異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第24話:転生者特典

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 魔導具使えない事件から二時間程経っただろうか。
 俺は今もまだ荷馬車の中でふて寝をしていた。

「のう、魔力が無いのは仕方無かろう。今更それを悔やんでもどうしようもないんじゃし、魔物退治は妾達に任せれば良かろう」

「・・・」

「何も自ら危ない橋を渡らなくても良いではないか」

「女には分からねぇよ・・・ここが異世界だって分かった時の俺の気持ちが分かるか?」

「嬉しかった・・・?」

「そう、めちゃくちゃドキドキした。期待で胸が膨らんだ」

「そうか・・・」

 あれから直ぐにアリシエーゼも荷馬車に入って来たが俺を気遣って何も言わずに居てくれていた。

 はぁ、我ながら女々しいな・・・
 切り替えよう

 そう思い俺はふて寝を辞めてとりあえず起き上がりアリシエーゼの対面に胡座をかいて座った。

「すまん、もう大丈夫だ」

「本当か・・・?」

 アリシエーゼは心配そうに俺を覗き込んでそう言った。
 俺はそれに対して弱々しい笑顔を返すしか出来なかったが、いつまでも悔しがっていても解決しない問題に時間を使うのもバカバカしい。

「傭兵としてこの世界を旅して回るよりも前にこの状況をどうにか出来る方法を探す旅をする事にした」

「そんなものあるかわからんぞ?」

「まぁ、見付からなかったら見付からなかったらでその時また考えるよ」

「そうか」

「あぁ。アリシエーゼの傭兵引っ張るって言ったけどいいや、一人で気長にやっていくよ」

 流石にこんな下らない個人的な事に他人を巻き込むつもりは毛頭無い。

「それを皆で探せば良いであろう?」

「いや、傭兵家業を皆と、とかだったら楽しいを皆で共有出来ると思ったんだけど、流石にこれには巻き込めないよ」

「べ、別にいいではないか。巻き込んだって」

「良くは無いだろ」

「妾なんて勝手にあ奴らの記憶を書き換えて、無理矢理森の奥に隠れ住む生活を強いてるんじゃぞ・・・」

「まぁ――そうか、そうだな」

 翌々考えれば確かにそれはそれで酷いな
 もしかしたらアイツらにも帰りを待っている者が居たかもしれない
 もしかしたら成し遂げたい夢があったかもしれない

 そう考えるとアリシエーゼのやっている事は外道と言ってもいいかも知れないなと思いつつも、やはりこれにはあまり巻き込みたく無かった。

「そんなに自分が強くなりたいか・・・?」

「うん?そうだな、強く・・・うん、強くなりたい」

「どんな犠牲を払ってでも・・・?」

「うーん、自分の命と天秤に掛けたら流石にそこまではと言うけど、それ以外だったら割とマジで望んでるかな」

「そうか」

 この世界では穢人は本当に生き難そうだし、強くならないと傭兵も出来そうに無いのは事実だ。
 仮に悪魔みたいなのが俺の目の前に現れて、「力が欲しいか」なんて問われれば欲しいと答えるし、「その結果、他人が百人死んでもいいか」なんて言われても俺に関係が無い他人が死ぬのなら、特に悩むこと無くはいと答えるだろう。

「とりあえずアリシエーゼの屋敷に行って、歯ブラシ含めて色々と準備させてくれ。金は無いが」

 なんて嘯くがアリシエーゼから反応が返って来なかった為、若干滑った感が出てしまった。

「アリシエーゼ?」

「・・・・・・・・・」

「おーい?」

 全然反応無いからどうしたのかと顔を向けるとアリシエーゼは俯き考え込んでいる様子であった。
 なので俺はアリシエーゼの顔の前で手振って反応を見ていると直ぐに気付いて顔を上げた。

「な、なんじゃ?どうした」

「いや、全然反応無かったからさ」

「すまぬ、少し考え事をしていた」

「そうか、大丈夫か?」

「うむ、問題無い」

「「・・・・・・・・・」」

 二人の間に沈黙が続いたが、暫くすると荷馬車を牽いていた●王号が嘶いた後に止まった。

「森の入口に着いたようじゃの」

 アリシエーゼが幌の入口に目を向けてそう言った。

「ここから歩きなのか?」

「いや、この馬車が通れるくらいの道は整えてある。と言っても、そんな本格的なものでは無いがな」

 俺の問いにアリシエーゼは否定で答える。

「ちょっと外に出てくる」

「・・・わかった」

 アリシエーゼに断りを入れて俺は荷馬車から降りると周りを見渡す。
 馬車の前には大きな森が聳えており、確かに馬車が通れるくらいの道の様なものも見えた。

「ここから屋敷までどれくらいなんだ?」

 近くにアルアレが居たので話し掛けてみた。
 すると少し考える様な素振りを見せて直ぐに答えが返って来た。

「そうですね、かなり暗くなるまでは掛かるんじゃないでしょうか」

「そんな奥まで行くのか」

「そうですね、今までと同じくらいのペースでそのまま行くと思います」

 慣れない森の中を道が一応あるにせよ、あのペースで走って行くのかと考えると顔を顰めてしまった。

「荷馬車に乗っていてはどうですか」

 アルアレがそう言うと同時にポロンが傭兵団の面々に出発する旨を伝える声が届いて来た。
 俺は逡巡し、夜の森を駆ける事を想像して面倒くさくなってしまったので荷馬車に戻る事にした。

「ちょっと足手まといになっちゃいそうだから中にいるよ」

「そうですか、分かりました」

 アルアレはそう言って俺に笑顔を向けて来た。
 一応俺は傭兵団の団員と言う事にしているが、皆が走っているのに俺だけ荷馬車に乗って楽をしていてもいいのだろうかと少し疑問に思ったが、まぁどうでもいいかと考えるのを辞めて直ぐに荷馬車へ乗り込んだ。

「何やってんだ」

 荷馬車の中に入るとすぐにアリシエーゼが目に付くが、何故か荷馬車の真ん中で大の字になって寝転がっていた。

「暇じゃからの」

「それで暇は潰せるのか?」

「潰せる訳が無かろー」

「じゃあ何で――」

「お主が外に行ってしまったからじゃろッ」

 訳が分からない事被せて来たぞ・・・

「折角、妾がお主の為に色々と考えてやっておるのに」

「何を考えてたんだ?」

「教えんわッ」

「何でだよ」

 溜息を吐きながら俺はジト目でアリシエーゼを見るが当人は全く気にしていない様であった。
 そんな事よりと、俺のアリシエーゼへの態度が如何に冷たいかや、酷いか等を愚痴り始める。
 そんなアリシエーゼの小言を聞き流して、はいはいと適当に相槌を打っているとアリシエーゼは突然俺の両頬を自身の両手で挟み込み顔を近付けて来た。

「ちゃんと聞いておるのかッ」

「ちょッ、近いって!」

 俺はいきなりの事に焦ってアリシエーゼの手を振り払う。

 いきなり何するんだこのメ●ガキ・・・

「なんじゃちょっと意識させてしまったかのー」

 そう言ってアリシエーゼは例の二チャリ顔で嗤う。

「しねぇよ。アホか」

「無理はせんで良いんじゃぞ?妾は自分で言うのも何だがかなーり可愛い」

「自分で言うなよ、引くわ」

「そんな事言われてものう。これは神から与えられた訳じゃし、紛れもない事実で真実じゃ」

「何だよ神に与えられたって。お前のその外見は両親から与えられたものだろうが」

 現代の地球、日本に住む者ならば遺伝子に関しての基礎知識は基本的には持っているだろうし、アリシエーゼも俺も両親の外見的特性も色濃く受け継いでいるだろう。

「妾は違うぞ。転生の時にめちゃくちゃ美人で金持ちとして生まれ変わりたいと願ったしの」

「なんだそりゃ。お願いします、神様ってか」

「転生者特典とか言っておったから他に転生者がおるのならそ奴らもその特典は受け取っておるのではないかのう」

 は?
 こいつは今何と言った?
 転生者特典・・・?

「特典って何だよ。意味が分からねぇぞ」

「そう言われてものう。妾も死んだと思ったら目の前にが現れて特典の話をされただけだからの」

 マジで言ってんのか?
 アリシエーゼがこんな嘘を俺に付く理由が無いのは分かっているが、どうにもそんな俺が好んで読んでいたの様な事が実際に起こった事実を否定したい衝動に駆られて仕方が無い。

「何でお前だけ・・・」

「さぁ、転生と転移は違うのかもしれんの」

「あぁ、まぁそうかもな。管轄している神が違うとかなんかそんな理由かもな」

 俺は納得した。無理矢理に。
 俺の疑問などは異世界ファンタジーには無用なのだ。

「あれ?ちょっと待て」

「うん、なんじゃ?」

「お前、その外見と金を望んだんだよな?」

「うむ」

「なんで、吸血鬼って言うかもう別物だけど、そんな人外の力まで手に入れてるんだ?」

「いや、これは特典では無いんじゃろ。この力は妾がこの世界に生を受けてから望んだものじゃし」

 いやいや・・・望んだだけでそんな明らかにゲームバランス崩壊させる様な能力が手に入って溜まるかッ
 だって、闇属性なのに聖耐性持ってて、魔力量も明らかな人外レベル、更に不老でほぼ不死で、吸血鬼のプラス要素だけ引き継いでいるって・・・
 それだったら俺にも魔力下さいよ!神様!

「まぁそれが特典でもそうじゃなくてもどうでもいいか・・・」

「なんじゃ、嫉妬か?」

「うるせーよ」

「わかったわかった、そう拗ねるな。妾が慰めてやるから。ほーらこの胸に飛び込むのじゃー」

 そう言ってアリシエーゼは両手を広げて女神の様な慈しみ深い目をして俺に微笑む。
 そして二チャる。

「●ねよメ●ガキ」

「ひ、酷い」

「こうなるって分かってて言ってる癖に何言ってんだ」

「それはそうじゃが・・・」

「兎に角、お前みたいな人外の力を持ってる奴には持たざる者の気持ちなんてわかんねーよ」

 また卑屈になってしまった俺の言動にアリシエーゼは少し真剣な表情になって言った。

「不老不死なんていいものではないと思うのじゃがの」

「そんな事ないだろ。俺がその力手に入れたらやりたい事を諦めなくて済むし、嬉しくって泣いて喜ぶけどな」

「・・・ほぅ?」

 俺がそう答えるとアリシエーゼの目が怪しく光った気がした。

「うん――なんだ?」

「ん?どうしたのじゃ?」

「・・・いや、なんでもない」

 何となく怪しい雰囲気を感じるがまぁ今は置いておこう。
 そこから俺はアリシエーゼと元の地球での話に花を咲かせ、気が付けば外はすっかりと暗くなっており、腹減ったなあ等と思っていると馬車が止まり、幌の入口からポロンが中を覗き込んで来た。

「姫様、到着しました」

「うむ、ご苦労。早速で悪いが風呂と食事の支度を頼むぞ」

「はい」

 そう言ってポロンは顔を引っ込めると傭兵団の面々へと指示を飛ばす声が聞こえてきた。

「風呂があるのか?」

「うむ、この世界は例に漏れず貴族や王族、後は金持ちの商人とかで無いと個人宅に風呂など設置出来ないのだが、妾はまあ例外じゃな」

 例に漏れずとは、きっと聖典等の話を例に出しているって事だろう。
 アリシエーゼもその辺は多少嗜んでいるのだと思うと何故か急に親近感が湧いて来るから不思議だ。

「そりゃいい。俺も入っていいか?」

「もちろん良いぞ、何なら妾と――」

 アリシエーゼを無視して俺は姫様屋敷とその周辺に目を向ける。
 全体的には、姫様屋敷が最奥でその周りや前方に他の家屋や畑等が有り、百から二百人くらいは住めるくらいの敷地が整備されていた。
 村と呼べる程の広さが有り、その外側は結構頑丈そうな木の柵が囲っている。害獣の侵入防止なのだろう。村の中に畑も存在している事だし。
 姫様屋敷は木と石材を組み合わせてかなりしっかりとした作りの二階建ての建物で、窓にはちゃんと硝子を使っている。
 辺りを見回し他の家屋も見てみるが、どれも普通に硝子窓であった。

 硝子の生成技術とかは有りそうだな

 この世界がどの程度発展しているのか余計に見当が付かなくなったが、それは大きい街に行って肌で感じればいいと別の思考に切り替える。
 屋敷以外の他の家屋もある一帯は木造だったり、石造りだったりするが一軒家が立ち並び、別の一帯はこれまた木と石材で作った二階建てのアパートの様な建物が何棟か立ち並んでいた。

 無駄に街並みが近代的と言うかなんと言うか・・・
 コイツは一体、こんな森の奥で何がしたいんだ

 実際、そんな深く考えてこの村を作った訳では無さそうだと、俺に無視されて憤っているアリシエーゼを端目に軽く溜息を吐いた。

「そもそも、何で女なんか攫って来ようとしたんだ?」

「――じゃと言うのにお主は――うん?あぁ、それはコイツらに嫁を与えようと思っての」

「ええ・・・ちょっとその思考は引くわ」

「何故じゃ!?ここには女が一切おらんから、女を増やして子供を産まない事にはいつまでも経っても自立出来んじゃろ」

「いや、それはわかるんだが攫って来た女をアイツらに充てがうって感覚がヤバいだろ・・・」

「?」

 ダメだコイツ・・・
 まぁそんな誘拐事件も未遂かどうか微妙だが、どうにか阻止出来たのは僥倖か

「まあいい・・・っと言うか、俺も何か手伝う事無いか?一応、傭兵団の一員って事にしてるしさ」

「うーん、特には無い。お主は客人の様に振舞っておれば良い」

「そう言う訳にはいかないだろ、そんな設定にはしてないんだから」

「だったらそう設定し直せばよかろう」

 設定し直すのは簡単だ
 だが何だろう、モヤモヤする・・・

「まぁいいか・・・」

 そう言って俺はアリシエーゼの客人と言う事にし直す。

 どうせ明日にはここを出て行くつもりだしいいか

「では中を案内するぞ。もう暫くしたら夕飯の支度も整うからそれまではゆっくり寛ぐと良い」

 そう言ってアリシエーゼは屋敷の両扉のドアノブを両手で持ち引いて開けた。
 屋敷の扉を入ると目の前にはエントランスとまではいかないが、広めのスペースが有り、奥には二階に続く階段があり、階段の奥にも何か部屋が有りそうであった。
 アリシエーゼに従い玄関ホールに入りとりあえず中の様子を伺う。

「右に一部屋と、左はリビングダイニングとキッチンがある。階段の奥には風呂とトイレがあるぞ」

 そう言ってアリシエーゼは玄関ホールから左に歩を進めた。
 俺もそれに従いリビングの方へと向かう。
 リビングは二十畳程の広さがあるだろうか、玄関側の壁には大きめの窓が取り付けられており、四人程座れそうな大きなソファーも置いてあった。
 更には、リビングの中央の壁には暖炉が備え付けてあり、その目の前に二人掛けのソファーが一脚置いてあった。

「結構広いな・・・」

「そうであろう?こっちがダイニングキッチンじゃ」

 そう言って嬉々としてアリシエーゼは部屋案内を続ける。
 アリシエーゼが指し示す方は言われた通り、ダイニングとその奥にキッチンが有り、そのキッチンには傭兵団のメンバーであろう男が一人料理をしていた。
 男はアリシエーゼの話し声を聞いてこちらを振り向き笑顔を浮かべる。

「姫様、お帰りなさい。料理はもう少しお時間が掛かると思いますがお待ち頂けますか」

「良い、急で申し訳ないがもう一人分用意してくれ」

「はい、畏まりました」

 男はそう言って頭を下げて料理に戻った。

 急に一人増えちゃってごめんなさい・・・

「何だか悪いな・・・」

「別にいいでは無いか。二階もあるが妾の部屋と客室が3部屋あるだけだから案内は別にいらんじゃろ」

 四部屋もあるのか・・・
 なかなかにお貴族様な暮らしをしているな
 あ、こいつ元々伯爵家令嬢だったわ
 残念過ぎて忘れてた

「なんじゃ、何か文句でもあるのかのう?」

 そう言ってアリシエーゼはジト目を向けて来る。

「いや、別に・・・」

「ふんッまあよい。とりあえず飯の支度が出来るまでその辺で寛いでおれ――あ、飯と風呂は同じくらいに用意出来そうじゃが・・・そうじゃのう」

 そこまで言うとアリシエーゼはまたまた二チャリ顔を晒した。
 もう経験則で分かる。こう言う顔をした時は大体くだらないことを言うに決まっている。

「ご飯にする?お風呂にする?それ――」

「飯で!」

 アリシエーゼに最後まで言わせるかと急いで答えるのであった。
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