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第十六話 縄張り争い

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 いつかは来ると思っていた。寮の周りを千帆ちゃんと散歩していた時に何匹かネコは見かけていた。若草寮を含めてその周囲は茶々さんの縄張りだというのは分かっているが、今までは縄張り争いをしているところに遭遇したことはなかった。
 今日の授業は二限目までしかなく、友達と食堂で昼食を食べた私は真っ直ぐ寮へと戻っていた。夕方の部活動までの空き時間をどう過ごすかと考えていると、廊下からいつになく低い鳴き声が聞こえてきた。
 茶々さんかな? と私は立ち上がり扉を少しだけ開けて廊下へと視線を向けた。

 「ンナァー! シャァアアア!」

 愛らしい声で鳴く茶々さんから出ているとは想像できないほどの低い声音に私は目をしばたたかせた。威嚇する茶々さんを見るのは初めてだ。もちろん、実家ではネコの縄張り争いはよく見ていたので慣れてはいるのだが、この寮に侵入する他のネコがいることに私は驚いていた。
 玄関に続く階段を上り切った廊下に見知らぬ白黒のネコが一匹。ちょっと体格がいい。茶々さんよりも大きなネコ相手に茶々さんは姿勢を低くしていた。いつもはピン、と立てている両耳も後ろへと反っている。私は扉の隙間から様子を窺っていた。ここで出ては野暮というもの。
 相手のネコは動く気配を見せず、かといって鳴くこともない。茶々さんは低い声を出しながら少しずつ近づいていく。ピン、と立つかぎしっぽは根元が上がり先が垂れて弓なりの形になっている。背中も丸まり攻撃態勢を取っていた。
 ようやく白黒ネコが動いた。少しずつ後ろに下がる。そこは壁だよ! とハラハラしながら私は見守る。
 ごくり、と喉を鳴らした刹那、茶々さんが駆け出した。瞬時に反応した相手のネコはさすがネコだ、瞬発力を見せて階段を駆け下りて行った。茶々さんが追いかけて行く。私はゆっくりとドアを開いて息を吐きだした。緊迫していた空気に自然と私もつられていたのだ、と今さらながら気付く。
 どうなったのだろうか、と階段まで近づいたところに茶々さんが軽快な足取りで戻ってきた。

 「あ、茶々さん。おかえりなさい」
 「ニャァー」

 声を掛けると、いつもの愛らしい声音が返ってきた。その表情はどことなく誇らしげに見える。茶々さんは私の足元に頭をこすり付けてきた。
 私はしゃがんで茶々さんの頭を撫でる。

 「お疲れ様、茶々さん」
 「ンニャ」

 今日は腹まで撫でさせてやる、さあ、撫でろ! と言わんばかりに茶々さんは廊下にゴロン、と横になった。私は苦笑を浮かべると遠慮なく茶々さんを撫でまわすのだった。
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