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第九十三話 方向音痴
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「はあー、笑った笑った。じゃなかった。さーて、そろそろ帰らねーとな」
ヴァシリーは目尻に溜まった涙を拭うとソファーから立ち上がった。
「そうですか、では、さようなら」
「いや、お前も帰るんだよ⁉ というか、俺を転移魔法で連れて帰って‼」
ラウラは無言でヴァシリーを見上げた。
「……」
「なんでそんな嫌そうな顔をするんだよ⁉」
「だって、嫌ですので」
ため息混じりに言う部下にヴァシリーがミラの方を見た。彼はラウラから渡された紙と睨めっこしながらぶつぶつ独り言を呟いている。よし、ダメだ。ミラに助けは求められない。早々に諦めたヴァシリーは次にセシリヤへ視線を移した。すぐに相手と目が合う。なんとかラウラを説得してくれ! と心で念じながら片目を瞑るヴァシリーに察しのいいセシリヤは真顔で頷いた。ヴァシリーの期待値は上がる。
「ラウラ」
「なあに? セシリヤ」
名前を呼んだセシリヤに甘い響きで返す。ヴァシリーに対しての声音とはずいぶん異なる響きにヴァシリーは「俺、上司なんだけどなぁ~」と涙混じりの独り言を零した。
(……なんかちょっとだけ可哀想ね、彼)
やり取りを見ていたティルラが憐れみを含んだ視線を肩を落とすヴァシリーへと向けた。
「ヴァシリーは脳筋だから、転移魔法が使えないの。力は馬鹿みたい強いくせに、方向音痴だからラウラがいないと本部にも帰れない可哀想な人なのよ……」
ラウラを諭すセシリヤの表情は真剣だ。聞き捨てならない言葉にヴァシリーが「ちょっとセシリヤちゃん、その言い方酷くない⁉」と抗議の声を上げているが、それを無視してセシリヤは続ける。
「だから、ラウラが連れて帰ってあげないとあの人いつまで経っても本部に帰れない」
(待って! 方向音痴を否定しないのもあれだけど、馬車で帰れば着くんじゃないの⁉)
一人、ティルラだけがツッコミを入れているが、もちろん返ってくる声はない。
「そうね……この人、方向音痴だったわね」
ラウラは冷えた瞳から憐みに変えて視線を向けてきた。
「おい、そんな目で見るんじゃない。それと、セシリヤちゃん今度会ったら覚えておけよ」両手で顔を覆いながら言うヴァシリーにセシリヤはそっぽを向いた。
「……はぁ、仕方ありませんね。可哀想な上司の面倒をみるのも部下の務めですもの」
「いや、逆だろ? つか、可哀想を連発するな。俺の威厳がなくなる……」
溜息を吐きながらラウラはセシリヤの腕に絡ませていた腕を解いて立ち上がった。自由になった腕を軽く回しながらセシリヤは満足そうだ。
(もしかしなくても、セシリヤってラウラから解放されたくて口添えしたんじゃ……)
「ヴァシリー様を送り届けたらセシリヤを迎えに来ても構わないけど?」
「それは無理だな」
ソワソワしながら言うラウラの声をヴァシリーは遮った。何故だ、と言わんばかりに睨み付けるラウラの視線を受け流しながらヴァシリーが懐から紙を取り出した。
ヴァシリーは目尻に溜まった涙を拭うとソファーから立ち上がった。
「そうですか、では、さようなら」
「いや、お前も帰るんだよ⁉ というか、俺を転移魔法で連れて帰って‼」
ラウラは無言でヴァシリーを見上げた。
「……」
「なんでそんな嫌そうな顔をするんだよ⁉」
「だって、嫌ですので」
ため息混じりに言う部下にヴァシリーがミラの方を見た。彼はラウラから渡された紙と睨めっこしながらぶつぶつ独り言を呟いている。よし、ダメだ。ミラに助けは求められない。早々に諦めたヴァシリーは次にセシリヤへ視線を移した。すぐに相手と目が合う。なんとかラウラを説得してくれ! と心で念じながら片目を瞑るヴァシリーに察しのいいセシリヤは真顔で頷いた。ヴァシリーの期待値は上がる。
「ラウラ」
「なあに? セシリヤ」
名前を呼んだセシリヤに甘い響きで返す。ヴァシリーに対しての声音とはずいぶん異なる響きにヴァシリーは「俺、上司なんだけどなぁ~」と涙混じりの独り言を零した。
(……なんかちょっとだけ可哀想ね、彼)
やり取りを見ていたティルラが憐れみを含んだ視線を肩を落とすヴァシリーへと向けた。
「ヴァシリーは脳筋だから、転移魔法が使えないの。力は馬鹿みたい強いくせに、方向音痴だからラウラがいないと本部にも帰れない可哀想な人なのよ……」
ラウラを諭すセシリヤの表情は真剣だ。聞き捨てならない言葉にヴァシリーが「ちょっとセシリヤちゃん、その言い方酷くない⁉」と抗議の声を上げているが、それを無視してセシリヤは続ける。
「だから、ラウラが連れて帰ってあげないとあの人いつまで経っても本部に帰れない」
(待って! 方向音痴を否定しないのもあれだけど、馬車で帰れば着くんじゃないの⁉)
一人、ティルラだけがツッコミを入れているが、もちろん返ってくる声はない。
「そうね……この人、方向音痴だったわね」
ラウラは冷えた瞳から憐みに変えて視線を向けてきた。
「おい、そんな目で見るんじゃない。それと、セシリヤちゃん今度会ったら覚えておけよ」両手で顔を覆いながら言うヴァシリーにセシリヤはそっぽを向いた。
「……はぁ、仕方ありませんね。可哀想な上司の面倒をみるのも部下の務めですもの」
「いや、逆だろ? つか、可哀想を連発するな。俺の威厳がなくなる……」
溜息を吐きながらラウラはセシリヤの腕に絡ませていた腕を解いて立ち上がった。自由になった腕を軽く回しながらセシリヤは満足そうだ。
(もしかしなくても、セシリヤってラウラから解放されたくて口添えしたんじゃ……)
「ヴァシリー様を送り届けたらセシリヤを迎えに来ても構わないけど?」
「それは無理だな」
ソワソワしながら言うラウラの声をヴァシリーは遮った。何故だ、と言わんばかりに睨み付けるラウラの視線を受け流しながらヴァシリーが懐から紙を取り出した。
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