213 / 226
【第二部】
ハロウィンSS
しおりを挟む「それで、俺に、警察官のコスプレをしてくれと」
「はい…」
ふーん、と言いながら、袋の中身を漁る廉さん。
全然嫌ではなさそうな顔だ。むしろ口端を少し上げ、乗り気な感じさえする。
事の発端は、雑誌のハロウィン特集。
今月の表紙を飾る事はできなかったが、俺と爽のページが組まれる事になった。
まだまだひよっこ同然の俺。
コンセプトものは初めてで、廉さんと撮影イメージを兼ねた練習をしたい、と頼んだのだ。
…というのは建前で、本当はハロウィンにかまけて、廉さんの警察官コスが見たいだけ!なんて事は、言えるはずない。
「忙しいならほんと大丈夫なんですけど」
なんて申し訳なさそうに言ってみるが、大丈夫ではない。
俺はどうしても、どうしても警察官姿の廉さんを見たいのだ。
裏社会に身を置く廉さんが、正義の象徴とも言える警察官の格好をするなんて、色々ヤバいに決まってる。
今日のコスプレ、半分は仕事、半分は自分の欲だ。
「全然良いけど…ちょっと待ってろ」
「はい、ありがとうございます!」
俺の頭をひと撫でして、廉さんは書斎へ向かった。
数分も経たず、すぐに戻ってきた廉さんが俺に差し出した物を見て、思わず叫びそうになる。
「俺はお前の頼みを聞くんだから、な?」
黒い笑顔で圧を掛けてくる廉さん。
そう言われてしまうと、ここで断るのも罪悪感がすごい。
「ええ…うーん……」
渋々、受け取った袋には、『チャイナドレス』の文字。
中には、黒地に金の柄がついている服と、多分髪につける何かが入っていた。
「…すぐ脱ぎますからね」
「よし、着替えたら練習な」
頷き、それぞれウォークインクローゼットと寝室へ向かう。裸を見られるのと着替えを見られるのは、また違った恥ずかしさがある。
廉さんの警察官…楽しみすぎるな。
「…え?本当にこれで合ってんの…」
たくさんのスーツが並んでいるクローゼットの中にある姿見。
そこに映っているのは、チャイナドレス姿の俺。
着てみたは良いが、肩幅がかなりキツい。
当たり前だ、女物なんだから。想像していたよりピタッとしていて動きづらい。
丈はロングだけど、大胆なスリットが入っている。
横から脚がほぼ見えているのが萌えポイントなのだろうが、ちょっと寒い。
まさかこの歳になって、女装をする事になるなんて思わなかった。
肩幅がキツいとは言え、着れなかった訳では無い。
頑張ってファスナー上げたし。
そして、なかなか様になっているのを受け入れたくない。
自分がこんな格好をしていたら、廉さんの警察官姿に集中できない。
「…はぁ…早く写真撮って、お菓子渡して着替えよう…」
一度大きなため息をつき、複雑な気持ちでウォークインクローゼットを出た。
0
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。
インテリヤクザは子守りができない
タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。
冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。
なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる