異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第117話:出陣

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 翌日、朝一の鐘が鳴る頃には皆で朝食を済ませ、準備も整えて集合場所である、魔界とホルスの街を繋ぐ通りの検問所の様な所に向かった。
 朝一の鐘が鳴る頃に集合と言う事だったので、俺達が到着する頃にはかなりの人数が集まっていた。

「話で聞くよりもやっぱり千人は多く感じるなぁ」

 俺が周りを見てそう呟くと、アリシエーゼが乗ってくる。

「まぁ、じゃがこの程度の人数でどうにか出来るものでも無いと思うがの」

 そんな話をしつつ待っていると、列の先頭の方に聖女騎士達が見える。
 流石と言うべきか、傭兵達は皆バラバラで思い思いに並んでいたり、座っていたり、身体を動かしていたりするが、教育が行き届いている様で騎士達は皆身動きをせずに綺麗に並んでいる。

 暫く仲間内で談笑していたが、一向に攻略が開始される気配が無い為、段々と苛立って来ている自分に気付いた。

「何か待っているのか?」

 誰にとも無くそう言うと、アルアレが反応した。

「分かりませんが、隊の割り振りは昨日決められていますので、何かこの場で決める事などは無いと思うんですが・・・」

 割り振り?
 何の話だろうか

「何、割り振りって?」

「おや、昨日ドエインさんから話を聞いて無いですか?」

 それを聞き、俺はドエインを見るが、当のドエインはそんな視線など何処吹く風で、飄々と言って除けた。

「別にそんな情報有っても無くても変わらんだろ」

 聞けば、今回の攻略では騎士団を除く傭兵のみ、ある程度中隊規模に纏めて運用するらしく、俺達は殿のあの噂の蒼炎の牙の中隊に組み込まれる様であった。

「関係あるだろ・・・連携とかいきなりやれって言われても無理だと思うし、ある程度はその何とかの牙って奴らの為人は把握しておくべきだ」

「連携?旦那が?」

 俺の言葉に心底意外と言う表情をしてドエインが言う。

「・・・なんだよ?」

「いや、意外と言うかなんと言うか。てっきり俺達は勝手に動くもんだと思ってたし、何より旦那と姉御が人の言う事に素直に従うとは思って無かった・・・」

 コイツ・・・
 俺やアリシエーゼを何だと思ってるんだ・・・
 あ、でもアリシエーゼが他人の言う事に素直に従うとは思えないな・・・

 そう思い俺はアリシエーゼをチラリと見ると、その視線に気付いたのかアリシエーゼは俺の顔を見て、そして次第に目を細めて言った。

「・・・なんじゃ、何か言いたい事でもあるのか?」

「いや、別に・・・」

「ふんッ、妾だってその指示が適切なら従うわ!誰がお転婆じゃッ!」

 いや、そんな事言ってねぇし・・・

「とりあえず今回が魔界は皆初めてなんだし、最初は様子見も兼ねて周りに合わせる」

「そりゃ失礼。そこまで思い至らなかった」

 そう言ってドエインは肩を竦めた。

「・・・んで、その何とかの牙ってのは何処に居るんだ?」

「蒼炎の牙な。さっきから探しては居るんだが見付からねぇんだ」

 ドエインは辺りをキョロキョロとし、アルアレや他の者も釣られて辺りを見るが、どうやら見当たらないらしい。

「・・・おい、まさか其奴らを待ってる訳じゃねぇだろうな」

 俺は嫌な予感がして言うが、本当の所をしる者が居ない為、誰も答える事は無かった。
 クソ聖女達に文句の一つでも言ってやろうかと思っていると、列の後ろ、ホルスの街の方が何やら騒がしくなった。

「おい、あれって!」

「あぁ!蒼炎の牙だ!」

「参加する中隊って、ファイさんの所の第一中隊だったのか!?」

 ホルスの街の方から人並みを割って歩いてくる一団が目に付き見遣ると、銀に輝くフルプレートアーマに身を包み、蒼いマントを棚引かせる金髪のクソイケメンが居た。

 え、何このイケメン

 ファイと呼ばれる人物がこのイケメンである事は直ぐに分かったが、中隊を率いてる割にはもの凄く若く見える。

「アイツが中隊長なのか?もう少し、何て言うか歴戦の戦士みたいなオッサンかと思ってたが・・・」

「あぁ、アイツ二十二だぞ」

「うぇッ!?若いなぁ」

「そうなんだよ、若いのにあの超有名な傭兵団、蒼炎の牙の中隊長だぜ?しかも、このホルス支部の支部長でもある」

 中隊長だけならまだしも、巨大傭兵団の支部長までやってるとは・・・

 つまりは、蒼炎の牙のホルス支部に何個くらい中隊があるかは分からないが、もしその中隊が大隊を組んで行動する事があるとしたら、このファイと言う男が、大隊を指揮する事になると言う事だ。
 話を統合すると、このファイが居るお陰でホルスではハイスタード帝国が也を潜めていると言う説まである程だ。

「うちのドエインとは偉い違いだな」

「放っとけよ!!」

 俺の言葉にドエインは自分でも実感しているからか、悲痛とも取れる叫びを上げる。
 実質大隊長と言う事は、つまりはリラと同じと言う事だ。
 年齢はリラより若いし、それだけでどれ程このファイと言う青年が有能かは知れた。

 まぁ、軍と傭兵団を一概には比べられないだろうが・・・

 ファイが率いる中隊は百名程度だが、それが人の並を割ってどんどんと先へと進んで行った。
 聖女達の居る一番先頭部分に到達するとファイが聖女やダグラスに頭を下げているのが見えた。
 何を話しているのかは聞こえない―――まぁ聞こうと思えば聞けるんだが―――が、動作を見る限りは遅刻した事を詫びているのだろうと言う事が想像出来た。
 暫くすると、ダグラスが後ろの集団、つまり俺達が居る方を振り返り、誰かを探す仕草をする。

 俺達を探してるのか・・・?

 周りの人間より頭一つ抜けて背の高いダグラスが直ぐに俺達を見付けて指を差したり、手招きしたりしているのが見て取れた。

「・・・何か妾達を呼んでおるようじゃの?」

「・・・みたいだな」

「行かんのか?」

 アリシエーゼが動かない俺に対してそう言うと、他の仲間達も一斉に俺を見た。
 それは他の傭兵達やここに集まる者達も同じで、ダグラスと俺達を交互に見遣る者がいっぱい居たが、俺はそんな事を気にせずに鼻を鳴らして言った。

「ふんッ、遅刻して来た癖に。用があるってんならそっちから来いってんだ」

「・・・うわぁ、性格悪いですね」

 俺の毒づくとモニカが軽蔑した様な目で俺を見てボヤくが、何だ文句でもあるのか?と目で訴えると小さく悲鳴を上げてユーリーを盾にして隠れた。
 そんな様子を見て俺はため息を吐いた。

「はぁ・・・仕方無い、行くか」

 俺達はファイ達が通った人の列が割れた通りを無言で進んだ。
 先頭に到着すると、ダグラスが俺達を快く向かい入れ、イヴァンが舌打ちをし、聖女が忌々しそうに睨む。

 相変わらずだなと笑いが込み上げて来るが、俺は我慢をしてダグラスに聞く。

「何か用か?」

「いやぁ、態々すまない!ファイ、此方が話した者達だ!」

「・・・へぇ、お話は聞いています。何でも聖女様達とコボルト・ジェネラルを討伐したとか」

 ファイは俺達全員を一通り見て優しい笑みを零す。

 うわ・・・
 間近で見るとすんげぇイケメン・・・

「アンタも噂は聞いてるよ。今回はそっちに俺達が入ればいいのか?」

 俺達の物言いに、ファイの後ろに控える団員達から「何だあのガキ」だとか「ファイ様に向かって何て口を聞いてるんだ」とか聞こえて来た。

 ん?何か女性が多いな?

「そうだね。君達は魔界は初めてかい?」

「全員初めてだ。とりあえず指示してくれりゃちゃんと動くよ。まぁ、その指示が適切ならな」

「な、何て口を聞くんだ!このガキが!」

「ファイ様の能力を疑うのか!?」

 俺の言葉にファイの傍に控えていた二人の女性が直ぐに声を上げて抗議するが、俺はその内の一人を見て目を丸くした。
 俺は直ぐに篤を見るが、篤も同じく口をあんぐりと開けて目をゴシゴシと擦っていた。
 それもその筈、声を上げた一人は頭部に二つの動物的な耳を生やし、両手と両足の一部分がこれまた動物的でその部分は体毛がフサフサとしている。

 獣人・・・いや、亜人?

 エルフやドワーフが居るのだから当然、獣人なども存在すると思っていたが、この世界で今まで見た事が無かったのでかなり驚いた。
 篤は未だに目をゴシゴシと擦り幻では無いかと疑っている様だが、気持ちは分かる。
 俺と篤がその獣人を凝視しているのに気付いたファイが微笑みながら俺に語り掛ける。

「猫人族を見るのは初めてかな?」

 その声に意識を引き戻されて俺はファイを見る。
 その後は二、三やり取りをして話は落ち着いた。
 俺達はファイの中隊と共に魔界攻略部隊の殿を務める事になったが、最初は慣れない場所だからとファイ達に全てを任せて動き等を勉強させて貰う事とした。
 俺達の話が終わると漸く、魔界攻略の開始が合図されて、皆で一様に声を上げ、己を鼓舞して士気を高めて魔界に向けて歩き出す。

 先ずはこのイケメンが己を信奉する女性を周りに置いて自己満足に浸る、ハーレム脳の阿呆かどうかを見極めるかと思い、そして嗤った。

「あーッ、アリシエーゼさん!ハルさんがあの女性を見てニヤニヤしてますよ!」

「な、何ッ!?」

 それよりも先ずはモニカに教育が必要か・・・
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