異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第2章:闇蠢者の襲来編

第77話:苛立ち

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 目を覚ますと夕陽に染まった赤橙あかだいだいの雲が見えた。
 そんな雲を見ながら俺はそのまま起き上がらず暫く居た。

「あれ?あ、ハルくん起きたよ!みんな!」

 俺の目覚めを感じ取りパトリックが叫ぶ。
 するとゾロゾロと足音が聞こえて来たので仕方無く上半身だけ起こした。

「あ、まだ寝てないとダメだよ!」

 パトリックは慌てて俺を支えようと手を差し伸べるが今更だ。

「いいよ、大丈夫だよ」

 俺はそう言って、身体の調子を確認しながら完全に立ち上がる。
 地べたに寝ていたせいか若干身体が固くなり所々痛むが、これは別にだと無視した。

「終わったんだな」

 俺は辺りを見渡しそう言った。

「そうだよ!ハルくん凄かったんだから!」

 パトリックは満面の笑みを浮かべて俺にそう言った。
 周りには姫様傭兵団の他にも明莉、篤、モニカにユーリー、聖女と騎士団、更にはその傭兵達も何人か集まって来ていた。

「もうッ!暖くん全然起きないんだもん、私の力でも全然目を覚まさなくて、私、本当に・・・うぅッ」

 そう言って明莉は涙ぐむ。

「本当ですよ。無茶し過ぎです」

 アルアレはやれやれと息を吐きそう言った。
 ソニは無言だが俺に微笑みそして頷く。

「お前最後、芋虫みたいだったぜ」

 そう言ってナッズは歯を見せて笑った。

「自分でもそう思ったよ・・・仕方無いだろ、本当に立ち上がる事さえ出来なかったんだ」

 俺もそれを思い出し、そして何だか笑えて来て一緒に笑った。
 すると突然、尻にドンッと衝撃を受けて飛び上がる。

「痛ッ!?」

 慌てて振り返ると其処には自分の身体よりも大きな先端に孔雀緑くじゃくみどりの大き目の石が取り付けられた杖を持つユーリーの姿があった。

「ユーリー?いきなり何すんだよ」

「・・・ヤクソクシタノニ」

 俺が能力を使った事に対して言っているのだとすぐに理解する。

「・・・あー、すまん。でもあの場ではもうああするしか無かったんだよ」

「・・・ミツカッチャッタヨ」

「見付かった?」

「・・・ジゴクニミツカッタ」

「・・・・・・・・・」

 また地獄かと思ったが、先程の触手以上の事が起こるとすればそれは地獄なのかもなと思った。

「・・・ハルノウソツキ」

 ユーリーはご機嫌ナナメだった。
 何とか取りなそうと考えるが何も思い付かなかったので、目に付いた手に持つ杖について聞いた。

「その杖どうしたんだ?戦闘中は持って無かっただろ?」

「・・・」

 俺の質問に黙るユーリーであったが、質問の答えは別の所から返って来た。

「その杖は私が差し上げました」

 そう言って聖女が一団からスッと抜け出し言った。

「・・・」

「この子は類稀なる才能をお持ちの様子。先の戦闘の際も非常に良く貢献して頂きましたので、そのお礼を兼ねて」

 スラスラと言い淀む事無く言う聖女に俺は特に感情を表に出さずに言う。

「・・・あ、そう」

「・・・え?」

 俺の淡白な返答に聖女は面食らった様な表情をした。

「チッ、貴様ッ!何だその態度は!」

 安定の舌打ち野郎がしゃしゃり出て来る。

 んだよこの舌打ち野郎・・・舌打ちイヴァン?舌打ちのイヴァン?
 ふはは、お前の二つ名は今日から舌打ち!お前は舌打ちイヴァンだ!

 等と脳内でふははと笑い妄想に浸っているが、その間もイヴァンはあれやこれやとイチャモンを付けて来る。
 俺はそれら雑音を全て無視して聖女に言う。

「お前、クソの役にも立たなかった癖に何偉そうに言ってんだよ。」

「・・・は?え?」

 聖女はまさか自分がこんなにもこき下ろされるとは思っても見なかったのか、アホ面を晒す。

「え、じゃねぇよ。戦闘ではクソの役にも立たない。人を癒す事も出来ない。お前のどこに聖女の要素があるんだ?言ってみろよ」

「わ、私はエル教会に選定された聖女ですよ!?それ以外で聖女を名乗る事は許されませんッ」

「んで?この舌打ち野郎を救ったのは誰だよ。他にもその教会に選定されていない一般人に救われた奴いるよな?お前何したの?」

 最後はぷくくと笑い俺は聖女を挑発する。

「し、舌打ちだと!?」

 などと言っているイヴァンは無視して続ける。

「何が貢献したから杖を差し上げただよ。テメェ何様だよ。恩着せがましいにも程があんだろ」

「な、何よアナタ!?そんなに言う事無いじゃない!」

「いーや、言うね。目の前の助けを求めている奴に手を差し伸べ無いで魔界攻略だけがお前の、聖女の使命ってんなら話は別だけどな」

「誰も救いたく無くてそうした訳では無いでしょう!?」

 あー、イライラしてくるッ
 何だろうか、コイツと話していると無性にイラついて来て、完膚無きまでに論破したくなって来る

「つまりお前はあの程度の傷も癒せない無能って事だろ?だったらうちの―――」

「ハル、そこまでです」

 ヒートアップした俺を諌めたのはアルアレだった。
 俺はアルアレを見るが、本人は目を瞑り顔を横に振るだけでそれ以上は何も言わない。
 アルアレの顔に免じてとここまでにしてやろうかと考えていたが、聖女の方は収まりが付かなくなっていた。

「うちの何よ!この女の事言ってるのね!?あの力、魔法じゃ無いでしょ!?分かってるんだから!」

「さあな」

「さあな、じゃ無いわよ!答えなさいよ!」

「何でお前如きに俺達の手の内を態々明かさないといけないんだ?聖女とは名ばかりの無能女が舐めた口聞いてんじゃねぇよ。これで超絶有能ならこっちから取り入ってもいいが、お前にそんな価値は全く無いだろ」

「なッ!?む、無能ですって!?」

「あぁ、無能だろ?お前さっき何かやったか?何か貢献したか?して無いよな?ただキーキー騒いでただけだろ」

「何言ってんのよ!ふざけないで!聖女にはもっと大切な指名があるのよ!!」

「あー、あれか。魔界で死んで来るって役目だろ?」

 俺はそう言って意地の悪い笑みを浮かべた。

「貴様ッ!!聖女様を愚弄する気か!!」

「いくらお前が先の戦闘で貢献したからとて今の言葉は捨て置けぬ!!」

 俺の言葉にそれまで黙っていた騎士や傭兵達は怒気を強めて俺を糾弾しようと詰め寄る。

「やめて下さいッ!!!」

 その剣呑な雰囲気をぶち壊す様に明莉が叫び、そして俺に縋る。

「暖くん、もうやめてッ、お願いだから・・・」

 明莉は泣いていた。
 ここで何故俺はここまで苛立っているのかと考えるがあまり思い当たらなかった。
 ただ聖女の存在が気に食わない。それだけかも知れないと思い、俺は短く息を吐いた。

「はぁ、もういいや。さっさとどっか行けよお前ら」

 俺はそう言ってその場から立ち去ろうとする。

「ま、待ちなさいよ!まだ終わって無いわ!その女の力、神聖魔法でも無いのに、最高位魔法と同じ位の効果があったのよ!?そんな魔法じゃないのに強大な力、異端と言う他無いわ!!」

「あっそ」

 俺は一切の興味を無くし、聖女一団から離れるべく歩き出す。

「アンタ分かってるの!?私が一つ報告するだけでこの女を異端審問に掛けて死刑にする事だって出来るのよ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
 それは実際の音を伴っているかの様に錯覚する程、大きく頭の中でバチンと音がして、それを合図に俺は一瞬で聖女を除く一団全員を
 そしてそれが終わるよりも早く聖女へと肉薄し、右手で聖女の首を掴み上げる。

「ぁ、カッ・・・」

 聖女は俺の動きにまったく反応出来ずに首を捕まれそのまま持ち上げられ、頸動脈を圧迫されて地に足が付かずにバタバタと空中で藻掻いた。

「ハル!?」

「ハルくん!!」

「バカ!止めろ!!」

 こちらの傭兵が俺を止めに直様入るが俺は意に介さずに聖女を持ち上げ真っ直ぐに張っていた腕を自分に引き戻し、聖女の顔と俺の顔が触れる間際まで近付けて言った。

「お前今何て言った?俺の仲間を殺すって言ったか?」

「・・・ぁ、ぁッ」

 聖女は言葉も行きも吐き出す事が出来ずに顔面を蒼白にしながら大男へと助けを求める様に視線を向ける。
 だが、大男含め聖女一団は一切の動きを見せなかった。勿論、俺がそうさせている為だが。
 暫くすると聖女は涙を流しそして白目を剥き始め為、俺は心底ウンザリして聖女を投げ捨てた。

「・・・カハッ!!ハァッ、ハァッ」

 地面に転がされ聖女は咳き込みながらも必死に息を吸い込み呼吸する。

「ア、アンタッ!ふざけんじゃない、わよッ!人殺し!!」

 いや、まだ殺してねぇしな

 と心の中で嘯くが、何だか急に溜飲が下がるのを感じた。
 俺は地面に座り込む聖女に一瞥をくれてそのまま一団の方に意識を向ける。

「おはよーさん」

 そう言って俺は一度手をパンッと合わせ鳴らす。
 すると、一団は動きの制限を解除され響めく。
 今まで微動だにしなかった仲間が動き出した事で思い出した様に聖女は叫ぶ。

「ダグラスッ!今の見てたでしょ!!何とかしなさいよッ!!!」

 聖女は金切り声を上げてダグラスと呼んだ大男を睨む。
 ダグラスはそう言われて俺を見るが、直様正常とは思えない行動に出た。

「ぅ、ぁ、ハァッ、うわぁぁぁぁ!!!!」

「え、え??」

 ダグラスは俺を見るや、尻餅を付き、顔を恐怖に歪めてした。
 聖女は何が起こったのか全く分からず困惑して俺とダグラスを交互に見遣る。

「ハゥァッ、た、助けてくれぇぇ!!」

 そして失禁した事には気も止めず、俺に背を向けて走り出した。
 それが伝播したかの様に続々と一団の者全員が例外無く俺を見て恐怖し、ある者は糞尿を垂れ流しながら、ある者は涙を流しながら一斉に村の出口に駆け出し、馬に乗り去って行った。

「た、助けてッ!!」

「嫌だぁ!殺される!!」

「ゆ、許して下さい!お願いしますッ、許してぇ!」

「ぁ、ぁあああッッ!!ひぃぃッ」

「ば、化け物ぉ!」

 おい、今化け物って言った奴ッ
 顔覚えたからなッ

「えッ!?あ、ちょ、ちょっと!?待ちなさい!何をやってるの貴方達!?」

 聖女はその光景に訳が分からず、ただ自分を置いて去って行く者達に焦り、後を追う様に立ち上がり駆け出した。

「ま、待ちなさいッ!命令よ!!あ、いやッ、待ってぇ!」

 聖女は最後まで取り残されたが、自分の馬に何とか乗り、一団の後を追って村から出て行った。

「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」

 後に残された俺達は暫く無言で村の出入口を見詰めるのだった。

 いやー、めでたしめでたし
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