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第七話 気付いたら居る

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 古い建物であるこの寮には食堂以外に冷房はない。私の部屋にも冷房はもちろんない。暑い時には窓を全開にして、玄関のドアを少し開ける。もちろん、靴を挟んで大きく開かないようにしている。これも先輩方からのアドバイスだ。入浴を終えた私はテレビを観ながらくつろいでいた。
 今観ているのはクイズ番組。もう少ししたら今日のノートを清書して、纏めておこうと考えていた私は座椅子に背中を預けて伸びをする。
 「んんー! 授業にはだいぶ慣れてきたぞー!」
 明日も頑張ろう、と手を解いた私は真横に何かの気配を感じて動きを止めた。
 寮長から新入生歓迎会の時に聞かされたことを思い出す。
 『この寮……というか、この学校周辺は結構心霊現象が起こるから、お前たちも気を付けろよ』
 そう言っていた。千帆ちゃんは心霊現象が好きなのか瞳を輝かせて『その話、詳しくお願いします』と続きを促していたっけ……。心霊スポットや夜中に金縛りにあった寮生の話を思い出して背筋がゾッとした。
 「いやいや……まさか。そんなの作り話だよね……たぶん」
 自信なく呟きながら私は恐る恐る気配のする方を見た。入浴後は必ずタオルを折り畳み式のタオルハンガーへ掛けているのだが、タオルの真ん前に何かいる。というか座っていた。
 「⁉」
 驚いた私はびくり、と肩を揺らす。
 そこにはいつの間に部屋に入ったのか、茶々さんが座っていた。驚いている私とは反対に彼女は呑気にくぁ~と口を大きく開ける。
 「ちょ、え? 茶々さん⁉ いつの間に入って来て……全然気づかなかった」
 侵入口は当然、少し開けてあるドア以外にはないのだが、全く気配も音もなかった。笑うしかない私は脱力しながら茶々さんを見ると相手もこちらを見上げて「ニャァ」と機嫌よく鳴いた。入って来てしまったからには追い出すのも忍びない。それ以上に今は構いたくて仕方ないのだ。……幽霊が怖いとかそう言うのでは断じてなくはない。
 「茶々さーん! 触らさせください!」
 そう言って茶々さんを撫でまわした平日の何でもない夜だった。
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