異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第111話:魔力充填

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 デス隊に、鼠小僧の様な真似を指示して、その後は残された金貨を俺達の宿のアルアレの部屋に勝手に置いて来る様に指示した。
 指示を出した時に、アルアレ達は宿にはまだ戻って来て居ないだろうが、入口の鍵が閉まっているかもと言うと、デス隊はだから何だと言わんばかりに、問題有りませんの一言で片付けていた。

 いやぁ、頼もしい

 俺はデス隊が鼠小僧している間に金貨の入った革袋を一つだけ持ち出して、アリシエーゼ達の元へと向かった。
 あの店のが有るのは内拾番街で、この地図外道共のアジトが有るのが内玖番街ですく近くだとは言っても、外に出ると大分日の入りも近付いていた為、小走りで戻る。
 店の前に到着すると、近くの雑貨店から丁度出て来るアリシエーゼ達と鉢あった。

「お、丁度良かった」

「なんじゃ、もう戻って来たのか」

 そう言ってアリシエーゼは俺が持っているパンパンに膨らんだ革袋を見遣る。
 早よ見せんかと無言のプレッシャーを掛けて来るアリシエーゼをジト目で見つつも革袋の口を開けて中を見せた。

「お、おぉッ!?全部金貨ではないか!?」

 一瞬で目が金貨しか見えなくなっているアリシエーゼに危険を感じて俺は直ぐに革袋の口を閉めた。

「あッ!ズルいぞ!」

「はぁ?何がだよ、これはお前の金じゃないだろ」

「それだけあればどれ程の串焼きか食えると思っておるんじゃ!」

「知るか」

 付き合ってられるかと俺は手甲を買いに店の中にはへと入って行く。
 後ろからブーブーと小煩いアリシエーゼ達が着いて来る形となるが、やっぱり一人で行動するんだったかなと少しばかり後悔をした。

「おっちゃん、あの手甲買いに来たよ」

「・・・本当に来るとはな」

 店主は若干の驚きを見せつつ、直ぐにあの手甲をカウンターの奥から取り出して手元に置いた。

「小金貨八枚だ」

「分かってるって」

 俺はカウンターに金貨の入った革袋を態とらしくドサリと置いて片手で金貨を鷲掴みにして取り出す。

「・・・」

 俺の手元から店主が目を離せなくなっている事を確認してからほくそ笑み、そして適当にジャラジャラと金貨をカウンターに落とした。

「一、二、三・・・・・・はい、これで八枚だ」

 カウンターに落とした金貨から八枚数えてそれを店主に向けてスッと差し出す。

「・・・あぁ、確かに」

「じゃあ、そういう事で」

 俺は手甲を受け取りそのまま踵を返して店の出口へと向かった。

「ま、また来いよ。お前だけなら歓迎する」

「・・・ハハッ、分かった、また寄らせてもらうよ」

 俺は店主の言葉を受けて軽く振り向いて笑い、手を挙げて答えた。
 店を出ると日の入りした様で大分辺りは暗くなっていた。
 なので俺達は今日はこのまま宿屋へ戻る事にして、寄り道をせずに帰路に付いた。

 宿屋に到着すると、デス隊が正面玄関の前で待機していたので声を掛けた。

「お、ちゃんと部屋に置いて来たか?」

「はい、問題御座いません」

 デス1がそう答えてから、俺を見て続けた。

「残りのものはどう致しましょうか」

 残りと言っているのは、俺の資金調達先の事を言っているのだろう。
 少し思案して俺はデス1に答える。

「とりあえず今日はもういいかな。明日以降気が向いたらまた声を掛けるよ」

 そう言うと、デス1とデス2は明らかに沈んだ表情となっていたので何だか可哀想になると同時にそんなに賞金が欲しかったかと苦笑いした。

「大丈夫だよ、二人はとりあえずこれを分けて使って」

 そう言って、手甲の代金である賞金金貨八枚だけ抜いた革袋をデス1に手渡した。

「よ、宜しいのですか!?」

 チラリと見ると、デス2はゴクリと唾を飲み込んでいた。

 ここまで来るとなんかそう言うネタに見えるな・・・
 本人達は至って真面目なと言うか素直な反応をしているのだろうが笑えて来る。

「いいよ、本当に好きに使ってくれ。ただ、魔界へ行く際はお前達三人には隠密行動じゃなくて普通にパーティメンバーとして着いて来てもらうつもりだから、それで装備はしっかりと整えておいてくれ。デス3もね」

「ハッ!」

「残りは好きに使うといいよ。今日は別に夜俺の周りを警戒なんてする必要無いし、飲みにでも何でもすればいいよ」

「し、しかしそれでは―――」

「いいから!たまには息抜きしなよー」

 俺はそう言って返事も聴かずに宿屋へと入って行った。
 宿屋に入り、とりあえずアリシエーゼ達と飯にしようと話して一旦各自部屋へと戻る事にした。
 フロア自体は皆同じなので一緒に階段を登っていると、上から声が聞こえて来る。

「あッ!帰って来ましたよ!」

「本当だ。絶対あれ暖くんの仕業だよ」

 上を見上げると、階段の先にアルアレとパトリックがおり、アルアレは焦った様な表情をしていた。

「ん、どうかしたのか?」

「どうしたじゃ無いですよ!アレはなんですか!?」

「アレって金貨の事か?」

「そ、そうですよ!帰って来たら部屋に大量の革袋が置いてあり、何かと思って開けてみれば全て金貨じゃないですか!?」

「ちょ、ちょっと声が大きいって」

 興奮しているアルアレを俺は諌めるが、アルアレは中々興奮が冷めなかった。

「普通に考えて見て下さい。帰って来てあんな大量の金貨が部屋に置かれていたら普通どう思いますか!?」

「え?いや、凄いなぁって―――」

「違うでしょ!驚きと戸惑いと、そして恐怖ですよ!」

 まぁ、確かになんじゃこりゃ?と思うし、恐怖も感じるかも・・・

「わ、悪かったって。とりあえず資金調達はこれで大丈夫か?」

「・・・はぁ、今後は連絡を確りとお願いしますよ。調達はあれで十分です。と言うよりやり過ぎです」

「なんじゃ、お主どのくらい奪って来たんじゃ?」

 アリシエーゼが横から口を挟むが、若干言い方が気にならなくも無い。

「さっきの革袋が全部で十三かな」

「な、何!?全部金貨なのか!?」

「そうだけど?」

「何を考えておるんじゃ!?」

「いや、何も考えてないよ」

「はぁ!?」

「いや、この辺の物価も何も分からないんだ。どれくらい必要かも分からないんだし、適当にもなるだろ」

 別に多く持っていて困る物でも無いだろうと思ったんだが、違うんだろうか・・・?

「アレでどれ程の屋敷が建つと思っているんですか!?」

「アルアレ、違うじゃろ!アレでどれ程の串焼きが買えると思っておるんじゃ!じゃろ!?」

「え、あ、はい・・・?」

 アリシエーゼ、お前のその食に対するブレの無い生き方、嫌いじゃないぞ

「まぁ、いいじゃん。とりあえず魔界への準備には金掛かるんだし、これで金の事は気にせずに最高の準備が出来るだろ」

「はぁ・・・」

 アルアレは頭を抑えて黙った。
 それを会話の終了と捉えて俺はアリシエーゼへと向き直る。

「アリシエーゼ、この手甲の使い方教えてくれ」

「おぉ、そうじゃったな。ではお主の部屋でやるか」

 食事の前に俺は早く手甲を装備したかったので、アリシエーゼの提案を快諾して俺達の部屋へと向かった。

「とりあえず手甲の説明は先程した通りじゃ。妾が少し魔力を込めてやるから装備してみるんじゃ」

 俺達の部屋に着くなりそう言ってアリシエーゼは手甲を両手で持ち、意識を集中して魔力を込めた。

 いや、俺には魔力なんて見えないし感じないんだけとねッ
 何となくだよ

「よし、ええぞ」

 アリシエーゼから手甲を受け取り、ちょぴりドキドキしながら両手に装備する。
 手甲は長さは手首と肘の間くらいで、侍が装備していそうなタイプのものでは無く、なんと言うか、西洋の騎士が装備している様な、指まで金属で覆われている細かい作業は出来そうに無いタイプの手甲だった。
 白銀に輝くそれを装備して見ると、その瞬間手の周りの感覚に違和感を感じた。

「・・・ん、これが障壁を展開してる時の感じなのか?」

 何とも言えない違和感を感じて手を振ったりしてみるが、違和感としてしか認知出来ない。

「まぁ、直ぐに慣れるじゃろ。障壁を展開している間はその部分は感覚が鈍くなるからの」

「そうなんだな。とりあえず何か殴ってみたいな」

 殴り付けの感覚や、その際の衝撃などを速く体感したくて、部屋に何か殴れる物は無いかと探すが、そんな殴って良いものが宿屋の部屋に置かれているはずも無く諦め掛けたその時、俺は見付けてしまった。

「・・・・・・・・・」

「・・・うん、どうした?」

 自分を見詰める熱視線に気付いた篤が惚けた顔をして俺に聞いて来るが、俺は無言で篤を見続けた。

「・・・」

「おい、暖。まさか私を試しに殴って見ようなどとは・・・」

「うん」

「えッ!?今のうんはどっちのうんだ!?思って無いのうんなのか、思っているのうんなのか!?」

 焦り始める篤を見て、俺は笑いが堪えられなくなり、吹き出した。

「ぶっはッ!そんな焦るなって」

 ヒーヒーと腹を抱えて笑っていると、アリシエーゼがジト目で俺を見ながら言った。

「タチの悪い冗談は止すんじゃ。兎に角、何か違和感を感じておるなら、障壁は張られておると思うのじゃ」

「うん、とりあえず調子は外に出た時に適当にやってみるよ」

「そうじゃの、後は燃費性能じゃとか、魔力を溜め込んでおける容量じゃとかの把握かの」

「容量か。俺は出力を変えられないから、出力は常に一定だし、容量が分かれば大まかな燃費は分かるか」

「そうじゃの。先程少し魔力を込めたが、まだまだイケそうじゃったぞ。もしかしたら、かなりの容量かもしれんな」

「そうなのか。確かマナストーンを使った魔力回路だとか何とか言ってたか?」

 魔力回路なんてワクワクワードは聞き逃す筈も無いし、ましてや忘れる訳も無い。

「うむ、良くは見えんし分からんが、どうやら内側に魔力回路か張り巡らされておる様じゃ。とりあえず、魔力満タンにしておくか?」

 アリシエーゼのその提案に俺は特に何も考える事無く、頷いて手甲を再度アリシエーゼへと手渡した。

「どのくらいかのう。キャパを大幅に超えると回路が焼き切れるからのう」

「おいおい、買って早々壊すんじゃねぇぞ?」

「大丈夫じゃよ」

 本当かよ・・・
 何だか心配になって来た・・・

 アリシエーゼは手甲を受け取ると、先程と同じ様に意識を手元に集中しだす。

「・・・」

 少しの間無言となっていたが、アリシエーゼは難しい顔をして呟いた。

「・・・少し慎重になり過ぎたか?もう少しイケそうじゃな、どれ」

 そう言ってアリシエーゼはスゥと息を軽く吸い込んでからその息を止めた。

「そりゃッ」

 溜め込んだ息と共に魔力を放出したのかは定かでは無いが、その瞬間、風とも圧力とも分からないものが俺の身体に当たった気がした。

 ―――キィィンッ―――

 そして同時に金属同士を打ち付けた様な甲高い音が部屋の中に響いた。

「あ・・・」

 え・・・?
 なに?
 え、いや、まさか・・・
 え??
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