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第十話 試験前に
しおりを挟む試験を明日に控えていた私は夕飯後、勉強をして休憩がてら外に出た。手すりに腕を乗せて空を見上げれば、満天の星空。都会と違って山の中にあるこの寮はほとんど人口の灯りがない。そのため星が近く、鮮明に見える。
私は視線を下に向けた。
「あれ? 厨房の電気が点いてる」
時刻は二十一時。本来なら大家さんは数メートル先の本家へと帰っている時間だ。けれど、まだ厨房の灯りが点いているという事は大家さんがいるという事。不思議に思っていた矢先、厨房の電気が消えて大家さんが出てきた。
「あら、汐崎さん。こんばんは」
タイミングよくこちらを向いた大家さんが挨拶をする。
「こんばんは!」
挨拶を返した私に大家さんが手招きをした。私は誘われがまま階段を降りる。
「試験前の休憩ですか?」
「はい。そうです」
そうですか、と言った大家さんは柔らかく微笑むと手にしていた皿から饅頭を一つ渡してきた。驚きながら受け取った私に彼女は「他の方には内緒ですよ」と言って本家へと戻って行った。饅頭を手にしたまま大家さんを見送って階段を上がり、手すりに腕を乗せて再び星空を見ていると茶々さんが階段を駆けあがってきた。
「あ、茶々さん。こんばんは」
ニャー、と鳴いた茶々さんが私の足の間に身体を割り込ませて腰を下ろした。その姿に小さく笑うと私は饅頭を一口齧った。ふかふかの触感と、程よい甘みのある餡子に癒される。
「試験、頑張ろう」
そう零してもう一口、饅頭を齧った私を茶々さんが見上げていた。
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