異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第127話:アリシエーゼ砲

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「暖ッ!!!」

「ッ!?」

 アリシエーゼの叫びに一瞬飛んでいた意識を急覚醒させる。
 それと同時に辺りが真っ暗闇で周囲の状況を全く把握出来なかった為、素早く暗視能力を発動させる。
 その間にも、奇怪な鳴き声と言うか叫び声と人間の悲鳴の様なものが辺りから聞こえて来たが逸る気持ちを抑えて周囲の状況を確認しようと首を振ろうとした瞬間、またしてもアリシエーゼの叫び声が響く。

「右じゃッ!!」

 それが聞こえた瞬間に身体を回転させてバックハンドブローを放つ。
 直ぐに右手に衝撃が走り、その瞬刻後に目で確認すると目の前に凶悪なコボルトの様な顔が迫っていたが、俺の右手が顎を砕き顔面を吹き飛ばす。
 何かを考える前に周囲を素早く確認すると、俺の足元に明莉が蹲っているのと、ドエインと篤が体制を崩して倒れているのだけが確認出来た。

「そのまま倒れてろ!!アリシエーゼッ、火!!ファイッ、囲まれてる!」

 仲間達の名前を呼んでいる暇が無かったので、とりあえず叫んだが伝わっている事を願う。
 その間も此方に向かって来るコボルトの様な魔物一匹を殴り殺し、低い姿勢で篤に飛び掛かろうとしていた一匹を蹴り殺す。

 俺が叫んだ瞬間に突然近くで火の玉の様な物が浮かび上がりアリシエーゼの顔とその周囲が火の灯りで照らされる。
 アリシエーゼは掌で発生させていた火の玉を俺が殺したコボルトに放ち、直ぐに他の死体へも引火させた。

 更に素早く周囲を確認すると、光源が出来た事で大体の者は素早く対処に乗り出しており、俺も先ずは仲間を確認して行く。
 明莉と篤とドエインは無事。
 ドエインは直ぐに立ち上がり、迫って来ていた魔物に斬り掛かっている。
 モニカとユーリーも無事だ。モニカが短剣で牽制をしてユーリーが無詠唱の精霊魔法で追撃をしている。
 傭兵達も無事の様だ。

 ファイは!?と思い其方も確認するが、ファイ達の方には魔物が居らず、ミーシャ達の方に集まっていた魔物の方にファイが向かい、残りは態勢を建て直している。

 そのミーシャ達の方が一番魔物が多かったのか、ミーシャと数人しか立っていない。
 倒れている者が無事かどうかを確認する前に俺は動き出し、残りの魔物を掃討した。

 この頃になり漸く思考を開始するが、湧き出て来るのは、何で、何がだけだった。

 クソッ
 何なんだ!

 周囲に魔物の気配が無い事を自身で確認し、一応アリシエーゼにも目を向ける。
 アリシエーゼは俺の視線を受けてコクリと首を縦に動かした。

「明莉、大丈夫か?」

 蹲って震えていた明莉に近付き声を掛ける。
 明莉は身体を一度ビクリと震わせてから俺の顔を見上げたが、その顔は恐怖に染まっていた。
 泣き出しはしていなかったが、突然目の前が真っ暗闇で、不気味な叫び声に人の悲鳴。
 相当怖かっただろうと思ったが、明莉は周囲を確認すると、一度鼻をグスリと啜った後、一人で立ち上がった。

「・・・ごめんなさい、突然の事で身体が動かなかった」

「・・・謝る事じゃない。寧ろそれが正しかったんだ」

 俺は謝る明莉にゆっくりと告げ、辺りを見る。
 俺達とファイの小隊は無傷でありそうだったが、ミーシャの小隊はかなりの損害が有りそうだった。
 明莉をドエインに任せて、他の仲間に声を掛けつつ、ミーシャの方へ向かう。
 既に戦闘は終了しており、被害状況の確認が行われている。

「何人やられた」

 俺はファイに近付き、声を潜めて聞いた。

「・・・無事なのは五人だけだ」

「そうか・・・」

「それよりもありがとう」

「何が?」

「君の指示が無かったら光源を灯す事すら思い浮かばない程混乱していたよ」

「・・・」

「唯、息をしている者も傷が深過ぎる・・・こんな傷を治せる神聖魔法の使い手は―――流石に君の所にも居ないだろ?」

 そう言ってファイは近くに倒れている傭兵の前に跪き、頭を擦る。

 なに?
 まだ息があるのか!?

「明莉ッ!!」

 その瞬間俺は叫び、明莉を見る。
 明莉は名前を呼ばれ驚いていたが、直ぐに状況を理解して此方に駆け寄った。

「え、何だい、一体―――」

「少しでも息のある奴をここに集めろ!早く!」

 ファイの言葉を遮り叫ぶ俺に皆固まるが、いち早く動き出したのはミーシャだった。

「確認しろ!早く!」

 ミーシャの声に固まっていた者達が慌てて動き出す。
 ファイも加わり、直ぐに負傷者が一箇所に集められたが、一刻を争うので明莉に「頼む」とだけ声を掛けて後を任せた。

 明莉は地面に膝を付き、首から下げたマナストーンを両手で握り締めて祈る。
 目を瞑り、只管に癒しを求めて祈る。
 少し前まではその願いを口にしていたがら今は唯、明莉の願いを祈りに乗せて癒しと言う奇跡を願っていた。

 周りの者達は只その光景を眺めていた。
 最初は何をやっているんだと言う思いだけだっただろうが、直ぐに明莉が本気で傷付いた者達をどうにかしようとしてくれているのだけは分かったのか、誰も何も言わない。
 先程まで醜い魔物の咆哮と人の悲鳴や怒声が響き渡っていたこの空間は時間を止めた様な静寂に包まれていた。

 ただし、俺達は違った。
 明莉の奇跡はもう知っている。
 息さえしていれば身体が欠損していて重体だろうが治すし、それの結果がどうなるかも分かってる。
 なので、俺達はこの場の安全確保を優先する。
 改めて見ると、二層と同じ通路の様な感じだが、壁が石造りでは無く、岩肌が剥き出しになった様な、まるっきり洞窟(・・)と言った質感の壁で、自然の明かりは一切無い。
 なので俺は先ずは仲間全員にランタンを用意させて装備させる。
 モニカに用意して貰ったバックパックのショルダー部若しくはウェストベルトにランタンを引っ掛けられる様な仕組みがあるので、どちから掛けて運用する形だ。
 俺とアリシエーゼは必要無いので用意はしないが、洞窟の通路は現在の場所からでは一本道となっている為、両方を見張れる様に仲間も分割する。
 俺と篤、明莉、ドエイン、モニカ、ユーリーが一組となり、アリシエーゼは残りの姫様傭兵団と一緒だ。
 アリシエーゼが文句をぶーぶーと言って来ると思ったが、まったくそう言った事は無かったので、ちょっと意外だった。
 安全確保の為、通路の両端で警戒しつつ、俺達は明莉の様子を窺った。

 もつ既に奇跡の発動は終え、光も収束しているところだったが、周りが色めきたっていた。
 口々に「奇跡だ」、「神の御業が」とか色々言っている状態だが、息があった者は須らく全快で、直ぐに動き出していた。
 涙を流し明莉に感謝を述べ、跪き頭を垂れる者もおり、その全てに明莉は笑顔を向け対応していた。
 その顔はちょっぴり困った様な表情だったが、節々には嬉しさが滲み出ている様な気がして、見ている此方も何だか嬉しくて自然と口角が上がっていた。

 さて、ここでジッとしている訳にはいかないか

 そう思い、通路の警戒をドエインとモニカを主体で頼み明莉の元へと歩いて行った。
 途中、反対側の通路を警戒しているアリシエーゼの方を見ると、彼処も俺を見ていたので手招きをして呼び寄せる。

「明莉、ありがとう」

 明莉は未だに救われた傭兵やその仲間から感謝が絶えなかったが、無理矢理横から割って入り声を掛ける。

「あッ!暖くん!」

 助かったと言う様な表情を浮かべて明莉は此方に走りよって来た。
 ファイも同時に寄って来たので丁度良いと話を持ち掛ける。

「三人程助けられなかったみたいだな・・・その、残念だ」

「・・・いや、何を言う。ここに居る者全員、皆君やアカリくんに感謝しかないよ」

「そうか、とりあえず今後について直ぐに話したい」

「うん、でもその前に・・・」

 そう言ってファイは姿勢を正し真っ直ぐと俺と横に居る明莉とアリシエーゼに視線を向けた。

「皆を救ってくれて感謝する。ありがとう」

 そう言って子爵の嫡男、貴族の男であるファイは深々と頭を下げた。
 それに習い、その場にいる全ての傭兵も一斉に頭を下げた。

「ワッ!ワアッ!ちょ、ちょっと!暖くん!」

 それを受けて明莉は慌てて、どうすれば良いか分からず俺にしがみつく。

「ははッ、とりあえず明莉が困ってるから止めてくれ。それよりも一つ約束して欲しい」

「約束?何だい?」

 俺の言葉に頭を戻してファイが尋ねる。
 別に俺がどうにかしても良いのだが、ある意味ファイを試す事になるかと考えるが俺は構わず口にした。

「明莉のこの力の事は他言無用でお願いしたい。この場に居る全員、誰にも口外しないと約束してくれないか?」

「・・・それはどう言う事だい?」

 俺の言葉に一気に辺りはザワつくが、俺は時間も惜しいので手短に伝える。

「見て感じたからみんな分かってると思うけど、明莉のこの力は奇跡以外の何者でも無い。そんな力を教会が認定する聖女や、教皇、それに準ずる位でも無い一般人の明莉が持っていると知られたらどうなる?」

「それは・・・」

「言わなくてもいいよ。ただ、それは、その結果は明莉や俺達が望む結果では絶対に無い。だから他言無用でお願いしたいんだ」

「・・・・・・」

 ファイや他の傭兵は俺の言葉に押し黙った。
 それは、俺達が考えている事を教会がやると暗に示している事に他ならないのだが、俺達は静かに返答を待った。

「・・・・・・分かった。この事は僕らだけの秘密にしよう。大事な団員を救ってくれた恩人の頼みだし、そんな恩人を教会に売る様な真似が何故出来ようか」

 ファイはそう言って俺達に笑顔を向けた。
 それからファイは団員達に明莉の件は一切口外しない様に厳命し、団員達もそれに同意する。
 これにて一件落着!めでたしめでたし!っとはならない所が地球でも異世界でも共通する事柄だろう。
 ファイが全面的に協力してくれるのは本当だろう。
 疑り深い俺でもファイの事は信用出来ると思っている。が、他の者もそうだとは限らない。
 ファイはどうやら敬虔なエル教信者では無い様に思うが、他の傭兵には敬虔な信者がいるかも知れない。
 だから俺は敢えてファイを含めて、この場に居る蒼炎の牙全員に警告した。

「皆、ありがとう。教会にこの事が知られたら、明莉や俺達は今まで通りの生活を送る事は出来ないんだと思う。でも、もしバレたら其れはここに居る誰かが漏らしたって事だよね?」

 ニコニコしながら話す俺の言葉が何だか妙な方向に向かっている事に何人かは気付き始め、ザワつくが俺は笑顔を崩さず続けた。

「それってつまり、俺達に喧嘩を売った、俺達に敵意を向けたと同義だと思うんだ。だからさ―――」

「ハ、ハル・・・?どうした―――」

 俺は余所行きの笑顔を貼り付けたまま、そう言って徐に右手を上げる。
 ファイが何か言おうとしていたが、それを無視してそのまま言葉を紡ぐ前に上げた右手をポンとアリシエーゼの頭の上に落とした。

「―――敵対したと見なしたら、俺達は絶対に許さない。一人でも裏切ったのならここに居る全員、殺してくれと心の底から何度も願うくらい酷い目に会わせちゃうぞ?」

 そう言い終わると同時に俺は飛びっきりの殺し屋スマイルを浮かべ、それに併せてアリシエーゼが、一層でファイに向けたあの物理的な圧力を伴った殺意を、あの時の数倍もの殺意を込めて解き放った。

 ―――ッ!!??

 その瞬間、ファイを含め全ての蒼炎の牙の傭兵が声に成らない悲鳴を上げ、ある者は涙を浮かべ、ある者はその場で硬直し、そしてある者は腰を抜かした。

 おぉ~、このアリシエーゼ砲、なかなか使えるんじゃなかろうか?

 そんな惨状を目の当たりにして、明莉は叫ぶ。

「暖くん!?アリシエーゼちゃん!?や、やり過ぎですッ」

 その叫びと同時に、洞窟の奥から、底から、上から四方八方から魔物だろうか。獣が発する様な咆哮、慟哭が響いて来た気がした。
 それを受けて俺とアリシエーゼは顔を見合わせて言った。

「「テヘペロ♪」」

 アリシエーゼ砲・・・
 強力だぜ・・・
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