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第五話 VS大家さん 結果は……
しおりを挟む学校生活にも、寮生活にも慣れてきた頃、私たちのルーチンも決まってきた。朝食は朝の七時で食堂待ち合わせ。顔を出すと、朝食の準備をしているおばあちゃんが顔を出す。おばあちゃんは大家さんの母で、朝食を用意してくれている。大変そうなときは私と千帆ちゃんが手伝うようになったが、最近はその回数が増えてきた気がする。朝食の準備が出来るまで特にすることもないので、私たちは手伝いを申し出たのが始まりだ。その見返りはご飯をお弁当箱に詰めること。おかずは前日の自分たちの残り物を詰めたもの。学生にとって昼食代を浮かせることが出来るのはとてもありがたい。
今日も準備を終えて、テーブルに白米とほうれん草の味噌汁、皿には千切りキャベツと、目玉焼き、ソーセージの炒め物が盛り付けられている。私たちは向かい合わせに座り「いただきます」と両手を合わせた。
「千帆ちゃんは一限目から?」
「うん。和ちゃんも?」
頷いた千帆ちゃんに問われて私も頷く。そんな時だった。
「うひゃっ!」
「ど、どうしたの⁉」
突然声を上げた私に千帆ちゃんが目を丸くした。私のふくらはぎに何かが触れている。そのくすぐったさに思わず声が出たのだ。箸を置いた私の目の前で今度は千帆ちゃんが声を上げる。くすぐったかったのか千帆ちゃんは笑い声をあげながら箸を置いてテーブルの下を覗き込んだ。私も同じ動きをする。
テーブルの下……正確には千帆ちゃんの椅子の真下に茶々さんが尻尾をぴん、と立てていた。
「ナァー」
挨拶のように一鳴きした茶々さんに私たちは笑い出す。私たちのふくらはぎを撫でたのは茶々さんの尻尾だ。彼女はそのまま椅子の下に座った。
「もう、びっくりしたよ」
「ほんと」
私たちは食事を再開した。
湯飲みに淹れていた緑茶を飲もうとしていた時、大家さんが出入りする勝手口ドアが開いて大家さんが顔を出した。
「おはようございます」
挨拶をすれば、柔らかな笑みと共に「おはようございます」と返ってくる。
こちらへ向かってくる大家さんに椅子の下にいた茶々さんが急に唸り出した。
「しっ、茶々さん。大家さんに気付かれちゃうよ」
出口に近い位置にいる私たちは大家さんから一番遠い。幸いまだ大家さんに気付かれてはいないみたいだ。茶々さんが声を出さなければ大丈夫だろう、と考えていた矢先。
「ネコには気を付けてくださいね」
言いながら大家さんが近づいてきた。
まずい! と私たちは顔を見合わせると、椅子の下から茶々さんがものすごいスピードで飛び出した。
「あら……」
大家さんは目を丸くして茶々さんを見る。
「フゥー!」
姿勢を低くして扉の側で唸る茶々さんの耳はペタリと下がっていた。
次第に近づいてくる大家さん。唸り続ける茶々さん。
私たちが立ち上がりかけたタイミングで茶々さんが「ニャン……」と情けない声を出した。
「飛び出さなければバレなかったのに……」
苦笑と共に小さく零した千帆ちゃんが扉を開けた。その瞬間、猛ダッシュで廊下を茶々さんは走り、後姿は見えなくなった。それを三人目で丸くしながら見つめていると、
「ネコは悪戯をするので、気を付けてくださいね」
そう言いながら大家さんは近くにあったモップを取って厨房まで戻って行った。大家さんはただモップを取りに来ただけらしい。私たちは息を吐いて再び椅子に腰かけた。冷めた緑茶を飲んでもう一度互いに息を吐いた。
……結果は逃走した茶々さんの負け。
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