翠眼の魔道士

桜乃華

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第十話 ピー助

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 軽く朝食を済ませて身支度を整えたセシリヤはコランマールへ向けて出発する前に寄り道をしようと決めていた。クエスト管理協会からの依頼は達成しているし、パンディオンを討伐した際にカードには完了と刻んでいた。詳細はコランマールに着いた後で支部に寄り報告すればいい。

 「ねえ、セシリヤ。このまま街に帰るの?」

 ティルラからの問いにセシリヤは「んー。ちょっと寄り道でもしようかなって考えてる」と返す。
 どうして? と追加で問われた。

 「あそこに森が見えるでしょ。奥に洞窟があるらしくて、そこに興味があるのよね」

 コランマールの人たちの言葉を思い出して、実際に枯れた植物を目にしてしまったらこのまま素通りすることは出来ない。それに、洞窟の奥にいるとされる精霊のことも気になる。

 「あと、洞窟と言えば珍しい鉱物とかありそうじゃない?」

 「ふーん。なんか嫌な予感がするのだけど」

 ティルラが眉を寄せる。微かに漂う気配は決して良い物ではない。だからと言って魔石の中から出ることが出来ないティルラは何もすることが出来ない。

 「あの奥から禍々しい気配を感じるんでしょ」

 言い当てられてティルラは目を丸くした。分かってて行くのか、と言いたげな顔をセシリヤへ向ける。

 「身の危険を感じたらすぐに撤退するよ。それに、女神様が禍々しい気配を見過ごしていいの?」

 そう言われてしまえば二の句は告げない。ティルラはグッと言葉を詰まらせた。確かに禍々しい気配を浄化するのは女神の責務でもあるが、今の自分には何もできない。セシリヤの魔力が無ければただの石にすぎない。そんな自分が情けなくて、悔しい。ティルラは俯いて唇を噛んだ。

 「もしかしたらさ、出来ることがあるかもしれないでしょ?」

 女神サマ? 見上げれば、セシリヤは悪戯っ子のように笑う。それにつられるようにティルラが苦笑した。

 「ねー、ピー助」

 同意をパンディオンに向けた。パンディオンは一瞬、自分のだとは気付かずキョトンとする。

 「ピー助ってもしかしてパンディオンの名前なの?」

 ティルラの問いにセシリヤは頷いた。

 「名前ないと不便でしょ?」

 「えー……」

 真顔で言うセシリヤにティルラの頬が引きつる。

 (いや、ネーミングセンスどうなってんの? ピー助はないわ……)

 同情のこもった目でパンディオンを見れば、名付けられた相手は名前を与えられたことが嬉しいのかピィー、と鳴きながらぴょんぴょんと跳ねていた。

 (えー……。いいんだ、ピー助でいいんだ……)

 「さて! それじゃあ、出発しますか」

 そう言とセシリヤは歩き出す。その後ろをピー助が付いてきた。向かうのは視線の先に広がる森。
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