異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第53話:テツヤ

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 ゴブリン達の都市がある鉱山跡地から、鉱山都市テツヤまでは馬車で二時間程の距離にあるとの事だった。
 俺達は身体強化を使ってグングンと進む為、途中休憩を入れても馬車と同じくらいの速度も出せるので、その時間にそれ程差異も無さそうであった。

 まぁ、俺は身体強化使ってねぇけどな・・・

 走り出して暫くすると、モリーゼが隣に寄ってきて俺に言った。

 「私達はこの辺りで失礼します。私と他数名はゴブリン達の事でまだ調整等行いますので、ここからはまたデス達にサポートさせます」

 「あぁ、分かった。ここまでご苦労さん」

 「はッ!それでは失礼致します」

 そう言ってモリーゼは踵を返してゴブリン達の都市へと戻って行った。

 「なんじゃ、彼奴は戻ったのか」

 「うん、まだ何かやる事あるんだってさ」

 「そうか。では妾達はテツヤに暫く滞在するか?」

 「うーん、馬車も待たないとダメだからそう思ってたんだけど、聞いた話じゃテツヤって鉱山が廃坑されてからどんどん寂れていってるんだろ?」

 昨日の話合いの中でそう言う話が出ており、鉱山で鉱石等が取れなくなってからはテツヤは衰退の一途を着実に歩んでおり、滅び行く間違いなく等と呼ばれていると聞いたので、元々はデカく賑わっていたのだろうが、そう聞くとあまり魅力を感じる街では無いので、長く滞在しなくてもいいかと思い始めていた。

 「妾達は直接テツヤへ赴いた事は無いのでの。情報収集をした限りだと今ではかなり寂れておるらしいの。山脈を迂回すると辿り着く位置にあるから、北への連絡地としての役割しか今は残っておらんらしいし、あまり魅力は感じ無いのう」

 「そうだよな。とりあえず中を見てみて、物資の補給と装備品良いの有れば調達するくらいか。長くても一泊だな」

 「そうじゃの」

 俺とアリシエーゼはそんな話をして、今後の方針を少し修正した。
 この話はデス隊に態々話さなくても、どこかで聞き耳を立てているはずなので、馬車に関してはたぶん良しなにやってくれるはずだ。

 たぶん・・・

 鉱山跡地からテツヤの間は結構深い森が存在するのだが、鉱山が稼働していた時は、街から鉱山までほぼ直線の道を整備していた様で、今でもその道は健在だ。
 なので今はその道を只管真っ直ぐ進むだけで楽なのだが、今ではほぼ誰も寄り付かない鉱山跡地から人が向かって来るのを街の人達が怪しむのではとそれが心配であった。

 「そんなものお主の力でどうにでもなるじゃろ」

 「・・・なるけど、人数が多ければそれだけで面倒だろ」

 「まぁ大丈夫じゃって」

 適当な奴めと思ったが、まぁ結局アリシエーゼの言う通り、最悪の時は俺の力を使う事になるし、そうなればどうとでもなるので今は別に気にする必要も無いかと思った。

 出発からどれ程経過しただろうか。
 体感で一時間ちょっと経過した辺りで、目の前に街の外壁の様な物が見えた。
 外壁を確認出来てからも暫く走ると、街の全容が見え始めるが、なかなかの大きさの外壁に囲まれていた。
 外壁の作りは石材で出来ており、かなり頑丈そうで、鉱山側の出入口は大きな木製の門があったが、そこは閉ざされていた。

「これは完全に閉ざされているのか、それとも言えば開けてもらえるのかどっちだ?」

「完全に閉ざされていますね。反対側、街道側に回り込みましょうか」

 俺の独り言に反応したのはアルアレでその言葉に皆無言で頷いた。
 暫く街の外壁沿いにグルりと反対側に回り込む様な形で進み、街道に出て出入口なのだろう、此方にも大きな門があり、そこは開け放たれている事が遠目で確認出来た。

「こっちは空いてそうだな」

「そうじゃの」

 俺の言葉にアリシエーゼが反応を示したが、他は特に反応はせず、黙々と門を目指す。
 そして漸く門まで辿り着き、開け放たれた門から中を覗き見るが明らかに活気は感じられなかった。

「うわぁ、思ってたよりも活気が無いなぁ」

「本当ですね。あまり人も出歩いて無さそうですし」

 明莉がそう反応するが、その通りであまり人も出歩いて居なさそうだし、出入口の門には兵士や門番と言った者達の姿も見当たらない。

「とりあえず中に入ってみるのじゃ」

 アリシエーゼがそう言うと、少し遠目から中を伺っていた俺達はテツヤの街に足を踏み入れた。

「うん、これ別に寄らなくても良かったんじゃないか?」

「・・・そうじゃな」

 テツヤの街は、かつての鉱山街としての面影は一切無く、見える範囲では宿屋と飯屋の様なものが数軒あるくらいで、後は民家なのかかつては何かの店だったのか分からない様な建物が並んでいるだけの街であった。

「完全に宿場町になっていますね・・・」

「それでも全然元気は無さそうだよね。人も全然居ないし」

 アルアレとパトリックが話しているが、山脈を迂回してから最初に通る街道沿いの街なので、宿場ならばある程度需要はありそうだと思っていたが、旅人も居るのか居ないのか分からない様な寂れ様であった。

「確かに迂回後の街ですが、食料に余裕があるなら、特にここで補給しなくても良いですしね」

 これはソニだ。確かに言う通り、この街で補給や休息をする理由は特には無い。
 この先も街道沿いなら村等はあるだろうし、この世界は旅で野営をする事は差程珍しい事でも無いので、あまりに疲れているとか、宿じゃないと眠れないとかの理由が無ければ別にここに立ち寄らなくても良さそうだった。

「どうするのじゃ?まだ昼になっておらんし、このまま進んでも良いと思うぞ」

「うーん・・・そうしようか」

 俺達がそう言うと、皆頷いた。
 街自体は広めなので、もしかしたら探せばやっている店等は他にもあるかも知れないが、これもここで揃えなければならない様な装備品や備品は今は無いので別にいいかと思った。

「では、先に進みましょう」

 アルアレの言葉で皆、踵を返してテツヤの街を後にするのだった。

 滅び行くって、冗談でも何でも無さそうだな

 ゴブリンイベントで大分お腹いっぱいだったので、テツヤで何かイベント的なものは期待していなかったと言うか、無くていいやと思っていたので特に何か感慨深くなる事も無かった。
 その日は結局、街道を北の関所目指して進み、暗くなる前に街道沿いで野営をする事にした。

「あー、何か特に何にも無い一日だったなぁ」

「・・・そうじゃのう。ゴブリン達の様なインパクトのある事の後じゃと何じゃかつまらんのう」

「・・・だよなぁ」

 おれとアリシエーゼは食後に焚き火の前で寝転がりながらお互いを見る事なく、夜空を見ながら呟いていた。

「平和でいいじゃないですか」

 それを近くで聞いていた明莉が反応して言う。

「そうは言ってもな、明莉さんや」

「・・・何でそんな年寄り臭い話し方なんですか」

「折角異世界に来たんだから、毎日、イベントの一つや二つは起こって貰わないと困るんだよ」

「どう困るんですか?」

「んー、退屈?」

「そ、それだけですか?」

「そうだよ?」

「・・・・・・」

 だって異世界ですよ?
 何で異世界に来てまで、毎日何事も無い、退屈なキャンプをせにゃならんのだ

 またイベントが起こる様に、イベント乞いの舞いでもするかな等と考えていると、それまで何処に居たのか、姿が見えなかったデス1が現れて言った。

「ハル様、敵襲です」

「「!!」」

 その言葉に俺とアリシエーゼが反応し、素早く起き上がる。
 それを見たパトリックも直ぐに索敵を始め、敵を補足する。

「たぶんコボルトが四かな?」

「どっちじゃ?」

「九時の方向、森の中からもう出て来ますッ」

 パトリックの言葉にナッズとソニが素早く反応し駆け出す。

「アリシエーゼは、ここで篤と明莉と一緒に」

「うむッ」

 俺の言葉にアリシエーゼが頷いたのを確認してら俺もナッズ達の後を追う。
 ナッズ達に追い付くと、既に敵は最後の一体となっており、それもソニがトドメを刺すとこであった。

「早いな・・・」

 俺の言葉にナッズが気付き振り返る。

「ただのコボルトだったからな」

 そう言って、ナッズは大剣に付いた血をブンッと振るって落とした。

「街道にコボルトですか」

「珍しいの?」

「無くは無いのでまだ何とも言えません」

 ソニはそう言ったが、街道警備の兵をあまり見掛けないと言っていたし、その辺も関係するのかなと少し思った。

「なんじゃ、もう終わったのか」

 俺達がアリシエーゼ達の元に戻るとアリシエーゼはそう言って出迎えた。

「とりあえず見張りはしっかりと立てておくに越した事は無いでしょう」

「うむ、そうじゃな」

「・・・ハル様」

 こちらの話を聞いていたデス1が俺に話し掛けて来るが、何が言いたいのかは直ぐに分かった。

「何を言いたいのか分かってるけど、とりあえずこっちで何とかするから、もしヤバそうなら独自の判断で動く事を許す」

「・・・ハッ」

 デス1は短く返事をしてまた闇に紛れて行った。

 さて、これがイベント開始の合図となりますかね
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