翠眼の魔道士

桜乃華

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第九十話 対面

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 ミラたちの他にテンションが上がった職員たちも加わり騒がしくなった中、なんとか抜け出したセシリヤはヴァシリーの待つ応接室へと向かった。ミラたちはセシリヤが抜け出したことに気付いていない。
 扉を開けると「よ!」と足を組んでいたヴァシリーが片手を上げて軽く振った。

 「よく二人から抜け出せたな」
 「いや、あれから職員たちが押し寄せてきてごちゃごちゃしている間になんとか」

 ソファーに座ったセシリヤは重く息を吐きだした。

 「疲れたぁ!」
 「まあ、俺との戦闘の後にあの二人じゃな。お疲れ~」
 「よく言うわよ……。誰のせいで疲れたと……それで、なんで呼んだの?」

 問うたセシリヤにヴァシリーが真剣な表情になった。セシリヤに緊張が走る。

 「セシリヤ……そのペンダントは」
 「え? ああ、これ?」

 魔石を掴んで見せた。ヴァシリーはそれをジッと見つめて眉を寄せた。彼の視線を受けてティルラも緊張した面持ちで見つめ返す。

 (な、なに……)

 「これは魔石だな?」

 問いにセシリヤは素直に頷いた。ウソをついたところで彼には通用しない。ヴァシリーは気付いた上でわざわざ聞いているのだ。

 「ピー助……いえ、パンディオンと対峙した洞窟で拾いました。初めはただの石でしたが、私の魔力を吸収して魔力を帯びて今の状態になっています」
 「中に封じられているのは?」

 視線をティルラから外すことなく続けて問うヴァシリーにセシリヤは「自称女神? です」と首を傾けた。

 「って、何で疑問形なのよ⁉」
 耐え切れずティルラがツッコミを入れた。目の前のヴァシリーはさすがに驚いたのか目を丸くしている。目をしばたたかせてセシリヤとティルラを交互に見た。
 「喋った……」
 「あ……。いえ、その……」

 ティルラはしどろもどろになりながら視線を逸らす。まずい、と内心焦った。助けを求めようとセシリヤを見上げれば、相手は手を額に当てて溜息を吐いていた。

 「ティルラが勝手に喋るから」
 「だって、自称でも、女神? でもなく本物の女神なのにセシリヤが疑問形なのが悪いんじゃない!」
 「……ティルラ?」
 「私の事を知ってるの⁉」

 名前を呼ばれたティルラは瞳を輝かせて魔石にへばり付いた。思わずヴァシリーの口から「うおっ」と声が漏れる。

 「いや、知ってるも何も……」

 濁しながらセシリヤを見れば、相手は目の前で首を静かに左右へと振った。余計なことは話すな、と瞳が訴えている。

 「俺くらいになると知識量も多いからな。女神の名前くらいは知ってるさ!」
 「ほら、セシリヤ! ちゃんと私の名前認知されてるじゃない!」
 「あーうん。そうね、良かったわね、女神様……」

 ほぼ棒読みのセシリヤにティルラは不満そうに頬を膨らませた。

 「さて、気になってた事も聞けたし。次はお前の希望とやらを聞こうか」

 足を組みなおしたヴァシリーにセシリヤは少しだけ逡巡した後、口を開いた。
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