異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第121話:お裾分け

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 ソニが作った昼食は、保存食のボア肉ジャーキーと持ち込んだキノコ類を使ったスープと、ジャーキーを水でふやかしてから水気を切った物をフライパンでステーキの様にして、これまた持ち込んだ黒パンに挟んだだけのバーガーの二種類だったが、ハーブや調味料も少量ながら瓶詰めで持ち込んでいた為、ダンジョンで食べる食事としては良い意味で有り得ない程普通の物だった。
 食事を皆が食べ終わる頃にファイがお供の女性を二人引き連れてやって来た。

「な、何でダンジョンでそんなまともな食事をしているんだい・・・?」

「何でって何だ?」

 ファイは俺達の食事風景を見て冷や汗を垂らしながら聞いて来るが、質問の意味が分からず聞き返す。

「ダンジョンでそんな普通の食事をしている人なんて見た事無いんだけど・・・」

「そうか?皆やれば良いのにな」

 そう言って俺達は食事の後片付けを始める。
 テキパキとそれぞれが動く中、ソニがあの購入した水を生み出す魔導具を使って洗い物を始めると、それが目に付いたファイが超えを上げる。

「えッ!?その魔導具!どうして君達が持っているんだい?」

「どうしてって、買ったからに決まってるじゃないか」

 俺はさも当然の様に答えるが、ファイはその回答に納得がいかないのかやけに食い付いて来た。

「いやいや、君達はフリーの傭兵集団なんだよね?言っちゃ悪いが、普通に傭兵を、しかもフリーでやっているんだったら、そこまで財政に余裕は普通無い筈だよ・・・」

「まぁ、縁があって購入に至ったって事で」

 俺はあまり内情に踏み込んで欲しくは無い為に適当に話を切り上げ様とした。

「・・・やっぱり、バックに―――」

 そう言ってファイはアリシエーゼを見遣るが、俺はそれを途中で制止する。

「ファイ、傭兵をやってる以上、皆何かしらの事情があったりするだろ。そう言うのを詮索はしないでくれないか」

 俺は何となくの知識だけでそう言うと、ファイはハッとして直ぐに謝った。

「す、すまない、詮索するつもりは無かったんだ」

 本当に申し訳なさそうにするファイを見て、やっぱり良い奴だなと思っていると、お供の女性の一人、人族の・・・名前は何と言ったか忘れたが、猫人族では無い方が不機嫌そうな声色で座って片付けをする俺達を見下げて言う。

「ファイ様が謝る必要は有りません。ダンジョンでこの様に火を炊き、匂いが出る様な食事を作るなど非常識なんですよ」

 へー

「あっそ」

「あ、貴方聞いていましたか!?非常識と言ったんです!」

「聞いてたよ。んで、だから何よ?」

「はぁ!?」

 そこで、おやつタイムにと余分に作って貰ったバーガーをバナナの葉の様な物で人数分包んでいたソニーが横から声を掛けて来た。

「こちらは私が全て持っていて良いですか?」

「あ、うん。お願い」

 そう言うとソニは人数分のバーガーを背負い袋の中に詰め込み始めるが、ついでに俺は仲間の表情を確認すると、皆、また始まったかと我関せずと言った表情だったので、心の中でほくそ笑んだ。

 分かって来てるじゃん

 俺はこう言った妙に絡んで来る者に対して容赦は無い。
 それを分かっていて仲間達はこれがあくまで平常運転だと言う様に対応してくれている。
 俺は再度、人族の女に振り向き言った。

「だから何だと聞いてんだよ」

 人族の女は一瞬たじろぐが、猫人族の―――ミーシャだったか?―――女がソニがしまい込んだバーガーを目で追い、ゴクリと唾を飲み込んだのを見逃さない。

「ですからッ!ダンジョン内で私的に火を使い、匂いを出す様な食事を作るなど!匂いに釣られて魔物が現れたらどうするんですか!?」

「いや、魔物なんて釣られて来てないじゃん?」

「そ、それは結果論です!そう言う事も踏まえ無くてはならなくなるので見張りの負担も増えると言っているんです!」

 いや、そんな事さっき言って無いじゃん

 もしかしたら、そうかも知れないが、だからどうしたとしか思わない。

「そん時は俺達が殺してやるから安心して休憩してろよ」

「そんな事を言ってるんじゃありません!」

 キーキー煩ぇ女だな

 自分の中にドス黒い感情が湧き上がるのを意識して直ぐに心を落ち着け様と試みる。

「ファイ、俺は提案する。ダンジョンでも普通に料理を作って食事をして方が良い。深層で極限状態だってんならまだしも、こんな表層でそんな事気にする方が間抜けだよ。少なくとも食事で士気が上がったりパフォーマンスが向上したりってメリットや恩恵は絶対にあるんだからやらない理由が無い。ましてや、このアタックの目的や、言っちまえば結果を考慮するんなら寧ろやるべきだ」

 突然話を振られたファイは動揺しながらも俺の話を聞き、そしてその言葉を自分の中で咀嚼して理解して頷いた。

「・・・確かに君の言う事は最もだよ。これは普通のダンジョンアタックでは無いんだしね」

 そう言って神妙な顔付きでファイは同意した。

「ファ、ファイ様!?」

 人族の女はまさか自分では無く、こんな今日初めて会った訳も分からない男の意見に同意するなどとは微塵も思っていなかったらしく、嘘だろ?と言った表情でファイの名前を叫ぶ。

「勿論、ディアナの言う事も間違ってはいないけど、僕も士気を保つ事はこのアタックでは重要だと思うんだ」

 そう言われ、ディアナと呼ばれた女性は俯き、唇を噛み締めた。

 そんなに悔しいか!ハハッ

 それからファイは、二度目のアタックの際はこう出来る様に聖女達に話してみると言っていた。
 一度戻る事は確定しているので、二度目のアタックの準備にダンジョンでの食事と言う項目も盛込むと言う事だったが、少なくともファイ達の中隊ではそうするらしい。
 そう話している間も猫人族のミーシャはずっとバーガーの入っている背負い袋を見つめていたので、何だか餌付けがしたくなり話の終わりに俺はソニに言ってバーガーを二つ取り出して貰ってそれをファイに手渡した。

「とりあえずお裾分け」

「え、ありがとう!って、二つ??」

 こっちは三人だぞ?とでも言いたげなファイであったが俺は何食わぬ顔で返した。

「ファイとミーシャにね。これ取り出して食べてると匂いに釣られて魔物が寄って来るかも知れないんだし、そんな事になるかも知れないんだから、そっちの女はこんなモノ当然食べないだろ?だから渡しても無駄だと思ってね」

「・・・ぐッ」

 ディアナは何か言いた気だったが、グッと堪える仕草をし、それを見たファイが苦笑いを浮かべながら言った。
 こちらもモニカが「うわ、本当に正確悪ッ」とか言っているのを聞き逃さなかったので、モニカを睨み黙らせた。

「ハハ・・・手厳しい。でもありがとう、嬉しいよ」

 そう言ってそろそろと会話を切り上げてファイ達は自分達の中隊の元に戻って行った。
 その際にファイが俺に耳打ちをする。

「もうちょっと女の子に優しく出来ないかい?」

「・・・俺は善意には善意を、悪意には理不尽な迄の悪意を持って返すって信条で生きてるんでね」

 俺は鼻を鳴らして小声で同じくファイの耳元で囁く。

「・・・成程、また一つ君の事を理解出来たよ」

 ファイは苦笑いの筈なのに妙にイケてる表情をしながら手を上げて去って行った。
 やっと行ったかと俺は大きく息を吐き、そろそろ休憩をしておこうと仲間達の方を振り向く。
 すると、アリシエーゼがまた不機嫌そうに此方を睨んでいたので、またファイと話していた事に対しての嫉妬かとゲンナリする。

「仕方無いだろ、話し掛けて来たのはあっちだぜ?」

 俺は何か言われる前に言い訳をしておくかとアリシエーゼに対して言うが、それを聞いたアリシエーゼは腕を組みプイと顔を背けた。

「何勝手にバーガー渡しておるんだッ」

 それかよッ!?

 それを聞き呆れつつ、はいはいと適当に相槌を打って俺は休憩を取った。
 休憩が終わり準備が整うと直ぐに進軍が開始されるが、言われていた通り、午前の進軍とは打って変わって、進行速度が倍程になった。
 多分これが本来の速度で、ファイの言っていた端まだ半日と言う速度なんだろうなと考えながら、篤と明莉を見るが、特に苦も無く付いて来ているので問題無しと判断した。

 一層の中間を過ぎた辺りから、少し魔物の質が変わった様にも感じるが、まだ悪魔と呼ばれるアークデーモンとは遭遇していない。
 さっさと出て来いやとか思いながら進むが、結局一日目の野営地に到着するまでとうとう出会う事は無かった。

 野営地に入り、連絡事項の伝達と配給かま終わると、後は各自で野営の準備をして自由行動だが、最初の見張りの中隊は直ぐに辺りに展開して行くので、その中隊の野営の準備は他の中隊が代わりに行った。
 俺達は二番目の見張りだったので、早めに夕食の準備等をする為、他の中隊の代わりの準備は免除されたので、自分達だけの野営の用意で済んだ。
 テントが欲しい所だが、やはり咄嗟の時に行動に移れない可能性があるので、地上での野営ならタープか馬車、ダンジョンなら焚き火を囲んでの雑魚寝が基本かと思い直す。

 でも、フカフカのマットレスみたいなものくらいは用意したいな

 見張りは三交替制で大体四時間となっている。
 アリシエーゼに懐中時計を見せて貰うと、十八時頃だったので四時間交代が妥当なのだが、正直、地上では無いのだし、昼か夜が分からないのだからもっと進めるだけ進めば良いのになと思いつつ、直ぐに肩慣らしなんだから良いかと思い直した。
 食事を済ませ、早めに就寝して交代時間に起こされる。
 食事をして寝る迄の間、久々にイベント乞いを心の中で行ったので、密かにワクワクしていた。

 悪魔よ!いでよ!!
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