異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第128話:転移

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 通路の先、遠くの方から不気味な声が聞こえて来る中、俺はアリシエーゼに言い放った。

「お前、やり過ぎだろッ」

「な、何!?妾のせいじゃと申すのか!?」

「そうだろうが!もうちょっと加減ってもんを知れッ」

「い、言うたなぁ!もう協力してやらんぞ!?」

 人目も憚らず、あーだこーだと言い合いをする俺達にファイ達蒼炎の牙のメンバーは目を点にし、俺達の仲間は全員、ヤレヤレと言った表情を向ける。

「さて、こんな下らないやり取りをしている暇は無い」

 俺はキリっとした表情をファイに向けて言う。

「く、下らないじゃと―――」

 まだ絡んでくるアリシエーゼを右手で押し退けて、俺はファイに現状を正しく認識させる。

「ファイ、今俺達は相当不味い状況になっている」

「・・・あ、あぁ」

 いきなりアリシエーゼ砲をぶっ放されて脅され、そうかと思えば何だか訳が分からない夫婦漫才の様なやり取り―――誰が夫婦かッ―――を見せられ、流石に話に付いて来られないのか、ファイは曖昧な返事をした。

「ファイ、しっかりしろ!マジで時間が無い!」

「―――ッ!?」

 俺の一喝に漸く意識を覚醒させて、確りと俺の目をファイは見た。

「たぶん俺達は転移トラップにでも引っ掛かって、魔界の何階層か分からないフロアに転移させられた」

「て、転移!?」

 ファイが驚くが、周囲の傭兵達もザワつく。
 こんな事、今の段階で隠したとしても何の意味も無い為、俺は構わず続けた。

「あぁ、問題はここが何階層なのかだが・・・これは俺の単なる予想でしか無いが、下層または深層だと思う」

「・・・・・・」

 俺の言葉にまたファイは動きを止めて沈黙した。

「ファイ!思考を止めるな!今考えるのはどうやってここを抜け出して地上に戻るかだ」
  
「・・・そ、そうだね」

 何とか踏ん張りファイは俺との会話に再度集中する。

「ここが何階層か分からないが、俺達がいた魔界なら、このフロアも上下の階層は繋がっている筈だ。だからソッコーで準備して地上に戻るぞ」

「・・・・・・」

「ファイ?」

「・・・もし、ここが魔界の深層なのだとしたら、最下層は近いのかも?」

 コイツ、まさか・・・

「そうかも知れないが、違うかも知れない。後何階層降りれば最下層かも分からない、食料もそんなに無い、戦力だって俺達しか居ないんだぞ!?」

「で、でも、水は魔導具でどうにかなる。君達だって持っているだろ、あの魔導具を。センビーンも大量にあるから食料自体は問題無い。戦力もこんなコボルト程度―――」

「ファイ、これが普通のコボルトに見えるのか?」

 俺はそう言って近くに転がっている、アリシエーゼとユーリーが篝火変わりにしなかったコボルトの様な魔物を蹴り飛ばして言う。

「―――こ、これは・・・」

「多分、ハイ・コボルトだ。だよな?」

 俺の言葉にアリシエーゼが頷く。

「うむ、じゃがコイツらこの階層では雑魚も良い所じゃぞきっと」

 鼻を鳴らしながら言うアリシエーゼの言葉を聞き、ファイは転がるハイ・コボルトを見て絶句する。

「分かるか?こんなのがウヨウヨ居るし、それにレッサーデーモンやそれの上位種だって居るかも知れない。全力が万全ならファイが考える様にこのまま魔界攻略を進めるのも手かも知れないが、今は無理だ。体制を立て直すべきだ」

「・・・・・・」

「ファイ様・・・」

 俺達の言葉にファイは長考し、自身の考えが揺れ動く。
 それを見てミーシャが堪らず声を掛けるが、そんなミーシャの顔を見てファイは結論を出した。

「・・・すまない、冷静さが欠けていた。戻ろう」

 そう言ったファイの表情は何時ものファイだった。

「ふんッ、漸くか。早く準備をして出発するぞ」

 アリシエーゼは盛大に鼻を鳴らしてアルアレ達の元に歩いて行ってしまった。
 そこから素早く準備を整える。
 腹が減っている者はセンビーンと水で腹を満たし、装備に付着した返り血を布で拭き取ったり水で洗い流したり、後はハイ・コボルトから取れる素材となる、牙と爪を出来るだけ剥ぎ取った。
 幸いと言って良いのかは微妙だが、ファイとミーシャの小隊のポーターは無事だったので全てそちらで管理して貰う事にした。

「ハル、此方は準備が整った。其方はどうだ?」

「うん、こっちも大丈夫」

「では行くとしよう。隊列だが―――」

「あ、それ。俺とアリシエーゼが先頭でガンガン進んで行くから、その後を兎に角全員で着いて来てくれ」

「・・・は?」

 俺の提案にファイは目を白黒させ―――碧目へきがんだが―――て、固まる。

 結構固まる奴だな

 俺はふふッと笑ってから続ける。

「ここからは出来る限りぶっ通しで地上を目指す。俺ととアリシエーゼなら相当遠くまで索敵出来るし、何より強い。俺達が打ち漏らした奴だけ的確に処理してくれればそれでいいよ」

 そう言って俺は軽く準備運動を始める。

「然しッ!それは余りにも―――」

「ファイ。殿は頼むぜ?」

 俺はニヤリと笑いそう言うと、また固まるファイだったが、暫くすると大きなため息を付き、頭を掻きながら言った。

「分かったよ」

「よ、宜しいのですか!?」

 後ろで聞いていたミーシャが声を上げて驚くが、それをファイが手で制する。

「・・・君達は本当に何者何だい?」

「何者でも無いさ」

ファイの言葉に俺はフッと笑って答える。

「・・・何格好付けておるんじゃ、気持ち悪い」

「あッ!今気持ち悪いって言ったな!?お前のニチャリ顔の方が気持ち悪いわ!」

「な、何をぉぉ!?生まれた瞬間から凄まじいまでの美貌を持って生まれ、女神が降臨したと話題じゃったんじゃからなッ!」

「おい、女神に失礼だろ。謝れ」

「・・・きゅ、急に真顔になるの狡いのじゃ」

 急いでいると言っていて、そんな無駄なやり取りをしている俺達を仲間は生暖かい目で見詰め、ファイ達はどんな反応して良いのか分からず無言で立ち竦む。

「そんな事よりさっさと行こうぜ」

「そうだよ、姫様もハルくんと絡めて嬉しいのは分かりますけど、地上に戻ってからにしましょうよ」

「んなッ!?」

 パトリックの言葉にアリシエーゼが赤面して、口をパクパクさせる。

 パトリック・・・やるな

 これだけやっておいてどの口が言うかと言われそうだが、そろそろ出発しようと俺が言うと、やはり「お前が言うな!」と総ツッコミを喰らった。
 この時ばかりはあのファイですらツッコミをした程だったが、俺は特に気にせずに仲間を見て言う。

「とりあえず、言った通り俺とアリシエーゼが道を切り開く。ドエイン、モニカ。明莉と篤、あとユーリーを頼む」

 ドエインとモニカは無言で頷くが、納得がいかなかったのか、ユーリーが大きな杖で俺を突いて言った。

「・・・ボクハダイジョウブ」

「ハハッ、そうか、ごめんごめん」

 俺は笑ってユーリーの頭を撫でてほわほわしてから、気合を入れる様に自分の両頬をパシリッと平手で叩いた。

 さーて、いっちょやってみっか!
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