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第六十二話 慰め
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クルバが出て行った後、セシリヤはベッドへ腰かけた。ピー助はベッドボードに止まり嘴で羽繕いをしている。その様子を見ていたセシリヤは視線を首から下がるペンダントへと移し、指で弄りながら「ねえ、ティルラ」と声を掛けた。
「なに?」
「……ポケットから出られた気分はどう?」
(絶対に別の事言おうとしたわね……まあ、クルバのことだろうけど)
ティルラは小さく息を吐く。
「そうね、ポケットの中よりずっといいわ。真っ暗よりも明るい方がいいもの」
「そっか、そうだよね」
「……」
「……」
互いに無言になる。
沈黙に耐えられず、上を向けば、こちらを見ていたセシリヤと視線が交差した。自分と似ている色の瞳が微かに揺れている。ティルラが何か言おうと口を開きかけたタイミングでセシリヤは魔石から指を離した。同時にセシリヤの顔が見えなくなる。
セシリヤは灯りを消すとベッドへ寝転がった。
「セシリヤ……」
「んー?」
片腕で目元を覆いながらセシリヤは返事をする。
「彼女は大丈夫よ、きっと」
「……」
「ほ、ほら! 女神が泊まった宿よ? いい事きっとあるわよ。私が言うんだから間違いないわ!」
その自信はどこから来るんだ、とセシリヤは腕を退けてティルラを見た。姿が見えずとも腰に両手を当てて胸を張るティルラが容易に想像できて「ふっ」と小さく吹き出した。次いでクルバの明るい笑顔が脳裏に浮かんだ。
「うん……そうだね。でも、ティルラは魔力を吸収しないとなにも出来ないじゃない」
肯定しながらもしっかりと指摘をするセシリヤにティルラはうぐっ、と言葉を詰まらせる。なんとか言い返そうと言葉を選んでいるティルラへセシリヤが「おやすみ」と一言添えて寝返りを打った。
「ちょっと待って! なんか悔しいんですけど⁉」
「事実でしょ? ……元気づけるために言ってくれたのも分かってるから」
次第に語尾が小さくなっていく。
「ねえ、最後なんて言ったの? 聞こえなかったんだけど……」
「……」
返事の代わりに寝息が聞こえた。ピー助はとっくに夢の中なのか、ベッドボードへ止まったまま嘴を背中へ埋めている。反応の無さにティルラは「もー!」と一人頬を膨らませた。
「なに?」
「……ポケットから出られた気分はどう?」
(絶対に別の事言おうとしたわね……まあ、クルバのことだろうけど)
ティルラは小さく息を吐く。
「そうね、ポケットの中よりずっといいわ。真っ暗よりも明るい方がいいもの」
「そっか、そうだよね」
「……」
「……」
互いに無言になる。
沈黙に耐えられず、上を向けば、こちらを見ていたセシリヤと視線が交差した。自分と似ている色の瞳が微かに揺れている。ティルラが何か言おうと口を開きかけたタイミングでセシリヤは魔石から指を離した。同時にセシリヤの顔が見えなくなる。
セシリヤは灯りを消すとベッドへ寝転がった。
「セシリヤ……」
「んー?」
片腕で目元を覆いながらセシリヤは返事をする。
「彼女は大丈夫よ、きっと」
「……」
「ほ、ほら! 女神が泊まった宿よ? いい事きっとあるわよ。私が言うんだから間違いないわ!」
その自信はどこから来るんだ、とセシリヤは腕を退けてティルラを見た。姿が見えずとも腰に両手を当てて胸を張るティルラが容易に想像できて「ふっ」と小さく吹き出した。次いでクルバの明るい笑顔が脳裏に浮かんだ。
「うん……そうだね。でも、ティルラは魔力を吸収しないとなにも出来ないじゃない」
肯定しながらもしっかりと指摘をするセシリヤにティルラはうぐっ、と言葉を詰まらせる。なんとか言い返そうと言葉を選んでいるティルラへセシリヤが「おやすみ」と一言添えて寝返りを打った。
「ちょっと待って! なんか悔しいんですけど⁉」
「事実でしょ? ……元気づけるために言ってくれたのも分かってるから」
次第に語尾が小さくなっていく。
「ねえ、最後なんて言ったの? 聞こえなかったんだけど……」
「……」
返事の代わりに寝息が聞こえた。ピー助はとっくに夢の中なのか、ベッドボードへ止まったまま嘴を背中へ埋めている。反応の無さにティルラは「もー!」と一人頬を膨らませた。
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