異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第105話:タコ

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 冒険者ギルドなんて存在しないこの世界で、そんな冒険者ギルド的イベントが起こった事に反応が遅れてしまった俺は、このイベントを心の中で受諾して、横入り野郎の元まで歩いて行く。
 既に受付嬢と話を始めていた男を歩きながら観察するが、まぁ如何にも傭兵と言った風貌で、筋肉モリモリのマッチョな身体にレザーアーマーと背中にロングソードと言う何も感想等湧いて来ない物だった。
 ただ、身体付きはナッズよりも良く、クソ聖女のお守り騎士団長、ダグラスと同等くらいかと思ったが、それだけだ。
 肌は浅黒く、頭がスキンヘッドの為、とりあえず海●主と仮称する事にした。

「おい、海坊●主。順番抜かすんじゃねぇよ。次は俺の番だ」

 カウンターの高さに合わせて、前屈みになり、肘を付いて受付嬢と話す海●主を見下げながら俺は言った。

「そこを何とか頼めねぇかな?募集期限過ぎてるのは分かってんだが、期限って昨日だろ?何とかねじ込めねぇかな?」

「もう、ボルグさん無茶言わないで下さいよ~。でも、うちに何時も貢献してくれてるボルグさんですし~、上に聞いて来るのは吝かでは無いんですけど~」

「おぉ!頼むよ、今度酒でも―――」

 海●主も受付嬢も全く聞こえていないのか、俺を無視して話を進めようとしていた。
 この海●主はボルグって名前なのかとどうでもいい事を考えつつ、俺は徐に左手を振り被り、そのまま良い音が鳴りそうなツルツルの後頭部に平手打ちをかました。

「―――奢るか―――ッるがぁ!?」

 バチーンともの凄く良い音が部屋中に響き渡り、同時に何を言っているのか分からない言葉を吐き出して海●主はカウンターに突っ伏した。
 突然の事で受付嬢は絶句しており、バチコンかました音と海坊主の叫び声を受けて、建物の中に居る者達も一斉に此方を振り向き静寂に包まれた。
 俺はそんな事には構わず続ける。

「このタコが、何順番抜かしてんだよ」

 カウンターに突っ伏していた海●主は暫くするとプルプルと震え出し、更に観察していると突然、後頭部を押さえて勢い良く起き上がり俺に掴み掛かって来た。

「テメェッ!!何してんだコラァッ!!ぶち殺すゾォァッ―――ッヒュッ」

 俺は掴み掛かられる寸前でボルグと言う名のタコ野郎の股間を右脚で素早く蹴り上げた。
 勿論、最小限の力でだが。

 アレが潰れたのかどうかは定かでは無いが、ボルグは一瞬で顔が青ざめ、そしてドシンッと両膝を付いて股間を抑えながら蹲ろうとした。

 こんなもんで終わらせる訳ねぇだろ

 俺は倒れ込みそうになるタコ助の後頭部を鷲掴みにしてそのまま顔面をカウンターに叩き付けた。
 四度程。

「舐めてんじゃッ、ねぇぞッ、このッ、タコ野郎がッ」

「ぁッ、ガッ、ぎぃッ、ビャッ」

 半壊していくカウンターテーブルと共にタコ野郎は顔面を打ち付けられる度に短く悲鳴を上げ、俺が最後に後ろに投げ捨てると、大きな音を立てて倒れ込み、顔面を抑えながら涙を浮かべてのたうち回った。
 あぁ、因みにと言うか勿論、このタコ野郎の魔力供給やら魔力の流れをカットして、身体強化などさせはしていない。

「ひぃぃぃッ」

 それを見ていた受付嬢は悲鳴を上げて顔面を蒼白にした。
 俺はそんな事は気にせず、次にその受付嬢に言った。

「おい、姉ちゃん。お前、あんな白地な順番抜かしを黙認するってどう言う教育受けてんだよ」

「ひッ、ひぃぃぃッ!?」

 矛先が自分に向いたと認識すると受付嬢は心底怯えながら悲鳴を上げるが、ここでふと思う。

 あれ、何か俺悪役っぽくね?

 まぁいいかと意識を戻し俺は受付嬢と向かい合った。

「なぁ、聞いてんのかテメェ。次は俺の番だったよな?それを何で―――」

「一体何事だ!?」

 受付嬢を詰めている最中に受付カウンター近くのドアが勢い良く開き、そこから壮年の男が飛び出して来た。
 見ると、年齢は四十代くらいであろうか、短く刈り上げた金髪にタコ野郎のボルグに負けず劣らずの肉体をした男が、鉄製のハーフプレートメイルに腰にロングソードと言う出で立ちで仲間の男二人を引き連れて駆け寄って来た。

「一体どう言う事だ!?何があったのだ?」

 カウンターで震える受付嬢に壮年の男は問い詰めるが、受付嬢はビビり過ぎて何も言えずにいた。
 男は受付嬢から目を離し、倒れ悶えるボルグに顔を向ける。

「・・・ボルグじゃないか。一体―――とりあえず手当てをしてやれ」

 男はそう言って引き連れて来た男の一人に目配せをしてボルグを介抱させた。

「お前がやったのか?」

 壮年の男は俺に向き直りそう言った。
 その顔は怒りが滲み出ていた。

「そうだけど?」

 俺はそれがなにか?と言う様に白々しく答える。

「・・・何故こんな事をした?と言うか、ここが何処だか分かってんのか!?」

「って言うかさ、先ずは俺が何故あのタコ野郎を叩きのめしたのかを知るのが先なんじゃねーの?」

「タ、タコ?だから、何故こんな事をしたのかと聞いている!」

「何だお前、見た目通りの脳筋なのか?俺が言ってんのはこうなった経緯も禄に調べもしない癖に俺が悪いみたいに言うんじゃねぇよって言ってんだよ」

「な、なんだと!?」

「それに、ここが何処かだと?ただの一傭兵団の建物。それ以外の何でもねぇだろ。ダセェ事言ってんじゃねぇよ」

「き、貴様ッ」

 俺の煽りに壮年の男は青筋を立てて今にも爆発しそうな表情で睨むが、一泊置いてふぅと深い深呼吸をすると少しばかり冷静な様子で再度俺に言った。

「・・・では、何故こんな事になっているのか経緯を説明してくれ」

 へぇ

 俺はニヤリとしてここまでの経緯を説明した。
 と言っても、タコが横入りをして来て、俺が咎めても無視を決め込んだ為、再度文句を言うとタコが俺を殺そうとして来たので、命の危険を感じたから反撃したと言っただけだ。
 タコの後頭部を引っぱたいた事はとりあえず伏せた。何となく。

「それは幾ら何でも言い過ぎだろう?殺そうとする訳が無いだろう!?」

「何故?」

「何故って、順番を守らなかったから注意されたくらいで人を殺すなど・・・」

「まぁ、どうでもいいよ、そんな事。やられる前にやったってだけだ。白地な順番抜かしをきて、それを咎めもせずにクソみたいな媚びを売るそこの女を教育してやっても良かったんだぜ?それをタコ野郎にしてやったんだ」

 俺がそう言うと、男は未だに震えている受付嬢にそうなのか?と顔を向けた。

「そ、そんなッ、ボルグさんは殺そうとなんてしてませんッ」

 受付嬢は必死に壮年の男に訴える。

 まぁ、確かに殺されそうになった訳じゃないけどな

 何て思うと、何故俺はこんな無駄な事をやっているのだろうと思い始め、そうすると本来の目的を思い出したので、とりあえず今の内に情報収集だけは行っておいた。

 おッ、外壱番街に丁度いい感じの宿屋があるじゃないか

 集めた情報から、条件に合う―――主に明莉の希望する風呂付きと言う条件だが―――宿屋は複数存在する事が分かったが、特にこの外壱番街にある、大癒館と言う、高級宿が個室風呂付きの部屋も有り良さげだった。
 そんな事を考えてる間に、壮年の男は受付嬢から事情を聞き、ある程度の詳細を把握した様であった。

「・・・やはりキミはやり過ぎの様だ。ボルグが順番を守らなかったと言うのも単にキミが言っているだけに過ぎない」

 そう言われた俺は受付嬢を見るが、受付嬢は俺の視線に気付くとサッと目を逸らした。

 ふーん

 ただ、この時点で俺は情報も入手しており、溜飲も下がりまくっていたのでどうでもいいかと、俺の中でここに留まる理由も無くなったので建物を出る事にした。

 あんまり遅いと皆に言われちゃうからねッ
 特にアリシエーゼとか、アリシエーゼに・・・
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