異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第89話:突発的計画

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 「そんな事でしたら!キミの様に強い者は此方としても大歓迎だ!ハッハッハッ」

 先程の泣き叫んで醜態を晒すと言う大失態をしたとは思えない程のダグラスの朗らかさに、クソ聖女とドエインは絶句した。

 いやぁ、ダグラスくん、ごめんね
 ちゃんと書き換えておいたから!
 ついでに、あの醜態を目撃した奴らも全員纏めて無かった事にしておいたから!

 「じゃあ、そう言う事で宜しく!」

 「分かった。ではキミ達は先程言った通り、ホルスまでは別行動で向かい、私達がホルスに到着したら合流して魔界を攻略すると言う流れで良いかな?」

 「うん、それで。そっちは途中の街や村に寄って協力者集めたりして遅くなるだろ?」

 「そうだな、だが、ここからはあまり大きな街は無いから、キミ達とは三日程の差にしかならんだろうが」

 「うん、分かった。俺達もホルスで色々買い物したりしたいし丁度いいよ。そっちが到着したら連絡が欲しいんだけど、ホルスって騎士団が駐留してるよね?そっちに泊まっている宿を伝えておけばいいかな?」

 「あぁ、ホルスには大規模な駐屯地が結構ある。街中にもデカい中央軍の大隊が駐留しているが、教会派遣団用の駐留施設もあるからそっちに伝えておいて貰えると助かる」

 「了解、じゃあそう言う事で」

 ダグラスとの会話を終わらせて俺が部屋から出て行こうとすると、すかさずクソ聖女が待ったを掛ける。

 「ちょ、ちょっと!待ちなさい!ダグラスも何でそんな簡単に・・・って言うか、貴方大丈夫なの!?」

 「はて?私が何か?」

 ダグラスは聖女の言わんとしている事が理解出来ずに眉を顰める。

 「・・・何なのよッ、巫山戯んじゃないわよッ」

 悔しそうに言ってクソ聖女は俺を睨み付けるが、俺はその視線を軽く受け流した。

 「この者の戦闘力は聖女様もご覧になったでしょう?これを逃す手は無いですし、あの中に居た女性のあの奇跡の力。あの力はきっと我々の助けになりましょう」

 「き、奇跡の力ですって!?な、何言ってるのよッ」

 「あれが奇跡では無かったら何が奇跡と言うのですか」

 そうそう、俺達はお前らを救った英雄だよ?

 「・・・もういいわ」

 漸くクソ聖女は諦めたのかそれ以上の問答はせずに俯いてしまった。

 「あ、大隊長さん、ドエインなんだけど、警備隊を除隊して、俺達のパーティに入る事になったから諸々の手続き宜しくね!」

 「あぁ、承知している」

 「んぇぁ!?俺その話まだして無かったんですが!?」

 突然、自分の進退の話となり、しかもまだ話してもいない内容が全て決まってしまっている事にドエインは素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

 「ドエイン、明日にはここを立つから準備はしておけよ。朝一の鐘がなったら北門に集合だ」

 「ぇ、あ、わ、分かった。って言うか、旦那がやったのか・・・?」

 「うん?そうだよ。俺に任せろって言っただろ?」

 「た、確かに言ったが・・・ま、まぁいいか」

 そう言ってドエインは無理矢理納得した。

 うんうん、素直な子は好きよ

 もう話す事も無いと俺は今度こそ部屋を出る為に踵を返すが、思い直して立ち止まった。
 そして俯き黙ったままのクソ聖女に首だけ回して言った。

 「おい、クソ聖女」

 「・・・何よ」

 「忘れんなよ。舐めた態度取ってると―――」

 「わ、分かったわよッ!」

 俺が言い掛けると聖女はそれがまるで煩わしいとでも言わんばかりに地団駄を踏んで叫んだ。

 「へいへい」

 そんなクソ聖女の態度を気にも止めずに俺はそのまま部屋を出た。

 思ったより時間喰ったなぁ

 施設を後にして俺は空を見上げて、もう皆飯は食い終わってるんだろうなと思った。
 空を見上げたり、関所内の街の住人の普段の営みを眺めたりしながらゆっくりと宿屋へと向かった。
 宿屋の前に辿り着くが当然誰かが俺の帰りを待っている訳でも無かったので、食事が出来る酒場等にまだ居るかもなと思い探しに出ようと思ったが、急にふと北門の方はどうなっているのだろうと思い、其方に足を向けた。
 関所内の大通りを北門へと進み、色々な商店などを外から覗き見ると、流石と言うべきか、要所の要だけあって武器や防具わ取り扱っている店は結構な大きさの店舗を構えた所が数件あった。

 ドエインには朝一で北門に集合って言っちゃったけど・・・
 この辺見てから出発にすれば良かったかな

 この後一人で見に行ってもいいかなとも思ったが、クソ聖女共から巻き上げた金は殆どアルアレに渡してしまったんだと思い出す。

 これで足りるかな・・・

 以前、宿場町で買い物をする際にアルアレから持たされ腰のベルトに括り付けていた小さな革袋に入った金貨や銀貨を袋越しに触ってそんな事を思った。
 そんな事を考えながら歩いていると北門に到着する。
 門の中は入ってきた反対側の門と同じで広めの広場の様な作りになっており、門自体も同じ作りだ。
 ただ、警備兵の数が尋常では無く、門の中だけで無く外にもかなりの数を配備しているのが見て取れた。

 外から入って来るのはかなり厳しい審査があるって言ってたな

 ドエイン達との会話を思い出しながら、門の外を窺うが、そこにはかなりの範囲でテントや荒屋の様な今にも崩れそうな建物が見えた。

 なんじゃこりゃ!?

 内側から見れる範囲でももの凄い数の人々が門の外側周辺に住み着いており、現代の地球に居た時にもテレビで見た、難民キャンプの様であった。

 これ、一体何人の人がここに住み着いてんだ・・・

 結局は門の内側からしか覗き見る事しか出来ないが、見た感じそこに居る人々は皆、ボロボロの服を着て、きっと風呂などにも入っていないのだろう。かなり汚れている事が分かった。
 俺は直ぐに門の近くにいる兵士の脳から情報を取り出し、状況を確認する。

 なるほど・・・
 このダリス領内では、この関所から北に住んでいる者は基本的に特別な許可が無い限り此方側には移動出来ないのか・・・

 傭兵や商人は許可を得ているので身分を証明出来れば比較的自由に行き来は出来るが、傭兵や商人では無い人々はこの関所を通る事が出来ない様だ。
 余程の身分が高いまたは、金持ちなら問題無く通れるみたいだが、ホルス周辺が今はハイスタード帝国との争いの最前線であり、その周辺に住んでいた人でその争いや、今でも起こる小競り合いの余波を受けて住む家が無くなったり追われたりとこちら側に逃げて来るしか無かった人々が門の外に大勢押し寄せて来ていると言う訳だ。
 いくらハイスタード帝国の間者などを警戒していると言っても、自国の民を見殺しにしている様なこの状況に若干嫌悪感を覚えた。
 俺の能力を使えば、この難民の様な人々を此方側へ移動させる事は出来るが、この関所を通してどうなるんだと思った。
 ここで燻っていると言う事は、兵士に賄賂を渡すなんて事も出来ない財政状況なのだろうし、そんな状況なのなら、例え関所を超えたところで他の街や村に行っても格好からしてまともな職に有りつけるとも思えない。
 そうならばその後どうなるのか・・・きっと、野盗等に身を崩す者が多数出て来るだろう。
 もしそうなったら、その野盗に襲われる被害者が出ると言う事で、それは俺がここを通さなかったら出なかった犠牲だ。
 ここを通す事による、二次被害や三次被害が発生した場合、俺はそれに対してどう向き合えばいいのかと考えるが、何もしない方が面倒は少なくて済むので当然俺は何もしない事に決めた。

 すまんね・・・

 心の中でそう呟いて俺は北門を後にしようと視線を切るが、その時丁度北門から伸びる街道の左側の方の一角で農作業をしている若者の姿を捉えた。
 食料の配給くらいは最小限でもあるのかと思ったが、どうやらそれすら関所の人間はしていない様で―――国からのお達しがあるからだろうが―――北門外側の難民達は皆自給自足で主にセンビーンを栽培して飢えを凌いでいるらしかった。
 そんな自給自足の為、彼処此方に畑の様な物が点在しているのに今気付いた。
 その畑で作業をしている一人が目に付いた訳だが、その者を見た瞬間、またしてもアリシエーゼに言わせれば碌でも無い計画を思い付いてしまった。

 やっちまいますかー
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