翠眼の魔道士

桜乃華

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第四十一話 大道芸

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 心配してくれてありがとうございます、と付け加えたミラにティルラはそれ以上何も言えなかった。今、セシリヤはどんな表情をしているのだろうか。気になったがティルラには知るすべはない。

 「……」

 無言だったセシリヤは深く、大きな溜息を吐いた。

 (ああもう! だからミラは調子狂うのよね……。恩って言っても大したことないのに)

 何年か前にたまたまクエスト中に出逢って助けただけ。名前以外分からない彼をクエスト管理協会の本部まで連れて行き、数か月間彼の面倒を見ただけだ。ただそれだけ……。

 「じゃあ、協力してもらおうじゃない。よろしくね、ミラ」

 笑みを向けるセシリヤに「はい! お任せください!」とミラは元気よく返した。



♦♦♦



 クルバから教えられた通り中央通りには噴水があり、人通りも多く賑わっている。支部から出たセシリヤは迷わず噴水へと向かった。ピー助が噴水の縁に止まり水面をジッと覗き込んでいる。アンディーンのいた洞窟の水面は静かでガラスの様だったが、こちらでは絶えず噴き上げられている水が水面を揺らしている。自分の姿が揺れていることが不思議なのだろう、ピー助は首を傾けていた。

 「よし、やるか」

 小さく零したセシリヤは瞳を閉じて意識を集中させる。アンディーンから教わったことを思い出しながら魔力を水へと流し込むと水が動き始めて一塊宙へ浮いた。そこへ自分のイメージを映し込めば、水の塊は形を取る。
 ピィ⁉ とピー助が鳴いて羽をばたつかせた。洞窟で会った自分に似た姿の水の鳥に喜びを隠せずぴょんぴょんと跳ねる。傍で見ていたミラも「おぉ!」と感嘆の声を上げた。それを見たセシリヤは目元を緩める。

 「まだまだ行くよ」

 要領を掴んだセシリヤは次々と形成していく。それはピー助に似た鳥だけではなく、街にいる小鳥、ウサギ、ネコと様々だ。水で出来た動物に興味を惹かれた子供たちが集まってきた。

 (狙い通り)

 口角を上げたセシリヤの隣から男の子が声を上げた。

 「わぁ! すごい、すごい! 水で出来た動物だー」

 小さな手をめいっぱい伸ばしている。ちらりと盗み見れば、男の子の瞳はキラキラと輝いていた。さらに後ろから女の子も「かわいいねー」と言いながらキャッキャッとはしゃぐ。
 セシリヤは小さく笑うと手を動かして男の子たちの前にウサギやネコを遣わせた。

 「わっ!」

 小さな悲鳴を上げたのは一瞬で、すぐに笑顔になって手を伸ばす。

 「つめたいねー」

 「ねー」

 顔を見合わせた子供たちが笑い合う。次第に子供たちだけではなく、彼らの親や大人たちも集まってきた。セシリヤはさらに数を増やして「ミラ」と傍観していたミラを呼んだ。

 「はい!」

 「(これ私が魔法を解くまで自由に動くから適当に操っているように見せておいて)」

 「(はい⁉)」

 「(行動範囲はこの噴水周辺だけだから。あとは任せた!)」

 「ピー助もよろしくね」

 そう言うと、理解出来たのかピー助は一鳴きすると水の鳥を引きつれて飛び始めた。ピー助と水の鳥の動きに興奮した子供たちがその後を追うように駆けた。中には親に肩車をしてもらい、飛んでいるピー助たちへ手を伸ばす子もいる。皆が珍しいパフォーマンスに興味を惹かれていた。

 (ああーもう! やればいいんでしょ、やれば‼ 絶対に後でセシリヤさんとデートしよう! よし、僕はやれば出来る!)

 ミラは妙な決意を胸に手を挙げた。ギャラリーの視線が集まる。

 「水のアートをしばし、ご覧ください。他ではなかなかお目に掛かれませんよ」

 にこり、と微笑めば遠巻きに見ていた女性たちから黄色い悲鳴が上がるが、ミラはそれどころではない。

 (き、緊張する……。セシリヤさん早く帰って来てくださいね)

 セシリヤの帰りを待ちながらミラは水を操っているように見せるため水の動きに合わせて動いた。
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