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【第二部】
10 side 黒川 廉
しおりを挟むうるうると瞳に涙を湛える華を置いて、寝室へ向かう。
今思えば連れてきた方が早かったのに、そこまで頭が回らなかった。
俺もかなり焦っているのだろう。
そして、華がまさか親父からあの話を聞いているとは思いもしなかった。
あんなに可愛い顔で、あんなに可愛いこと言われて我慢できた自分を褒め讃えたい。
早く繋がりたくてイライラする下半身を宥めながら着いた寝室。
ベッドサイドに置いてある、小さな棚の引き出しの中。
いつも使っていたメーカーの箱が入っていた。がさつに取り出し裏面を見る。
「昔のだ、クソ」
使用期限はまだあるが、一昨日使った時の残り枚数がそのままだった。
という事は、4年前に買っていた物だ。
使えない訳では無いが、使うなら新しく安全性の高い物が良いに決まっていた。
今すぐ繋がれない焦りに、ベコっと箱を握り潰し舌打ちをしてしまう。
だが裏を返せば、高校生の俺が、華以外の人間と繋がろうとしなかったという事で少し安心した。
「あの、…よければ俺ん家にあるの、使いますか」
後ろから声が聞こえ、振り向くとまだ力が入らないのか壁に手をついて立っている華。
「え?」
「いや、あの、決して誰かと使ったとかそういうのではないんですけど、えっと」
慌てて否定する華を疑っている訳ではない。
だが後で、具体的にどう使っていたかは訊こうと思う。
「取りに行ってくる、鍵貸して」
「はい」
リビングに放られていた、華の黒のクラッチバッグからキーケースを取り出す。
変わらず俺がプレゼントした物を使ってくれていた。
少しくたびれてるから、また他のキーケースをプレゼントしよう。
「俺もいきます」
「…だめ、待ってて」
てとてと俺の後を着いてくる華をソファに座らせる。
無いだろうが、組の人間とすれ違い、華のイったばかりの可愛くてエロい顔なんか見られてみろ。
そいつの事を殺すかもしれない。
「やだ、俺もっ、一人で行かないで!」
情けなく眉を垂らし、口も若干への字になっている華を見て驚く。
こいつこんな顔できたんだな。
表情筋が成長したのは嬉しいが、どこか寂しい。
「大丈夫だって、戻ってくるから」
「でもっ、離れたくないもん」
離れたくないもん…離れたくないもん…離れたくないもん?
脳内で『離れたくないもん』という声と、必死な顔が何度も再生される。
可愛いな。俺の華が世界一可愛い。
「か…っ…。いや本当にすぐ戻ってくるから」
「……」
そう伝えると、口を真一文字に結んだ華。
悲しさと不安を超えて、不満そうな顔が可愛い。
可愛いけど、無理なもんは無理だ。
いや絶対ではないけれど、できるだけ家から出て欲しくないからだ。
ソファに大人しく座り、手の甲で涙を拭きながらジトっと睨み上げてくる華の頭を撫でる。
「鍵借りるな、すぐ戻ってくる」
「部屋、真下です…待ってるから、早く戻ってきて…」
頷き早足で家を出た。
言われた通りに真下の階に向かい、部屋のドアが見えた所で立ち止まる。
誰かが玄関の前にしゃがみこんでいるからだ。
…誰だ?
ここに入れているという事は危険な人物ではないはずだ。
そう予想した俺はゆっくりドアに近付いていく。
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