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第百五話 才能
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羊皮紙の作成法を教え込んでいるセシリヤの元へシンたちが戻ってきた。荷物を抱える彼らの表情は今日一番輝いているように見える。
「姐さん~! ただいま戻りました!」
「おかえり。ずいぶんと色々買ったのね……」
中を覗けば塗装用具から化粧品、服、かつらまで用意してある。三人は麻袋を返すとさっそく作業に取り掛かった。言葉を発さずとも互いの役割が分かれているのか、自分たちの得意分野を黙々と進めていく。一人が顔、もう一人が体のパーツを組み立てていく。残りの一人が塗装を施し無機質な機械人形に体と顔が出来てくる。
「すごい、すご~い! お人形さんのお顔が出来てきた!」
「きれいだね」
水の動物たちと遊んでいた少女たちが機械人形の傍まで近づいて素直な感想を述べる。セシリヤも手を止めて感嘆の声を上げた。
「へえ……。すごいわね。三人ともいい才能持ってるじゃない」
「そうか? へへっ、人に褒められたのっていつ以来だ?」
「さあ? 記憶にないくらい久しぶりだな……」
「一生披露することないって思ってたのにな」
ジャオが頬を掻きながら苦笑する。仕事としては求められず、披露しても嗤われるだけだった。こんな形で自分たちの特技を使うことになるとは夢にも思わなかった。役に立たないと嗤われていた才能だが、彼らの目の前で少女たちの口から零れる賞賛の声と笑顔。照れくささとくすぐったさにどう反応したらいいのか分からず視線を泳がせて困ったように眉を下げた。
「すみませ~ん! お待たせしました!」
「あ、おとうさん!」
「パンもってる~!」
時間がずいぶんと経過してからパン屋の男が戻ってきた。彼は紙袋を両手で抱えており、芳ばしい香りがセシリヤたちの鼻孔をくすぐった。
「街の人たちと話をして店に戻ったら家内にいつまでほっつき歩いているんだ、と怒られてしまいました。あ、こちらうちの自慢のパンです。焼きたてですよ」
「ありがとうございます。こんなにたくさん……」
受け取り礼を述べながら紙袋の中を見ると数種類のパンが入っていた。どれも美味しそうだ。彼の娘たちが背伸びをしてパンの説明を始めている。彼女たちのおススメはチョコレート入りのパンとシンプルな食パンだった。
「それが昨日水の精霊様が現れてから水に変化があったみたいで、一層美味しくなったんですよ。不思議なこともあるんですね」
パン屋の男の言葉にセシリヤはブレスレットへと視線を落として目元を緩めた。指先でブレスレットを撫でながら口の動きだけでアンディーンに向けて「だってさ」と言うと、洞窟にいたアンディーンは天井を仰いで笑みを見せた。
「例の提案に賛同する人たちもまだ数名ですがいます。ビブリスさん、これからよろしくお願いしますね」
「えっと……、え?」
手を差し出されて困惑したビブリスがセシリヤを見る。
「いいから握り返しておけば?」
そう言われて男は目の前に差し出された手を握り返した。
「おや? セシリヤちゃんと……友達かい?」
「友達じゃないです。知り合いです、知り合い」
「姐さん! 誰ですか、この人!」
「友達じゃない!」
買い物帰りのクルバの言葉をきっぱりと否定するセシリヤとクルバを指でさしながら聞いてくるロウたちと力強く否定するビブリス。各々の反応に面食らったクルバは「そうかい」と穏やかな表情を向けた。
「クルバさん、丁度良かった。今、街の名物を作ろうと話しておりまして、この子たちの周りにいる水の動物たち。これを名物にしようと動いているところなんです」
「おや、パン屋のブロートじゃないか。名物?」
パン屋の男―ブロートは簡潔に目的と案を話した。それを聞いたクルバは目を丸くしながらも「今の若者は新しい発想をするんだね」と感心する。ブロートがクルバにも協力して欲しいと告げると彼女は驚きつつも快諾した。
「そんなに役には立てないだろうけど、ここを訪れた人の笑顔を見るのもいいもんだからね。協力させてもらおうかね」
「だって。ビブリス、スー忙しくなるわよ、頑張ってね」
ニヤケ顔でビブリスの脇腹を突いてくるセシリヤにやめろ、と言いながらも二人はまんざらでもないようだ。
「そういえばクルバさん、買い物帰りですか?」
「そうさ。娘から聞いたよ、セシリヤちゃん明日発つんだろ? 今日は奮発してちょっとしたご馳走でも作ろうと思ってね」
買い物袋を持ちあげながらそう言ったクルバにシンたちがソワソワしだす。視線を向けると、目が合った。
「姐さん~! ただいま戻りました!」
「おかえり。ずいぶんと色々買ったのね……」
中を覗けば塗装用具から化粧品、服、かつらまで用意してある。三人は麻袋を返すとさっそく作業に取り掛かった。言葉を発さずとも互いの役割が分かれているのか、自分たちの得意分野を黙々と進めていく。一人が顔、もう一人が体のパーツを組み立てていく。残りの一人が塗装を施し無機質な機械人形に体と顔が出来てくる。
「すごい、すご~い! お人形さんのお顔が出来てきた!」
「きれいだね」
水の動物たちと遊んでいた少女たちが機械人形の傍まで近づいて素直な感想を述べる。セシリヤも手を止めて感嘆の声を上げた。
「へえ……。すごいわね。三人ともいい才能持ってるじゃない」
「そうか? へへっ、人に褒められたのっていつ以来だ?」
「さあ? 記憶にないくらい久しぶりだな……」
「一生披露することないって思ってたのにな」
ジャオが頬を掻きながら苦笑する。仕事としては求められず、披露しても嗤われるだけだった。こんな形で自分たちの特技を使うことになるとは夢にも思わなかった。役に立たないと嗤われていた才能だが、彼らの目の前で少女たちの口から零れる賞賛の声と笑顔。照れくささとくすぐったさにどう反応したらいいのか分からず視線を泳がせて困ったように眉を下げた。
「すみませ~ん! お待たせしました!」
「あ、おとうさん!」
「パンもってる~!」
時間がずいぶんと経過してからパン屋の男が戻ってきた。彼は紙袋を両手で抱えており、芳ばしい香りがセシリヤたちの鼻孔をくすぐった。
「街の人たちと話をして店に戻ったら家内にいつまでほっつき歩いているんだ、と怒られてしまいました。あ、こちらうちの自慢のパンです。焼きたてですよ」
「ありがとうございます。こんなにたくさん……」
受け取り礼を述べながら紙袋の中を見ると数種類のパンが入っていた。どれも美味しそうだ。彼の娘たちが背伸びをしてパンの説明を始めている。彼女たちのおススメはチョコレート入りのパンとシンプルな食パンだった。
「それが昨日水の精霊様が現れてから水に変化があったみたいで、一層美味しくなったんですよ。不思議なこともあるんですね」
パン屋の男の言葉にセシリヤはブレスレットへと視線を落として目元を緩めた。指先でブレスレットを撫でながら口の動きだけでアンディーンに向けて「だってさ」と言うと、洞窟にいたアンディーンは天井を仰いで笑みを見せた。
「例の提案に賛同する人たちもまだ数名ですがいます。ビブリスさん、これからよろしくお願いしますね」
「えっと……、え?」
手を差し出されて困惑したビブリスがセシリヤを見る。
「いいから握り返しておけば?」
そう言われて男は目の前に差し出された手を握り返した。
「おや? セシリヤちゃんと……友達かい?」
「友達じゃないです。知り合いです、知り合い」
「姐さん! 誰ですか、この人!」
「友達じゃない!」
買い物帰りのクルバの言葉をきっぱりと否定するセシリヤとクルバを指でさしながら聞いてくるロウたちと力強く否定するビブリス。各々の反応に面食らったクルバは「そうかい」と穏やかな表情を向けた。
「クルバさん、丁度良かった。今、街の名物を作ろうと話しておりまして、この子たちの周りにいる水の動物たち。これを名物にしようと動いているところなんです」
「おや、パン屋のブロートじゃないか。名物?」
パン屋の男―ブロートは簡潔に目的と案を話した。それを聞いたクルバは目を丸くしながらも「今の若者は新しい発想をするんだね」と感心する。ブロートがクルバにも協力して欲しいと告げると彼女は驚きつつも快諾した。
「そんなに役には立てないだろうけど、ここを訪れた人の笑顔を見るのもいいもんだからね。協力させてもらおうかね」
「だって。ビブリス、スー忙しくなるわよ、頑張ってね」
ニヤケ顔でビブリスの脇腹を突いてくるセシリヤにやめろ、と言いながらも二人はまんざらでもないようだ。
「そういえばクルバさん、買い物帰りですか?」
「そうさ。娘から聞いたよ、セシリヤちゃん明日発つんだろ? 今日は奮発してちょっとしたご馳走でも作ろうと思ってね」
買い物袋を持ちあげながらそう言ったクルバにシンたちがソワソワしだす。視線を向けると、目が合った。
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