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第六話 プレゼント

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 ある日の朝、いつも通り起床した私は顔を洗いに外へ出る。ドアを開いて水道まで行こうとして歩みを止めた。
 「……おぉう」
 視線の先に落ちていた、いや……置かれていた? のは小鳥だった。ご丁寧に仰向けになっている。動かない。十中八九置いていったのは茶々さんだろうが、彼女の姿は見当たらない。
 「……これはプレゼントなのだろうか」
 動かない小鳥の前に座った私はポツリと零す。聞いたことがある。ネコが小動物等のお土産やプレゼントを置いていくのは、“狩りが出来ないヤツ”だと思っている、“戦利品の自慢”等様々だ。茶々さんがいないため、どういう意図で置いたのかは分からない。いや、居ても分からないだろうな……。苦笑した私は小鳥を跨いで水道まで行った。
 顔を洗いながら初めてのプレゼントに少しだけ心躍ったことは内緒だ。
 でも……
 「あの小鳥どうしよう……」
 蛇口を捻った私は青く澄んだ空を見上げて瞳を閉じた。


 食堂に行った私は千帆ちゃんに例のプレゼントについて話した。
 「……ふっ、はは!」
 「笑い事じゃないよーもー。ははっ」
 真面目な顔で千帆ちゃんに「玄関開けたら目の前に小鳥が置いてあった」と伝えた途端、千帆ちゃんが笑い出した。それにつられて私も笑う。
 「はー! 笑った笑った。朝からホットなニュースをありがとう」
 「どういたしまして?」
 普通に生活している中でネコを飼っている飼い主ならまだしも、そうではない人間が小鳥のプレゼントを贈られることがあるのだろうか。おそらく滅多にないだろう。疑問形で返す私に千帆ちゃんが「いいなぁ」と小さく頬を膨らませながら言う。
 「小鳥?」
 「私もプレゼント欲しかった!」
 おかずの鶏の唐揚げを箸で摘まみながら言う。
 「うーん、実際に置かれてたら驚くけどさー、気持ちは欲しいよね」
 自分の心に正直な千帆ちゃんに思わず笑ってしまう。たしかに玄関前に置かれていたら驚くけれど、少なからず好意はあるんだろうなと思うとやはり嬉しいものだ。あ、いや……でもあの小鳥どうしよう。再び浮上した問題に私は味噌汁の入ったお椀へ手を伸ばす。考えるのは後にしよう。今日も一限目から授業があるから、帰って残っていたら考えよう。そう決めて味噌汁を飲んだ。


 部屋に戻り、登校の準備をしていた私の耳に外から隣の部屋に住んでいる同じ学年の小宮くんの「うわ!」と悲鳴が聞こえた。
 ……ですよね! そういう反応になりますよね! 
 私は苦笑しながら聞かなかったことにして準備を進めた。




 帰宅した時には小鳥の姿はなく、茶々さんが持って帰ったのだろうと一人、結論付けるのだった。
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