210 / 226
【第二部】
2 side 金条 華
しおりを挟む黒川さんが出て行ってから、10分弱。
俺は黒川さんが脱ぎ捨てたスーツの上着を持って、リビングをウロウロしていた。
ど、どうしよう…廉さん戻ってこないじゃん。
まさか、また事故に遭ったりしてないよな?
もうあんな日々を送りたくない。
大きいベッドで寝ても隣は冷たいし、家が無駄に広いせいで、孤独感がすごかった。
一人になった家は朝でも暗い気がして、時々泣きながら琉唯くんの家に転がり込んでいたのを思い出す。
「落ち着け…落ち着け俺…マンションで何か起こるわけないだろ…」
大丈夫大丈夫、と唱えても、嫌な不安が胸を渦巻く。
階段で下りて、段差を踏み外し転がったら?また頭打っちゃうよ。
俺の事また忘れられたら、今度こそ耐えられなくて自害しそうだ。
それかエレベーターで何かあった?緊急停止したとか?
もしかして敵対してる極道が乗り込んできたとか?
どこかと敵対してるとかは今の所、聞いてないけど…。
「帰ってこなかったらどうしよう」
ジャケットを抱き締めて思い切り嗅ぐと、ふわっと香水の匂いがして胸が切ない。
こんな風に待っていると、あの夏の日、いくら待っても廉さんは迎えに来てくれなくてそのまま遠くの人になってしまったのが、昨日のことの様に簡単に思い出せた。
「…はっ…はぁ…」
薄暗い廊下で赤く光る『手術中』という文字が頭に浮かび、理央の悲鳴に近い泣き声が、まるで昨日の事の様にフラッシュバックする。
肺を押し潰されてそこを針で突かれているみたいに息がしづらくて痛くなった。
「はぁ…出るなって言われたけどなぁ…」
無理なもんは無理だ。
もう怒られてもいいから追いかけようと決め、迷路のような室内を抜け、玄関スペースまで小走りで向かう。
すると同時に、玄関のドアが開いた。
「はっ!!」
「ただいま、…ってお前そんなとこで待ってたのか?」
ドアを開け、俺を見るとすぐに手を伸ばしてくれる黒川さんに、胸がきゅーんとなる。
「廉さん!!」
ジャケットをバサりと落とした。
まるで数十年ぶりに再会したような勢いで靴下のまま広い玄関を走り、そのまま胸にダイブした。
廉さんは驚きの声を上げたが、しっかり抱き留めてくれる。
「何も無かったですか?怪我してない?」
「大丈夫、待たせてごめんな」
ペタペタ身体中を触る俺の頭を撫でる黒川さん。
怪我ひとつなく戻ってきてくれただけで充分だ。
わがまま言うと…もうちょっと早く帰ってきて欲しかったけど。
0
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ひとりじめ
たがわリウ
BL
平凡な会社員の早川は、狼の獣人である部長と特別な関係にあった。
獣人と人間が共に働き、特別な関係を持つ制度がある会社に勤める早川は、ある日、同僚の獣人に迫られる。それを助けてくれたのは社員から尊敬されている部長、ゼンだった。
自分の匂いが移れば他の獣人に迫られることはないと言う部長は、ある提案を早川に持ちかける。その提案を受け入れた早川は、部長の部屋に通う特別な関係となり──。
体の関係から始まったふたりがお互いに独占欲を抱き、恋人になる話です。
狼獣人(上司)×人間(部下)

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる