異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第2章:闇蠢者の襲来編

第76話:最後の手段

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「・・・は?」

 俺はとても間抜けな声を出していたと思う。
 アリシエーゼの身体は袈裟斬りに真っ二つにされ、上半身が地面に落ちると下半身は後からゆっくりと倒れた。
 それを目で見てはいたが、情報として脳が処理を拒んだ。

「ひ、姫様ぁぁ!!」

 しかしアルアレの叫びが俺の思考停止を解除する。
 ハッとして顔を上げアリシエーゼをチラリと見るが、まだ修復は開始されていない。
 だが俺はアリシエーゼはその内復活する事を前提に動く。

「逃げろぉぉおぉッ!!!」

 此方に駆け寄ろうとする姫様傭兵団の面々を制止する様に俺は其方に向けて駆け出しながら叫ぶ。
 俺やアリシエーゼなら身体が切り刻まれ様がどうにかなるかも知れないが、他はダメだ。
 アリシエーゼの様に身体が両断されてしまえば明莉の奇跡でも治せないと思った。

「さっさと逃げろ!街道まではし―――」

 街道まで走って逃げろと叫ぼうとする途中で、両脚に激痛が走り、そして無様に転ぶ。

「暖くん!?」

 明莉が呼ぶがそれ所では無い。
 脚を確認すると膝下から鋭利な刃物で切断されたかの様に無くなっていた。

 痛てぇ!!

 そう思いながらスーパーコボルトであった物に目を向けると、口から吐き出した触手の様な何かが、スーパーコボルトの口から身を乗り出す様な形で人の上半身の様なものを形作っていた。

 な、何だよこれは!?

 スーパーコボルトの口が有り得ない程開かれ、顎が外れて既に意識は無い様であったが、触手で出来た上半身は腕が異様に長く、そして蠢いていた。
 スーパーコボルト自体に意識は無く生きているのか死んでいるのかは分からないが、何故か、その状態で自立していた。

 この触手が操ってんのか!?

 分からないが、それが分かった所で今はどうしようも無い。
 そんな事を考えている間に脚は完全に修復されていた為俺は立ち上がり仲間達の元へ駆け寄ろうとした。

「ぁ、ず・・・?」

 その途端、何故か上手く立ち上がれず俺は自分の身体を確認する。
 すると、さっきまであった両腕が先程の脚の様に切断されていた。

「ぐぁああッ!?」

 いつ斬られたかも分からず頭が混乱して来るがあの触手の様な物がやった事だけは分かった。
 ただ、その攻撃は見えず、全くと言っていい程反応出来なかったその事実が俺を恐怖させた。
 無様に地面に頬を付き這いずるその姿を見て傭兵の面々は俺達に駆け寄った。

「や、やめろォ!!来るな!馬鹿野郎!逃げろぉぉお!!」

 声が一瞬で枯れる程の大声で俺は叫んだ。
 この瞬間、この後の仲間達の行末を簡単に想像してしまう自分の脳に怒り、そしてそれを否定しながら同時に別の事を並行して考えている自分に気付く。
 更に言ってしまえば、別の事を考えていると思っている別の意識も別で有り、もうその時点で理解が追い付く事は無く、たが、別の事を考えていた意識はある一つの疑問を全意識に問い掛けた。

 あの口から飛び出ている触手で出来た様な上半身はちゃんと人間を形作っている
 スーパーコボルトとは別の意識だか生物だか何かが乗っ取っている?
 触手は意思が別にある?
 何処で考えている?
 脳かそれに変わる何かか?

 そこで意識が一つになる感覚に陥りそして結論付ける。

 を俺の力で乗っ取る!!!

 以前、地球に居る時に動物で実験した事がある。
 人間以外では当然上手く行かず試した瞬間に激しい吐き気と頭痛で瞬時に意識が刈り取られてしまった事を思い出すが、あの時確かに感じた。
 ほんの一瞬だが事を。
 実験対象は犬で、何を考えているのか、どうすれば良いのかその他諸々まったく分からず何も出来ずに終わってしまった実験でそれ以来危険を感じて自ら封印してしまったが、これはそれに近い行為だ。
 だが、あの時は確かに繋がった。
 別に物理的にも仮想的にも繋がりなど存在するはずの無い俺のこの能力だが、矛盾しているその繋がった感覚だけは覚えている。

 そこまで考えて俺は既に腕が修復されている事を確認したが、立ち上がりはせずにその場で顔だけを触手に向けた。

 刹那、俺は意識が一瞬飛んだ。

 直後には鼻から血を吹き出し、身体のありとあらゆる部位の温度が急激に上昇するのを感じた。
 そして、脳も物理的に膨張しているかの様に激しく脈打つ様で発狂しそうな痛みが俺を襲う。

 その痛みは脳か感じる痛みなのかそれとも脳の周りの神経を刺激しているのか・・・

 それとも、魂の叫びか

「ダメェェ!!」

 遠くでユーリーが叫ぶ声が聞こえる。

 デカい声だな
 やれば出来るじゃねぇか

 そんな事を混濁する意識の中で思いながら、そう言えばユーリーとこの力は成る可く使わないって約束したんだっけかと嗤う。
 その直後、まるで物理的な力場に弾かれる様に俺のアタックは弾かれるが、直後に俺は触手では無く、と再アタックを開始していた。
 其れはまるで事前にそうする事をプログラムされていたかの様に、こうなる事が分かっていたかの様に意識は混濁しているにも関わらず澱みなく実行された。

「ヤメテェェェ!!!」

 ユーリーは再び叫び、その叫びは懇願に近かった。
 そして俺はフラフラと立ち上がる。足取りは覚束無いが、触手へ向けて確かに一歩、また一歩と歩み寄る。
 触手の上半身に着いている腕の様な触手、つまりは触手の触手がピクリと反応するが、その瞬間、意識の無いはずのスーパーコボルトの両腕が動き、そしてその反応した触手をガシリと掴む。
 触手は声帯が無いのか声は発せられずにいたが、明らかな動揺が見て取れた。
 そんな事に俺は一切何も反応を示さずに更に触手へと近付く。
 そして触手の目の前まで辿り着くと意識して嗤った。

「そろそろ死んどけや」

 俺は声はとても小さく静かであったが、それは慟哭であり、魂の叫びでもあった。

 その場で軽く飛び上がり触手が形成している頭部をひっ掴むと両脚をスーパーコボルトの大きく開かれた口に乗せる。
 そして触手とスーパーコボルトを引き離す様に全身にありったけの力を込めた。
 メキメキと音を立てて徐々にスーパーコボルトの口から触手が離れて行き、そして程無くして完全に引き剥がした。

 引き剥がした触手から手が離れるが一緒に転げ落ち、その際、触手の根元になる部分に何か猩々緋しょうじょうひに輝く石の様な物を目にした。

 あれは核だ

 そう確信して叩き潰そうと立ち上がろうとするが身体に一切の力が入らなかった。
 それでも腕に力を入れて立ち上がろうと藻掻くが、景色はグルグルと目まぐるしく回り、平衡感覚は麻痺し、顔から地面に突っ込む。
 何度試しても同じ結果になり、焦る。

 ヤバい
 ここまで来て

 誰か代わりにこれを破壊してくれと叫ぼうとするが声さえ出なかった。
 仕方無く、芋虫の様に這いずり、触手の近くまで移動しようとするが、触手は苦しそうに踠き、バッタンバッタンと暴れる。
 下半身が無いお陰で立ち上がる事は無いが、近付いて核を破壊する事は不可能に思った。

 あぁ・・・ヤバい
 意識も飛びそうだ

 そこではたと思い出す。
 スーパーコボルトの身体を使えばと思い付くが、顔だけ向けると既にスーパーコボルトは事切れた様で地面に倒れてピクリとも動かなかった。

 宿主が死ねばその内自滅するのかな

 そんな事を思うがもう顔を動かす事も出来ずに瞼も重くなり、意識を手放す間際であった。

 詰みかもな

 そんな事を思って瞼が閉じて行くのを意識しながらただ呼吸をしていると、頭上から何かが聞こえて来たのを感じ取る。
 本当に最後の気力を振り絞りその何かに意識を傾ける。

「・・・・・・ぉぉおおの服高かったんじゃぞおおおおおッ!!!!!」

 アリシエーゼの叫びが落ちて来たと思ったら、俺の頭付近でドォォンと凄まじい音がして、同時にバキリと何かが砕ける音がした。

 結局、お前が全部持ってくのかよ

 そんな事を思いつつ俺は完全に意識を手放した。
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