑顔でそう言ったミーシャに俺も笑顔で返した。
「だろ?また食べさせてやるよ」
餌付け成功かな?
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のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
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