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【第二部】
双子
しおりを挟む足音に気付いた、玄関の前にしゃがみこんでいた男が嬉しそうにパッと顔を上げる。
「華!でん、わ、…」
そして、やってきたのが華ではないと気付くと、表情を強ばらせた。
思わず足が止まる。
俺も、自分の表情筋が強ばるのを感じた。
「廉か」
「…蘭」
ポツリと呟く男の顔は、俺と瓜二つ。
俺とそいつを見分けるのは、髪型か服を見るしかない。
似過ぎてもはやクローンではないかと言うほどだ。
「この階になんか用?」
「お前、華に何かしたか」
高校卒業と共に、中国へ渡って音信不通だった双子の兄の蘭。
数年ぶりに会って、第一声がこれなのは申し訳ないと思う。
たった数メートルの距離でも、詰めたくないと思うのは何故だろうか。
俺の記憶が元に戻ったのを察した蘭は立ち上がる。
「あぁ…いや、何も。てか、これからしようとしてた所」
へらっと笑いながら、悪びれもなく言ってのける蘭に眉が寄る。
これからしようとしてた?
ふざけるのも大概にして欲しい。
「華は俺の運命の人だから」
「は?」
開いた口が塞がらないってのが本当起こるとは思わなかった。
運命の人?
華の運命の人は俺だ。糸だって繋がってたし。
「俺の赤い糸は確かに華と繋がってたんだよ」
そう言い、蘭は自分の左手を見つめて優しく笑う。
赤い糸…それに蘭が見つめている左手…俺も左手の小指に巻き付いている糸が華と繋がっていたし…もしかして、見えるのか?
「華も見えてたぞ多分」
「そんな、わけ…」
「俺の手見ながら糸が…糸が…!って言ってた、確定だろ」
ありえない、とは言い切れない。
俺だって、急に見えたんだから華だって見えるようになったのかもしれない。
でも、認めるわけにはいかない。
「今日の昼頃、急に見えなくなってさ、華に確認しようと思って。でも電話繋がらないしインターホンでも出てこないし、華どこにいるか知ってる?」
「あいつはっ!華は俺のだ!」
一歩近付いてきた蘭から逃げるつもりはなかったのに、勝手に足が後退りする。
華は俺の番だと、叫ぶように言った。
蘭へ向かって言ったが、半分は自分自身へ言い聞かせる為だ。
そうでもしないと、正気が保てない。
「落ち着けよ。一応、俺とも繋がってたし華を4年間支えてきたのは俺だ。話しくらいさせろ」
「駄目に決まってる。二度と華の名前を呼ぶな、近付くな」
こっちは真剣に話しているのに、どこか他人事の様に頷いている蘭。
その後、困った顔で苦笑いする顔にだんだんイライラしてくる。
自分と同じ顔だと思うと尚更イライラした。
「どけ」
玄関の前に立っている蘭を押し退け、借りた鍵で部屋に入る。
間取りは同じだったから、寝室へは迷わず着けた。
リビングや廊下は至って普通のベージュ系の内装だったのに、何故か寝室だけ俺の部屋と同じように真っ黒だった。
ベッドも、横にある小さな棚も全く同じ。
もしかして、とその引き出しを開けると中に取りにきた物がちゃんとあった。
取り出して、横にあるベッドに腰掛ける。
「はぁ…」
吐き出した溜息は、頼りなく震えていた。
蘭を前にすると、自信がなくなる。
嫌いではないし、特別仲が悪い訳でもない。
だが、一緒にいると常に劣等感を刺激されている気がして、どうにも落ち着かない。
確かに4年間、華を支えてきたのは蘭かもしれない。
4年間の間に2人が親しくなったのは俺のせいだ。
早く戻ってきて、そう言った華は今俺の帰りを待ち侘びているだろう。
もしかしたら、遅過ぎて追いかけて来るかもしれない。そうなると、蘭と鉢合わせして最悪のパターンだ。
なのに数分間、力が抜けて寝室から出る事ができなかった。
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