異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第126話:第二層

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 仲間の元に戻り状況を説明する。
 皆は状況に驚いてはいたが、斥候部隊の殿を務める事になった事に対しては特に異論を挟まなかった。
 まぁ、アリシエーゼがやると言った以上、アルアレ達はそれでいいのだろう。
 後は明莉達だが・・・

「ファイ達の中隊は五つある。前方二、左右にそれぞれ一、中間に一、そして俺達が殿だ。ただ、殿と言っても残りのクソ聖女達も少し遅れて後を着いて来る事になってるらしい」

「それは何故ですか?」

「今、魔界では何かが起こってる。構造が変わる事もその一旦だと思われるし、一層もこの後何が起こるか予想が付かない。なので、何かあった時に主力である蒼炎の牙と分断される事態だけは避けたいって所だと思う」

「成程・・・また構造が変わって分断されてしまうかもしれませんしね」

「そう言う事」

 つまりは俺達は蒼炎の牙と残りのクソ聖女達との間に位置するので、本当の意味で殿とは言えないが、考えようによってはどちらで起こった問題にも対処しなくてはならないと言う事だった。

「まぁ、蒼炎の牙としちゃ、聖女のお守りにまで気を回してらんねぇってのが本当の所じゃないか?」

「まぁ、そうだろうな」

 ドエインの言葉に完全同意だが、優先順位は決まってる。

「とりあえず、仲間の事が最優先。次点で蒼炎の牙。聖女達は二の次だ。あんだけ人数居るんだから自分達で対処しろって感じだな」

 俺の言葉で若干和むと、ファイから声が掛けられる。

「準備はいいかな?」

 俺は一度、全員の顔を見て確認を取る。
 皆、無言で頷いたのを確認してファイに返した。

「あぁ、問題無い」

「じゃあ行こうか」

 ファイの言葉に蒼炎の牙の中隊は短く返事をして聖女の待つ最前列へと歩いて行った。
 最前列へと到着すると、聖女とイヴァンが睨みながら、ダグラスは神妙な面持ちで俺達を出迎える。
 ファイが短くダグラスと会話をして直ぐに二層へと繋がる階段を降り始めたので俺達もそれに続く。

「君達まですまないな」

「・・・いいよ」

 此方も短い会話で切り上げ、ファイに続いて階段を降りて行く。
 聖女やイヴァンの前を通り抜ける際、何か一悶着有るかと思っていたが、特に何も起こらずに肩透かしを食らった。

「本当に全然違うのな・・・」

 二層に降りての俺の感想はこれだった。
 一層とはまるで違う作りに話は聞いていたが驚きを隠せなかった。
 二層は聞いていた通り、石造りの通路で出来ており、天井も聞いていた通り高い。
 石は大きなブロック型で、それを綺麗に積み上げる様な形で通路が形成されている。
 一層と同じで若干薄暗いが、光源を用意するまででも無いくらいの明るさだ。

「では、いつも通りやっていこう。ハル、後ろは頼むよ!」

「任せろ」

 初めて名前を呼ばれた気がしたが、既に動き出したファイ達の中隊に直ぐに注意を向ける。

「よし、俺達も行こう」

 俺の掛け声に全員、小さ目の声で「おうッ」と返事をして歩き出した。
 殿の為、前の小隊と余り近過ぎても駄目なので少し距離を取りながら、それでいて何かあった際は直ぐに対処出来る位置取りをする。

「明莉、無理かもしれないけどあんまり緊張しないで。大丈夫だから」

「う、うん、大丈夫ッ」

 あまり大丈夫では無さそうなので俺は敢えて軽い口調で続ける。

「篤を見なよ、あそこまでとは言わないけどあまり固くならない方がいい」

 篤を見ると、「おぉ!正しくダンジョン!」等と興奮してキョロキョロと辺りを見回して楽しんでいる様に見えた。
 こう言う時、普段と変わらずにいられるのは結構凄いなと関心しつつ、明莉の緊張を和らげる。

「とりあえず、ドエイン頼むぞ」

「あぁ、任せろ!」

 何だか初めて頼もしく感じるドエインを筆頭にモニカ、ユーリーと声を掛けて行き、最後にアリシエーゼの元へ行く。

「こんな事になっちまってすまないな」

「・・・別に良い。結局、この階層にも魔物は居らなそうじゃしの」

 そう言って鼻を一つ鳴らすアリシエーゼに釣られ俺も辺りを探る。
 確かに一層と同じ様に辺りに魔物の臭いはしない。

「本当だ・・・」

 一層と違い、この二層は通路となっている為、仮に敵が圧倒的な物量を投入して来た場合、あっという間にミンチにされる可能性が高いので、その点は大丈夫そうだと安堵した。

 ファイ達も小隊毎に別れ、それぞれが警戒をしつつ、道が別れれば部隊を分けて同時に進行して行く。
 それでいて、小隊に一人は居ると言っていたマッパーがマッピングも行いつつなので、本当にいつも通りにやっているのだろう。
 道が別れた場合、小隊が一つその道を確認しに行き、行き止まりならそれはそれでマッピングをして戻って来る。
 もし道が続く様ならある程度で見切りを付けてまた本隊に合流する。
 その間本隊は進行速度を落として少しずつ進んで行く。
 俺達は別れた小隊が戻って来るまで退路を確保する形で止まって待ち、戻って来たらその小隊と一緒に本隊にまた合流する。
 別れた小隊が戻って来ると、俺達に手を挙げて合図を送って来るので、俺達もそれに倣い手を挙げて答える。
 本隊に合流すると、戻って来た小隊が前方にハンドサインを送り調べた道が行き止まりかそれとも別で続いて行くのかを知らせていた。
 それを受けてファイが随時戻るか進むかを判断していた。

「はぁ・・・凄い慣れてるなぁ」

 俺は関心するが、アリシエーゼも同じだった。

「確かにのう。これはなかなかの動きじゃな」

 他人を褒めるなんて珍しいなと思いつつそのまま会話を続けた。

「団員を育ててるなんて言ってたけど、本気でやってるみたいだな」

「そうじゃのう」

「だったら尚更分からないんだよなぁ」

「何がじゃ?」

「ファイは本気で魔界を攻略しようとしてる。聖女とは別に自分達の力で。まぁ他の傭兵団の力も借りようとしてるみたいだが」

「そうじゃのう。それが何じゃ?」

「だったら何でこのタイミングのこの攻略に参加したんだろうな」

 俺は気になっていた。
 今回の聖女の魔界攻略は、ドエインも話ていたが参加者は少ない。
 人数が多くても必ずと言っていい程全滅して失敗しているこれに努力が実を結び結果が伴って来てノッているファイが参加したのか。

「そんな事か。何かしら理由があるとして、じゃったら何じゃと言うんじゃ」

「いや、まぁだから何だって話なんだが・・・」

 そう言われるとそれまでなんだが、気になるものは気になる。

 モヤりつつも探索を続けていると、右側に逸れる道へ向かった小隊が戻って来て本隊へとサインを送る。
 そのサインが見覚えの無いものだったので気なっていると、直ぐにファイから止まれと号令が出て一度全員集まり状況を確認する。
 どうも右に逸れた小隊が広場の様になっている場所を発見したらしい。
 かなり広く、恐らく大隊でも収容出来るとの事であったので、一度確認に行く事になった。

 周囲を警戒しつつその広場へと向かうと、通路の先に広がる広場が確かに確認出来た。

「広場の中には入ったかい?」

「いえ、この辺りまでです。どうやら奥へも通路は繋がっている様です」

 ファイの言葉に小隊長の男が答える。
 その言葉を聞きファイは各小隊で記録している地図を取り出させて広げさせる。
 全ての地図を確認しつつ思案し、ファイは答えを出した。

「一度ここの安全を確認しよう。ミーシャの第三小隊は広間を確認。奥の通路は軽く様子を窺うだけでいい」

「はいッ」

 ファイからの命令に短く答えて、ミーシャは小隊に準備をさせ始める。
 すると、俺達がやって来た方から足音や話し声が聞こえてくる。

「聖女様達が来たか。第四小隊は聖女様達にこの広間の事と、此方から合図が出たら広間に入って来る様に伝えて戻って来てくれ」

「了解です!」

 第四小隊もファイの命令を受けて直ぐに行動を起こした。
 第三小隊が広間へと入って行くのを固唾を呑んで見守っていたが、暫くして広間の中から問題無しの合図があり、ファイが警戒態勢でその場で待機の合図を送ると、ファイが大きく息を吐いて緊張を少し解いた。

「ふぅ・・・そこの広間、何とか使えそうだね」

 ファイの笑顔に残った団員は一様に安堵の表情を浮かべる。
 第四小隊がそうこうしている間に戻って来てファイに報告をした。

「お伝えしました。承知したとの事です」

「うん、ありがとう。じゃあ行こうか、奥の通路も詳しく調べたいし」

 俺達はそのまま広間へと入って行き、辺りを確認していく。
 特にトラップも無さそうなので聖女達が入って来た通路に見えるまで待機して、少し状況を整理する。

「通路は二箇所。聖女様達と合流したら直ぐに通路の先回りを確認する。僕の第一と第三、後はハル達が正面奥、残りは左側を確認しに行こう。そっちの指揮は任せたよ、ディアナ」

「はッ」

 ファイの言葉にディアナは背筋を伸ばして答えるが、こうして見ると傭兵団と言うより軍隊だなと思った。
 聖女達が通路に見え始めたので、ファイが合図を送り広間へ引き入れる。
 合流すると直ぐにファイが状況を報告してそのまま蒼炎の牙が二箇所の通路を確認する事になり、部隊を分けて対応を始めた。

 通路は今までと同じくらいの広さで、小隊三つ程なら並んで進めるが、俺達は戦闘をミーシャ率いる第三小隊にして、後は俺達とファイ達である程度固まって進んだ。

 通路は入って暫く進むと右に折れており、戦闘のミーシャが慎重に進んで確認し、合図の後に俺達が続いて行く。
 そこからしばらく進むと、通路がそこで終わっていた。行き止まりだった。

「特に仕掛けなども有りません」

 ミーシャの報告にファイは頷き、一旦広間に戻ろうと言い踵を返す。
 俺達も後に続き歩き始めたその時、突然身体がグラりと揺れた。

 地震?

 と思ったが、その瞬間に視界が暗転していた。
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