異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第90話:勧誘

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「それじゃ、説明始めまーす」

 俺は北門を出て直ぐの所にふんぞり返り、此方を見る難民の人々の視線を一手に集めた。

「なんだこいつは?」

「一体何の説明なんだろ?」

 ガヤガヤと騒ぎ始める難民だが、皆、俺の説明は聞く気でいる。
 それもそのはず、見える範囲の難民達にと命じたのだ。
 ちなみに、北門周辺の兵士には皆、して貰っている。

「えー、まず皆さん、この関所を超えたいですかー?それとも、この場にずっと留まりますかー?」

 俺は出来る限り大きな声で難民達に向けて話した。

「何言ってんだ?越えたいに決まってるだろ」

「そうだな」

「って言うか、誰だよこいつ?」

「何なの?怪しい子供ね。親は何処に居るのかしら?」

「変な顔ー」

 おいッ!最後のガキ!
 お前の顔覚えたからな!

 難民達は俺の最初の問いに様々な反応を示した。
 概ね、関所を越えたいと言う意見が大半であったが。

「俺達は只今、傭兵団に入ってくれるメンバーを募集していまーす!そこで、うちの傭兵団に入ってくれる方はこの関所を越えさせて上げようと思いまーす!」

 そう言うと、難民達は一斉に色めき立った。
 だが、当然、不安も伝播する。

「どう言う事だ?俺達に傭兵をやれって事か!?」

「俺は戦えないぞ!?」

「小さい子供にも戦わせるつもりか!?」

 そう言った不安要素や不満の様な物も出て来る事は折り込み済みなので俺はそのまま続けた。

「勿論、ここに居る方々が傭兵では無い事は分かっていまーす!もしかしたら、元傭兵なんて方もいるかも知れませんが、大半の方は武器も持った事が無い方なんだと思います!ですので、俺から提案です!俺達の村に来て、傭兵団のお手伝いをしませんか!?」

「手伝い?何をするんだ?」

「怪しくないか!?」

「勿論、戦いに出たい人は希望がらあれば俺達の傭兵団で戦い方はキッチリ教えますので安心して下さい!」

「それじゃあ、戦わない人達は行けないって事!?」

「見てくれ!女子供も沢山いるんだぞ!」

「まー!まー!分かってます!勿論、戦いたく無い人も大勢居るでしょう!ですが、安心して下さい!うちの傭兵団は独自に村を作って生活しています!その中で自給自足で生活しているんです!つまり、戦わない者にも仕事はあります!農作業に洗濯!その他諸々、老若男女問わず仕事はあります!」

「傭兵の村?」

「めちゃくちゃ怪しいぞ・・・人攫いの類いか?」

 まぁ、そう簡単に信用なんかしてくれないよね

 俺は難民の人々には、ただ、俺の話を聞いてくれと命じただけだ。
 俺の言う事に従ってくれとは言っていない。
 だが、これでいいと思った。こんなの無理矢理やらせる事じゃないしなと心の中で改めて思う。

「なので、俺達の村に来て貰えれば、最低限の衣食住は保証します!まぁ、当然食料は自給自足なんで作ってもらう事になりますが、センビーンだけじゃ無く、狩りをして肉を食う事も出来る!当然、狩りの仕方は教えます!女性の方や子供、お年寄りの方も農作業やら洗濯やら色々仕事はあるので、ちゃんと仕事をやってくれれば、言った様に衣食住を保証します!傭兵になりたい方、なってくれた方には傭兵の仕事をしたら当然別にお給金もお支払いします!こんな所で一生を過ごす気なんて皆さん更々無いでしょう!?だったら俺達と一緒に来ませんか!?」

 俺はここまで一気に叫ぶ。
 それを聞いた難民達は騒めき、周りの人達と相談し合う。
 俺の声だと奥の方まで届かないので、奥の方には聞こえる人達に伝えてもらい、ここに今居ない人達にも同様に伝えてもらう様にしておいた。

「ほ、本当に食べ物と寝る所を貰えるのか!?」

「子供達に変な事しないでしょうね!?」

 俺の前に居る難民達から矢継ぎ早に質問が飛び交うが、俺は出来るだけ全てに対応して応えた。

「怪しいと思うのは当然です!俺だってどこの誰か知らない奴がいきなり傭兵団にはいれとか言って来たら怪しみます!ですが、そこは俺を信じて下さいとしか言えませんが、必ず衣食住は保証します!あッ、でも!今は村は二百人程が住める広さしか無いので、これから村を大きく開拓していくのも仕事と思って下さい!」

 目の前に居る難民だけで、五百程はいそうなので、倍以上に拡張しないと寝る所も出来ないが、もしこの難民達が来るとなったら、先行して寝る場所だけでもポロン達に作って貰おうと考えた。

 デス達に伝言頼めば速攻でイけるよな・・・?

 不確定要素も有るが、まぁ大丈夫だろうと軽く考えるが、ポロンは大変そうだなとこころのなかで笑った。

「まだ色々と考える事もあるでしょう!なので今日一日考えて下さい!明日の朝一の鐘が鳴ったらまたここに来ますので、その時に希望する者だけ俺達の村に連れて行きます!」

「ほ、本当に信じていいんだな!?」

 俺が関所内に踵を返そうとすると、一番前に居た男が叫んだ。
 それを聞き、俺は右手の親指をグッと立ててサムズアップして応えた。

「兄ちゃん!」

「うん?」

 そんな俺を見て、此方走りながら声を掛けてくる少年が居た。

「俺も傭兵になれるかな!?」

「こ、こら!お止めなさい!」

 この少年の母親と思しき女性も駆け寄って来て少年を抱え込む。

「俺だってなれるんだぜ?きっとなれるさ!」

 そう言って俺は満面の笑顔で頷いてそのままその場を後にした。
 そして宿屋へと帰る間際、どうせ明日やる事だからと、周りの兵士に明日の仕込みをしておいた。

 反対側の門の方もやっておくかな・・・
 どうしようかな・・・

 明日やるのと今全て終わらせてしまうのどちらがいいかと考えて、今全て終わらせてしまおうと思い、俺はそのまま南門へと向かい、見える範囲の兵士全てに仕込みを済ませた。

 ついでに大隊長とかその辺も済ませちゃうか・・・

 そう考えると、街道警備隊だけで無く、外壁の警備隊にも仕込みが必要かと考え出し、なんだかいきなり面倒臭くなってしまった。

 まぁ、これも俺の傭兵団の為だと思って・・・

 結局、街道警備隊と外壁警備隊のほぼ全ての兵士に仕込みを施してしまった。
 気付けばすっかり日は沈み、辺りは暗くなってしまっていた。

 つ、疲れた・・・
 でもこれで難民がいきなり関所越えようがそれを俺達が扇動しようが大丈夫だろ

 一仕事やり終えたので何だか無性に酒が飲みたくなってしまったので急いで宿屋に戻る事にした。

 これで皆夜飯まで食ってたらどうしようか・・・

 そんな事を考えて宿屋まで小走りで帰ると、宿屋の前に見慣れた者達が立っていた。

「・・・ヤットキタ」

「こらッ!遅いのじゃ!何やってたんじゃ!」

「もう、あまりにも遅いから心配しちゃいましたよ」

 宿屋の前には、ユーリーとアリシエーゼと明莉、そしてモニカの姿があり、みんなそう言って俺を迎えた。
 勿論、モニカはちゃんとユーリーと手を繋いでいる。

 良かったね、手繋げて

「ごめんごめん。ちょっと立て込んじゃってね!」

 俺はそう言って笑って誤魔化した。
 とりあえず今日あった事はまだ言わない様にして、明日驚かせようと思った。

「むッ!?お主、何か良からぬ事を企んではおるまいな!?」

 こんな時だけ鋭いとは・・・

「別に企んでねーよ。それより晩飯は食っちゃった?」

「・・・マダ。マッテタ」

 ユーリーはモニカの手を無理矢理振りほどいて俺の方まで歩み寄り、上目遣いでそう言った。

「そうか、待っててくれたのか!ありがとう!」

 そう言って俺はユーリーの頭に手を起き、ワシャワシャと頭を撫でた。
 ユーリーは眠そうな目を細めて少し口角を上げていたので、きっと嫌がってはいないのだろうと思った。

 モニカ・・・そんな泣く程悔しいのか?

 ユーリーに手を払われたモニカは外套の裾を握り端っこを噛み締めて泣いていた。

「よしッ!じゃあ食べに行こう!昼も食べて無いからお腹空いてんだ!」

「・・・ウン」

「ヨシッ、こっちじゃ!」

 ユーリーは俺の手を握り、アリシエーゼが先導して歩き出す。

「そう言えば、他の奴らは?」

 俺はユーリーと手を繋ぎ歩きながら明莉に聞いた。

「・・・もう、はじめてます」

「・・・そう」

 アイツらッ!!
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