異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第86話:聖女再び

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「のう、反対側の手空いておるじゃろ?そっちは妾が使って良いじゃろ?」

「ユーちゃん?お姉ちゃんもこっちの手空いてるから繋ぎましょ?ね?」

 俺とユーリーが手を繋いで大通りを歩き出すと、アリシエーゼとモニカが騒ぎ出し、事ある毎に俺達の行く手を阻む。

「「・・・・・・・・・」」

「お主照れておるのか?今更何を言っておるんじゃ。一緒に風呂まで入る仲であろうに」

「ユーちゃん、お姉ちゃんの事嫌いになっちゃったの?そんな事無いよね?」

「「・・・・・・・・・」」

「のう、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけで良い―――」

「あッ、そうだ!ユーちゃんに服買って―――」

「そろそろ黙れよ、メ●ガキ。ブラコン」

 俺は耐えかねてアリシエーゼとモニカをそれぞれ見て言い放つ。

「メ、メ●ガキ!?」

「ぶらこん?」

 アリシエーゼは驚愕の表情を浮かべて固まり、モニカは俺の言った事を理解出来ずに首を傾げた。

 何なんだ此奴ら・・・
 マジでウザいんだが・・・
 それにアリシエーゼッ!
 お前と一緒に風呂に入った記憶は無い!!

「五月蝿いからマジで黙れ」

 俺は苛立たし気に言い放ちユーリーと手を繋いだまま通りを再び歩き始めた。

「メ、メ●ガキは取り消すんじゃッ!」

「あのぅ、ぶらこんって何なんですか?」

 それでも尚、二人の勢いは収まる気配を見せなかったが、もう完全に無視する事にした。
 すると、前方から此方に走ってくる人影を目端で捉えたのでそちらに顔を向ける。

「あ、いたいた!宿屋取れたよ!」

 俺達の元に走り寄って来たパトリックが笑顔でそう言った。

「お、良かった!じゃあ早速行こう」

「うん、でも全員一緒の宿じゃ無くて別れちゃう事になるんだけど・・・いいよね?」

 そう言ってパトリックは上目遣いで聞いて来るが、どう言う訳か何となくムズムズする感覚に陥る。

「・・・お、俺は大丈夫だけど」

 俺はそんな感覚を悟られまいとアリシエーゼに話を振った。

「別に良いのでは無いかの。どう言う内訳じゃ?」

「はい。僕達四人が一部屋、姫様とアカリさん、モニカさん、ユーリーくんが一部屋。ハルくんとアツシさんが別の宿で一部屋になります」

 あ、俺と篤が別の宿なのね等と思っていると―――

「何ぃ!?何故そんな割振りにしたんじゃッ!?」

「・・・・・・ヤッ」

 アリシエーゼは絶叫し、ユーリーは繋いでいた手を離して俺の脚にしがみついて来た。

「・・・・・・・・・」

 俺はアリシエーゼの我儘には一切意識を向けず、ユーリーを見下ろした。
 ユーリーは俺の脚に必死にしがみついており、俺のパンツの生地に顔をグリグリと押し付けている。

 か、可愛い・・・

「ユーリーは俺と一緒がいいか?」

「・・・ウン」

 そう言ってユーリーは俺を見上げながらコクリと頷いた。

「そ、そんな!?ダメですよ!」

 慌ててモニカが叫ぶが、どちらかと言うと変態ブラコンの方がダメだと思うのは俺だけだろうか・・・

「もういいよ。とりあえずユーリーは今日はこっちで預かる」

 俺はピシャリと言い放ち、パトリックに宿の場所を聞きながら歩き始めた。

「そ、そんな・・・殺生な」

 モニカが道端でよよよと泣き崩れるがもう慣れた。
 こう言うのは相手しないに限る。
 ここでふとアリシエーゼが静かだなと思い、振り返ると今まで一緒に居たはずが姿が見えなかった。
 周りを見渡すと、通りの左側からアリシエーゼの声が聞こえた。

「パトリックッ、金を持って来るんじゃ!」

 其方を見た時にはアリシエーゼは既に両手に何か芋の様な物が串に三つ程付いた食べ物を数少ない屋台で購入していた。

 購入って言うか・・・
 まだ金払って無いな・・・

 アリシエーゼの声にパトリックも其方を見るが、状況を直ぐに理解して小走りで向かった。

「・・・あんまり甘やかすなよ」

「ははは、分かってるよ」

 本当に分かっているのか甚だ疑問だが、まぁそれはこいつらの問題だと諦め俺はパトリックに聞いた宿屋へ、モニカ、ユーリー、篤、明莉と共に向かった。

「・・・あのぅ」

 その途中でモニカが俺に遠慮がちに聞いて来た。

「ん?ユーリーなら渡さないぞ?」

「えッ!?何ですか!?いきなりライバル宣言ですか!?」

 いやいや、何のライバルだよ・・・

「何言ってんだ、このブラコン女」

 俺は冷めた目でモニカを見るが俺の言葉を聞き、目を見開いた。

「それですよ!それ!さっきからぶらこんって何なんですか!?」

 それかよ・・・

「・・・おほんッ、モニカくん、それは私から説明しよう」

 俺が何と言うか考えている間に篤が俺とモニカの間に入って来て堂々とそう言った。

「・・・え、あ、はい」

 そう言われたモニカは篤に苦手意識でも持っているのだろうか、若干声を詰まらせながらも返事をした。
 苦手意識と言うか、話す時もそうで無い時も篤はモニカのしか見ていないので、ハッキリ言ってしまえばかなりドン引きしているに違いない。

「ブラコンと言うのは、ブラザーコンプレックスの略で、つまりは変態的に弟を愛する変態と言う意味なのだよ!」

 ハッハッハと声高らかに笑いながら篤はモニカにブラコンとは何なのかを説明しているが、決して世のブラコンが皆変態では無い。
 純粋に家族を愛する気持ちが強い者もそう言うのかも知れないが、モニカに関しては変態と言って良い。
 弟に女装させてそれを眺めて絶頂する様な女の子だ。
 そんな奴が変態じゃ無かったら何が変態と言うのだろうか。

 「へ、変態!?私が!?」

 「うむッ」

 「そ、そんな・・・私は変態なんかじゃ―――」

 そう言ってモニカは狼狽えるが、間違い無く変態だ。

 「だが、弟を愛する気持ち、私には痛い程伝わって来るぞ!」

 篤はそう言ってまた高らかに笑った。
 モニカの身体をガン見しながら・・・

 いや、お前も十分変態なんだけどな・・・

 そんな篤とモニカのやり取りを他所目に俺達は再び宿屋に向かって歩き出すが、すぐにモニカが追い付いて来て言った。

 「と、兎に角!ユーリーが私と離れる事には断固反対しますッ」

 「・・・と、ユーリーの姉はそう言ってるけど、どうする?」

 俺と手を繋いで無言で歩いているユーリーに向かい聞いてみるが、案の定の回答が返って来た。

 「・・・・・・ハルトネル」

 「ッ!?!?」

 その答えにモニカはこれ以上無いくらいに目を見開き、そして固まった。

 まぁ、放っておこう・・・

 ただ同じ通りにある宿屋に向かうだけなのに一向に進まない事に呆れて何も言えないが、変態な姉と一緒に寝かせるよりはユーリーも安全だろうと自分の中で結論付けた。
 なんやかんやと騒ぎながら俺達はパトリック達が取った宿屋に到着したが、いつの間にかアリシエーゼとパトリックも合流していた。
 アリシエーゼを見ると、今の串焼きみたいな物を未だに両手いっぱいに持ち、息付く暇も無いくらいの勢いで貪っていた。

 もうら此奴のこう言うのも全て無視しよう・・・

 そう心に誓いつつ、宿屋の前にパトリック以外の傭兵の面々が集まって居たので声を掛けた。

 「部屋取れたんだってね、ありがとう」

 俺がそう声を掛けると代表してアルアレが返答した。

 「いえ、宿が別々になってしまいましたが、この宿屋は私達と姫様の組になります。ハルは向かいのその宿屋になります」

 そう言ってアルアレは通りを挟んで向かいの辺りにある宿屋を指差した。

 「あぁ、うん。わかった、ありがとう」

 「姫様、それぞれの宿の店主にはドエインが来るかも知れない事は伝えておきました」

 「うぅ、ほぁこっはーーーんぐッ、それでは部屋に荷物を置いたらとりあえず昼飯にするかのう」

 芋の串焼きをモグモグしながら言ったアリシエーゼにまだ食うのかよと思ったのはきっとおれだけでは無いはずだ・・・

 「そ、そうですね。昼時も過ぎてますから多少店も空いているでしょうから、何処か探しておきますか?」

 「うむ、頼むぞ。それでは皆の者、各自準備出来たらまたここに集合じゃ!」

 今の今までモグモグしていて、更には両手いっぱいに芋を持っているアリシエーゼを見ても誰も何も言わなかった。

 いや、言ったって虚しいだけだな・・・

 「俺と篤は置いておく荷物なんて無いから部屋に入らなくてもいいんだけど、ユーリーはあの杖はどうする?」

 今はナッズが大荷物と一緒に持っているが、ユーリーはクソ聖女から貰った杖があり、あれはユーリーが持ち歩くのは大変かなと思ったので聞いてみた。

 「・・・オネエチャンニモッテモラウ」

 ユーリーはモニカを便利な荷物持ちとして指名した。

 「うんうん!ユーちゃんの大事な荷物はぜーんぶ、お姉ちゃんが預かるからね!」

 弟に頼られたのが嬉しいのか、モニカはデレデレと顔を歪ませた。

 おめでたい奴め・・・

 そんな事を考えた矢先、アリシエーゼが少し声を潜めて言った。

 「・・・なんじゃ?面倒臭い事になりそうじゃの」

 「??」

 アリシエーゼの呟きを拾ったが何を言っているのか分からず聞き返そうとしたが、思い出して軽く鼻を啜った。

 あー・・・
 マジで面倒臭ぇやつじゃん・・・

 「見付けたわッ!!アイツらよ!!」

 俺達が歩いて来た方から喧しい声が聞こえたかと思うと、直ぐに俺達はかなりの人数に取り囲まれた。
 見ると、街道警備兵の様で皆、同じハーフプレートメイルを身につけ、同じ武器を携行しており、その武器は抜いてはいないものの、何時でも抜ける様な体制を取っていた。
 いきなり大勢の兵士に取り囲まれ、傭兵達もモニカや篤、明莉も一様に動揺を隠せない様子であった。
 唯一、俺とアリシエーゼとユーリーだけは取り乱さずただ先程の喧しい声の主を見つめていた。

 「やっぱりここを通ると思っていたわッ!この私にあんな口を聞いて只で済むとでも思っていたのッ!?」

 はぁ・・・
 出ましたよ、無能聖女
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