異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第28話:魔界

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 俺が思っている情報収集ネットワークを構築する為には先ずは分からない事を解決しておきたい。

「と、その前にちょっと聞きたい」

「?」

「先ず、この国ってアリシエーゼの実家がある国か?」

「そうじゃ」

「あ、そうなのね。てっきり国を出たのかと思ってたよ」

「知らない国に行くとか嫌じゃろ。知り合い誰もいないのに」

「・・・まぁいいや。じゃあここってアリシエーゼの実家が収めてる領なのか?」

「いや、違うぞ。ここはエンフェンフォーズ伯爵領とはまるっきり反対側のダリス侯爵領の更に外れにある森の中じゃ」

 おっ、侯爵出てきましたよ~
 これはお決まりパターンな、辺境伯ってやつですな?

「なにニヤニヤしておるんじゃ・・・このダリス侯爵領は北の守護を任されておっての、領の西側はモライアス公国、北側は魔界とハイスタード帝国に接しておる」

「魔界?」

「悪魔が作ったとされる、所謂お主が大好きであろうダンジョンじゃ」

 むほほぉぉおお!!
 ダンジョン来ましたよー!みなさーん!

「はぁ、やはりそんな反応になるか」

「そりゃそうだろ!ダンジョンだよ!?ってか、アリシエーゼはどうなんだ?」

「何がじゃ?」

「だから、ラノベなりアニメなり漫画なりゲームなり、多少は嗜んでたのかって事だ」

「多少?」

 そう言ってアリシエーゼはニチャる。

 はい、来ましたよ二チャリ顔ー!

「バカにして貰っては困るのう。嗜んでたどころではないぞ!かなり腐っておったわ!異世界!?転生!?転移!?その要素―――大好きじゃ!」

「おぉ~!」

 俺は思わずパチパチと拍手を送る。アリシエーゼはそれに気を良くしてわははと姿勢を仰け反らせながら豪快に笑っている。

「だったらダンジョンなんて聞いたらもう転生者冥利に尽きるってもんだろ」

「そうじゃのう!ワーッハッハッハ」

 言っていて自分でも何言ってるのかよく分からなくなってきた・・・
 まあいいか

「大体分かったけど、ここは魔界ってのの近くなのか?」

「いや、モライアス公国との境の森の中じゃ」

「国境が面してるそれぞれのモライアス公国とハイスタード帝国ってのとの関係はどんな感じなんだ?」

「モライアス公国とは友好関係を築いておる。元々、北側もモライアス公国の領土じゃったんじゃが、ハイスタード帝国が近年どんどん軍事力を強化しておっての、領土をかなり取られてしもうたんじゃ。今はエバンシオ王国のこのダリスとモライアス公国でハイスタード帝国を抑えとると言った構図じゃ」

「なるほどね、大体理解したよ」

 そう言って俺は逡巡する。
 魔界ってのはとりあえず置いておくとしてハイスタード帝国の脅威に晒されているのは事実だろう。

 そうするとやはり傭兵団は需要が有りそうだ

「ちなみに魔界、ダンジョンってどこの国の領土にあるんだ?」

「まあ三国がそれぞれ所有権を主張しとるよ。元々はモライアス公国内にあり、エバンシオ王国はダンジョンに潜る時だけモライアス公国に使用料みたいなものを払っておった様じゃが、ダンジョンがハイスタード帝国に狙われての。一時期ダンジョン周辺のみ成らず、モライアス公国領の三分の一以上がハイスタード帝国に占領されてしまったんじゃ。」

「うわ、マジかよ・・・」

「このままだと更に押し込まれて、取り返しのつかない事になりそうじゃったから、エバンシオ王国に支援を要請し、エバンシオ王国も王国で実はダンジョンを欲しておった様での。ダンジョンの所有権を何割かは分からんが見返りとして求めて、モライアス公国も背に腹はかえられぬ状況じゃったからそれを承諾して、ダリス侯爵軍の奮闘もあり今の様な構図になったんじゃ。なのでダンジョンの周りは中立地帯となっておっての、一応この地帯での軍事行動は条約で禁止されとるの今の所わの。」

「は~、そんな事になってるんだな。ちなみにもう一つ聞いておきたい。」

 まあ大体予想付くんだけどな。

「なんじゃ?」

「ダンジョンにはお宝が眠ってるって事でいいか?」

「その様じゃぞ」

「テンプレだな」

「テンプレじゃの」

「よし、アリシエーゼ」

 そう言って俺は真剣な眼差しでアリシエーゼを正面から見詰める。

「本当は情報収集の為の拠点を大きい街とかに作って、ここの村には人材育成の為の教育施設になってもらう予定だったが変更だ。ダンジョンを攻略するぞ」

「まあそうなると思っておったよ」

 アリシエーゼは小さくため息を付いたがそんなに嫌そうでも無さそうだ。
 アリシエーゼの話を聞いて、ダンジョンの存在を知って、俺のこの魔力無し状態からの一発逆転は、そのダンジョン産のが現状一番可能性あるんじゃないかと思った。

「だだそうするとさっきも言った通り、こことポロン達を有効活用しようと思ってたから、どうするかって話になる」

「全員でダンジョン攻略しに行けば良いでは無いか」

「え?」

「うん?」

 あれ、そんな感じでもオッケーなの?

「あ、いや、ダンジョンだよね?」

「そうじゃが?」

「ここって百人くらい居たよね?」

「うむ」

「その人数がぞろぞろとダンジョン行って大丈夫なの・・・かい?」

「大丈夫じゃろ」

「いやいや、ダンジョンだよ?」

「うっさいのう、そんなに心配なら一度見に行けば良いでは無いか」

 えぇ・・・だってダンジョンだぜ?
 ダンジョンって言ったらパーティで挑むものだろ
 パーティって言ったら四人とか五人だろ普通

「・・・じゃあとりあえず見に行ってみるか」

「うむ。いつから向かうつもりじゃ?」

「そうだな・・・この人数だと準備もあるしな。でもそもそもこの人数での移動は流石に厳しいよな」

「何故じゃ?」

「いや、街に着くまでの移動中はいいけど街とかに着いたらどうすんだよ。いきなり百人くらいで宿屋押しかけて泊めてくれって言っても絶対無理だろ」

「あぁ、そんな事気にしておったのか。別にそんなの街の外でキャンプすればいいじゃろ」

「えぇ、何だよそれ」

「考えてもみよ、戦時中に傭兵団や軍はぞろぞろとそれこそ数千人単位で移動するのなんてざらじゃろ。そんな数こそ街になんて入れんだろう」

 あ、確かに
 そう言われればそうだな

「そんな時は基本的には街の外などにキャンプを張る事になるし、街で何かあるなら傭兵団の代表が街に入る事になる」

「なるほど」

「それに今は一応戦時中時じゃしな。そんな事やってる傭兵団なんて沢山あると思うぞ」

「勉強になりやす、アリシエーゼお嬢!」

「な、なんじゃ突然」

「いやぁ、俺の知らない事はいっぱいあるなぁと思ってさ」

「そりゃそうじゃろ。お主はまだこの世界に来て数日じゃぞ」

「それはそうなんだけどね」

 それにしても分からない事は沢山あるし、俺が読んで来たの数々を主体に考えてる脳では思い付かない事も当然沢山ある。

「全員で移動する事に関しては問題無い事は理解したよ。でも、全員で出て行ったらここどうするんだ?」

「まぁ、魔界まではかなりの距離がある。途中で補給する事などを考えてると、少なくとも片道一ヶ月は掛かるかの」

「あの速度でそんなに掛かるのか」

「そうじゃの。つまりここに帰って来るとしても二ヶ月以上は掛かるし、破棄するしかなかろう」

「やっぱそうなんだな・・・」

「まぁ仕方あるまい。この森は何だかんだ危険な魔物や獣が多数徘徊しておるし、そうなると二ヶ月以上無人じゃと維持は望めまい」

 そう言うアリシエーゼを端目で見ると少し寂しそうにも見えた。
 そこまで長い年月を過ごした訳では無いだろうが、一からここまで立派な集落にしたんだ。それなりの愛着も湧くんだろうなと思った。

「・・・やっぱり全員で行くのは辞めよう」

「何故じゃ?」

「いや、この屋敷や村を放棄するなんて勿体無いし、寂しいだろ?」

「べ、別にそんな事考えんでもいいわ!好きな様にすれば良かろう」

「うん、だから好きな様にするよ。数人だけ連れて後は残ってここを維持させよう」

「良いのか・・・?」

「いいんだよ。やっぱり帰る場所があった方がいいだろ」

 そう言って俺はアリシエーゼを見て微笑むと、アリシエーゼも俺に微笑み返した。

「うん」

 アリシエーゼは吸血鬼になった際に早々に実家、家族、友人、その他関わりがあった全ての人との関係を絶つべく、すぐに実家を飛び出した。
 それは吸血鬼になってしまったらもう今まで通りの生活は送れないと気付いてしまったから。
 吸血鬼になる前もそうだろうとは思っていたはずだ。だが、やはり甘かった。軽く見ていた。
 闇の世界はどこまで行っても闇。決して光と交わる事は無い。交わってしまったら壊れずにはいられない。
 それを吸血鬼になった瞬間理解してしまった。家族を、友人を愛していたアリシエーゼはもし自分が吸血鬼であることが周囲にバレてしまったら、きっと家族に迷惑が掛かると、断腸の思いで家を飛び出したのだろう。
 やり方は結構エグいが仲間を見付けそして流れ着いたこの土地で腰を据えて生活をするに至る。森の中を一から開拓して、百人規模の人が住む村に変える。
 言葉にすれば一行で終わってしまうがそれは途方も無い事で、頑張ったに違い無い。
 家とかは近くの街の大工を片っ端から無理矢理連れて来て突貫工事させてたみたいだが・・・
 だからやっぱりアリシエーゼにはこの帰るべき場所を無くして欲しく無かった。

「とりあえず魔界に向かうメンバーを考えるか」

「そうじゃの。妾は当然一軍じゃろ!?」

「一軍って・・・」

 誰にするかなぁ
 でもポロン、アルアレ、ナッズ、トイズ、後は料理を作ってくれた人くらいしか絡んで無いからなぁ

「そう言えば、アルアレって神聖魔法使えるんだろ?」

「うむ」

「回復魔法も使えるって思っていいのか?」

 少人数と言う事はつまりパーティを組むって事だ
 パーティならやはりロールを考慮して組むのは常識!
 タンク、アタッカー、ヒーラーの基本構成で考えると、ナッズをタンク兼アタッカー(物理)にするか?
 俺とアリシエーゼをアタッカーで遊撃的な配置にして、アリシエーゼは物理、魔法両方で適時最適な攻撃方法を取らせるとしてアルアレはアタッカー(魔法)兼ヒーラーか?

「いや、アルアレが信奉している神は回復系の奇跡は起せなかったはずじゃ」

「あ、そうなのか・・・」

 そうすると、やっぱりヒーラーは別で必要だな
 トイズは・・・いらねーや

「じゃあこんな感じでどうだろう――」

 俺は今考えていた事をアリシエーゼに伝えた。

「ふむ、ではヒーラーを一人加えて、他は妾とお主、アルアレかの。タンクはナッズで良いのか?」

「そこちょっと悩むんだけど、盾持ちのタンク役なんてこの中にいるのか?」

「うーん・・・小盾を装備する者はおるが、お主が考えておるタンクは別物じゃろ?」

「そうだな。ラウンドシールドなりの大盾を持って立ち回るのを想像してる」

「やはりそうか。そうなるとここにはおらんのう」

「じゃあそれはどこかデカい街に行って、傭兵なりなんなりをすればいいかな」

「スカウト、な」

 アリシエーゼは含みのある言い方をしたが、その辺は自重する気は全く無く、いい人材が居れば即スカウトだ。

「とりあえずメンバーはそんな感じにしよう。アリシエーゼから皆に伝えて貰っていいか?」

「うむ。メンバーには明日経てる様に準備もさせておこう」

「宜しく頼む。あ、もう一つ」

「うん?」

「この辺りで何か金儲け出来そうな素材を入手出来たりしないか?」

「金になる素材・・・うーん」

「何でもいいんだ、木材でも食料でも」

「妾は金に無頓着じゃったからまったく分からん!」

「そ、そうか・・・」

 今までどうやって暮らして来たんだ・・・
 あ、コイツら自給自足だったわ

「でも例えば、着ている服とかダメになったらどうするんだ?流石に筋骨隆々なアイツらがせっせと裁縫している姿なんて想像出来ないんだが・・・」

「さあ?」

 おい・・・

「はぁ・・・もういいよ。誰がその辺分かるんだ?」

「ポロンじゃろ。アイツに面倒くさい事は全て任せておるからの!」

 そう言ってアリシエーゼはまたもや誇らしげに胸を張る。何か言うのもバカバカしくなり俺はポロンを探しに屋敷の方へ向かって歩き出した。
 アリシエーゼも当たり前の様に俺の後を着いて来た。
 途中で畑仕事をしている者にポロンが何処に居るか聞いてみた。

「今日は外で周辺の魔物狩りの班だったと思うぜ」

 首にかかっていたタオルで汗を拭きながら男はそう言った。
 剣を鍬に持ち替えたその男はどこからどう見ても農業に従事する百姓や酪農家にしか見えない。

 これで傭兵って言うんだから・・・
 何とも言えないなぁ

「いつ頃戻って来るのか分かる?」

「うーん、たぶん日が沈む前には戻って来ると思うぞ」

「そうか、じゃあ戻って来たら屋敷に来る様に伝えて貰えるかな?」

「あぁ、わかった」

「よろしくー」

 俺はそう言って畑を後にした。

「アリシエーゼはアルアレとかに伝えるの忘れないでね」

「うむ、今から伝えに行って来るのじゃ」

 そう言ってアリシエーゼは二十人程が集まって訓練の様な事をしている集団へと掛けて行った。
 俺はそれを見送ると屋敷に戻り、リビングの二人掛けソファーに座りゆっくりと息を吐いた。

「はぁぁ、遂に俺も人外になってしまったかー」

 まぁそれはそれで面白そうだと思い自然と口角が持ち上がる感覚を意識して更に深くソファーへ身体を沈めた。

 魔界か・・・
 楽しみだぜ
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