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第七十七話 クルバの娘
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クエスト管理協会本部の最深部の部屋で中年の男が険しい表情を浮かべて座っていた。
「遅い……、あいつ何やってんだ」
彼がぼやいたのとほぼ同時に扉が開いた。
「……お呼びでしょうか、ヴァシリー様」
胸元が大きく開いたスーツを着た女性をヴァシリーが見る。
「ラウラ」
「はい」
「あいつが戻ってこない」
「……」
ラウラと呼ばれた女性は眼鏡の智を上げた。そして、重く溜息を吐いてだから何だ、と言いたげな視線をヴァシリーへ向けた。
「ミラのことですか?」
とりあえず上司なので聞くと相手は頷いた。
「クエストの達成確認に出てから戻ってきていない」
「はあ……」
「あいつのことだから何かに巻き込まれたという事はないだろうから、戻らない理由は一つしかないだろう?」
ヴァシリーが言いたい事を察してラウラは眉を寄せた。
「あいつが戻りたがらないのはそこにセシリヤがいる時だけだ」
「……セシリヤ」
ラウラがぽつり、とセシリヤの名前を零した。ヴァシリーは気にせず続けた。
「ここにお前を呼んだ理由は分かるな?」
「私の転移魔法を使って彼を連れ戻す、ですか?」
「それもあるが、あいつは自分で転移魔法を使えるだろ、俺はセシリヤにも用がある」
「はあ……」
「だから、俺を転移魔法でコランマールまで送ってくれ」
ラウラはもう一度智を上げた。
「分かりました。その前に少し時間をください」
「え? あ、うん?」
「セシリヤに会うのでちょっと化粧を直してきます」
そう言ってヴァシリーの返事を待たず、ラウラは部屋から出て行く。残されたヴァシリーは疑問符を頭上に浮かべながら「何で?」と答えの返って来ない問いを零した。
♦♦♦
テーブルにはスクランブルエッグ、ソーセージが盛り付けられた皿、サラダとパン。カフェオレが注がれたマグカップが並んでいる。セシリヤはフォークでソーセージを刺して口に入れると幸せそうに頬を緩めた。
「ん~! やっとご飯にありつけた~! 美味しい!」
ミラにはクルバが気を利かせてハニーミルクを用意してくれており、ミラは嬉しそうにマグカップを傾けている。
二人が遅めの食事を摂っていると、勢いよく扉が開いた。
セシリヤとミラは手を止めて扉へと視線を向ける。そこには一人の女性が立っており、走ってきたのか息を切らしていた。音に驚いたクルバも厨房から顔を出して目を丸くした。
「ペレシア⁉ どうしたんだい⁉」
(ペレシア? あの子どこかで見た気がするんだけど……)
考えている間にもクルバとペレシアの会話は進んで行く。
「お母さん、大変よ! ちょっと、どこから話したらいいか……とにかく大変なの!」
「ちょっと、落ち着きなよ。お客さんもいるんだから、ほら、深呼吸しな」
促されたペレシアは深呼吸を繰り返して呼吸を整えるとセシリヤたちを見て瞬きを繰り返した。次第に双眸を大きく開いて「あ!」と声を上げた。
「昨日いらっしゃった、セシリヤさんと本部のミラ様……⁉」
「え? あ、そうだけど……って、貴女は!」
セシリヤも声を上げた。ミラは興味がないのかハニーミルクを飲んでいる。ペレシアはクエスト管理協会支部でセシリヤたちを別室へ案内した受付嬢だ。よく見ればクルバと目元が似ている気がする。
「クルバさんの娘さんだったの……」
「はい。そうなんです、あの、モンタナを選んでくださってありがとうございます」
微笑んだペレシアにセシリヤも笑みで返していると、クルバが「それで、どうしたんだい?」とペレシアに問うた。
「あ、そうそう! お母さん、あのね、今、クエスト管理協会の前に拘束されたツノゴマが置いていかれてたの!」
「なんだって⁉ いったいどういうことだい?」
目を丸くするクルバにペレシアは分からない、と首を左右に振る。ペレシアの話では拘束されたツノゴマは眠っており、隣にはローブを着た男性がいたらしい。金で雇われた自分がツノゴマの指示で地下水路の水をせき止めたことを打ち明けた。それを聞いたクエスト管理協会はツノゴマとビブリスの処分を決めるために緊急会議が行われているため慌ただしくしているらしい。
「とりあえず、お母さんに伝えなきゃって思って急いで来たの!」
「そうかい、ツノゴマがねぇ……」
何か思うこともあるのだろうが、クルバは首を静かに振ると言葉を呑み込んだ。
「遅い……、あいつ何やってんだ」
彼がぼやいたのとほぼ同時に扉が開いた。
「……お呼びでしょうか、ヴァシリー様」
胸元が大きく開いたスーツを着た女性をヴァシリーが見る。
「ラウラ」
「はい」
「あいつが戻ってこない」
「……」
ラウラと呼ばれた女性は眼鏡の智を上げた。そして、重く溜息を吐いてだから何だ、と言いたげな視線をヴァシリーへ向けた。
「ミラのことですか?」
とりあえず上司なので聞くと相手は頷いた。
「クエストの達成確認に出てから戻ってきていない」
「はあ……」
「あいつのことだから何かに巻き込まれたという事はないだろうから、戻らない理由は一つしかないだろう?」
ヴァシリーが言いたい事を察してラウラは眉を寄せた。
「あいつが戻りたがらないのはそこにセシリヤがいる時だけだ」
「……セシリヤ」
ラウラがぽつり、とセシリヤの名前を零した。ヴァシリーは気にせず続けた。
「ここにお前を呼んだ理由は分かるな?」
「私の転移魔法を使って彼を連れ戻す、ですか?」
「それもあるが、あいつは自分で転移魔法を使えるだろ、俺はセシリヤにも用がある」
「はあ……」
「だから、俺を転移魔法でコランマールまで送ってくれ」
ラウラはもう一度智を上げた。
「分かりました。その前に少し時間をください」
「え? あ、うん?」
「セシリヤに会うのでちょっと化粧を直してきます」
そう言ってヴァシリーの返事を待たず、ラウラは部屋から出て行く。残されたヴァシリーは疑問符を頭上に浮かべながら「何で?」と答えの返って来ない問いを零した。
♦♦♦
テーブルにはスクランブルエッグ、ソーセージが盛り付けられた皿、サラダとパン。カフェオレが注がれたマグカップが並んでいる。セシリヤはフォークでソーセージを刺して口に入れると幸せそうに頬を緩めた。
「ん~! やっとご飯にありつけた~! 美味しい!」
ミラにはクルバが気を利かせてハニーミルクを用意してくれており、ミラは嬉しそうにマグカップを傾けている。
二人が遅めの食事を摂っていると、勢いよく扉が開いた。
セシリヤとミラは手を止めて扉へと視線を向ける。そこには一人の女性が立っており、走ってきたのか息を切らしていた。音に驚いたクルバも厨房から顔を出して目を丸くした。
「ペレシア⁉ どうしたんだい⁉」
(ペレシア? あの子どこかで見た気がするんだけど……)
考えている間にもクルバとペレシアの会話は進んで行く。
「お母さん、大変よ! ちょっと、どこから話したらいいか……とにかく大変なの!」
「ちょっと、落ち着きなよ。お客さんもいるんだから、ほら、深呼吸しな」
促されたペレシアは深呼吸を繰り返して呼吸を整えるとセシリヤたちを見て瞬きを繰り返した。次第に双眸を大きく開いて「あ!」と声を上げた。
「昨日いらっしゃった、セシリヤさんと本部のミラ様……⁉」
「え? あ、そうだけど……って、貴女は!」
セシリヤも声を上げた。ミラは興味がないのかハニーミルクを飲んでいる。ペレシアはクエスト管理協会支部でセシリヤたちを別室へ案内した受付嬢だ。よく見ればクルバと目元が似ている気がする。
「クルバさんの娘さんだったの……」
「はい。そうなんです、あの、モンタナを選んでくださってありがとうございます」
微笑んだペレシアにセシリヤも笑みで返していると、クルバが「それで、どうしたんだい?」とペレシアに問うた。
「あ、そうそう! お母さん、あのね、今、クエスト管理協会の前に拘束されたツノゴマが置いていかれてたの!」
「なんだって⁉ いったいどういうことだい?」
目を丸くするクルバにペレシアは分からない、と首を左右に振る。ペレシアの話では拘束されたツノゴマは眠っており、隣にはローブを着た男性がいたらしい。金で雇われた自分がツノゴマの指示で地下水路の水をせき止めたことを打ち明けた。それを聞いたクエスト管理協会はツノゴマとビブリスの処分を決めるために緊急会議が行われているため慌ただしくしているらしい。
「とりあえず、お母さんに伝えなきゃって思って急いで来たの!」
「そうかい、ツノゴマがねぇ……」
何か思うこともあるのだろうが、クルバは首を静かに振ると言葉を呑み込んだ。
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