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第六話 女神ーティルラ 2/2
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“願い”と言う単語に反応を見せたセシリヤにティルラが何度も頷く。人間の望みであれば女神に叶えられないものはない、と考えているのだろう。実際、そうなのかもしれない。
少し思案する様子を見せたセシリヤは口を開いた。
「でも、あなたが本物の女神だという確証はまだないから、確証が持てたら協力させて頂きます。というのはダメ?」
彼女が本物の女神だとは限らない。魔石に封じられた女神がいるという伝承は記憶にない。ティルラの言葉を鵜呑みにするには情報が少なすぎる。仮に彼女が女神ではなく、魔族であれば元に戻した瞬間、取り返しのつかない事態になりかねない。
ティルラの反応を待った。彼女は「ダメじゃない」と首を横に振る。
「そもそも私に選択権はないでしょ。私は自由に動けないんだし」
そう言ってティルラは苦笑した。つられてセシリヤも「それもそうか」と苦笑を見せて地面に置いた魔石を拾い上げた。とりあえずはティルラが封じられている魔石を持ち帰ることに決めたようだ。
ピィー、と背後から鳴き声が聞こえてセシリヤはそちらを向いた。目を覚ましたパンディオンが躰を起こしてセシリヤを見つめている。近づいて膝を折ったセシリヤを黄金色の瞳が映す。
「お前は今から自由だよ。もう捕まらないようにね」
微笑んで立ち上がったセシリヤの裾をパンディオンの嘴が挟んだ。
「……」
無言で見下ろすと、相手も何か言いたげな瞳で見返してくる。嘴を離して暗褐色の翼を広げたパンディオンはピィー、と鳴き声を上げながらセシリヤの足元で何かを訴えるようにぴょんぴょんと跳ねた。
鳴き声は理解できなくとも、パンディオンが何を言いたいのかは察しがつかないほど鈍くはない。もう一度膝を折り、パンディオンとの距離を縮めたセシリヤは苦笑を向けた。
「なに? あなたも一緒に行きたいの?」
問えば、パンディオンは肯定するように鳴いた。心なしか、嬉しそうに見えるのは都合のいい錯覚なのだろうか。セシリヤは手を伸ばした。その先はパンディオンの白い頭頂部。控えめに指先で撫でれば気持ちよさそうに双眸を閉じた。
「仕方ないなー。じゃあ、おいで」
「私の時と比べてずいぶんと態度、違くない?」
ねーねー、とポケットからティルラの不満そうな声が聞こえる。それを無視してセシリヤは立ち上がった。出口へ歩き出せば、パンディオンが後ろを付いてくる。雛鳥のようだ、と小さく笑ったセシリヤは一番近い街へ向けて出発した。
少し思案する様子を見せたセシリヤは口を開いた。
「でも、あなたが本物の女神だという確証はまだないから、確証が持てたら協力させて頂きます。というのはダメ?」
彼女が本物の女神だとは限らない。魔石に封じられた女神がいるという伝承は記憶にない。ティルラの言葉を鵜呑みにするには情報が少なすぎる。仮に彼女が女神ではなく、魔族であれば元に戻した瞬間、取り返しのつかない事態になりかねない。
ティルラの反応を待った。彼女は「ダメじゃない」と首を横に振る。
「そもそも私に選択権はないでしょ。私は自由に動けないんだし」
そう言ってティルラは苦笑した。つられてセシリヤも「それもそうか」と苦笑を見せて地面に置いた魔石を拾い上げた。とりあえずはティルラが封じられている魔石を持ち帰ることに決めたようだ。
ピィー、と背後から鳴き声が聞こえてセシリヤはそちらを向いた。目を覚ましたパンディオンが躰を起こしてセシリヤを見つめている。近づいて膝を折ったセシリヤを黄金色の瞳が映す。
「お前は今から自由だよ。もう捕まらないようにね」
微笑んで立ち上がったセシリヤの裾をパンディオンの嘴が挟んだ。
「……」
無言で見下ろすと、相手も何か言いたげな瞳で見返してくる。嘴を離して暗褐色の翼を広げたパンディオンはピィー、と鳴き声を上げながらセシリヤの足元で何かを訴えるようにぴょんぴょんと跳ねた。
鳴き声は理解できなくとも、パンディオンが何を言いたいのかは察しがつかないほど鈍くはない。もう一度膝を折り、パンディオンとの距離を縮めたセシリヤは苦笑を向けた。
「なに? あなたも一緒に行きたいの?」
問えば、パンディオンは肯定するように鳴いた。心なしか、嬉しそうに見えるのは都合のいい錯覚なのだろうか。セシリヤは手を伸ばした。その先はパンディオンの白い頭頂部。控えめに指先で撫でれば気持ちよさそうに双眸を閉じた。
「仕方ないなー。じゃあ、おいで」
「私の時と比べてずいぶんと態度、違くない?」
ねーねー、とポケットからティルラの不満そうな声が聞こえる。それを無視してセシリヤは立ち上がった。出口へ歩き出せば、パンディオンが後ろを付いてくる。雛鳥のようだ、と小さく笑ったセシリヤは一番近い街へ向けて出発した。
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