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【第二部】
運命と偶然
しおりを挟む撮影から数ヶ月、今日は待ちに待ったCM放送日だ。
ここはある大通り。
結構大きめな画面がついた商業施設があり、そこに俺たちが出る広告が映るらしい。
時刻は昼前。平日だが、結構人がいる。
念の為、マスクと帽子を被って変装…まではいかないがあまり目立たないようにしていた。
こういうの、ちょっと芸能人っぽくて憧れてたから嬉しいかも。
「誰も見向きもしなかったらどうする?」
「…ちょっとショック」
俺のネガティブな返答に爽はハハっと笑うが、それ以降俺と同じように黙り込んだ。
爽も、わりと緊張と不安が入り混じっているんだと思う。
「まぁ緊張せずにさ~、俺はアレ好きだよ」
緊張する俺たちの後ろから、肩を組んでくる白林さん。
白林さんにそう言ってもらえるだけで心強いけど、不安なもんは仕方ない。
「華くん、そんなに心配しないで。廉もきっと見てくれるよ」
力強い白林さんの言葉に頷く。
そうだ。成長した俺を廉さんに見てもらうんだ。
前の事を思い出してくれなくてもいい。ただ少しだけでも視界に入れれば…って感じ。
っていうか、もう何年も会ってないし、いっその事俺から連絡、…。
「じっっ、時間っス!!」
上擦った爽の声に、俺の思考はぶつりと途切れる。
視線を目の前の大画面に向けると、俺たちのCMはすぐに流れ始めた。
最初から最後まで無音のCMが受け入れられるか不安だ。
待ち合わせをしていた人、歩いていた人、会話していた人が、無音になった大画面を不思議に思い見上げる。
「ね、見てあれ」
始まってすぐ。俺たちの近くで、同じように画面を見上げていた大学生っぽい二人組の女の子。
一人が、隣に立っていたもう一人の子に声をかける。
「わー、かっこいい、誰?」
「わかんない、ブランドから調べよ。インスタあるかな?」
「あっ!あったかも!茶髪の方が華くんで黒髪が爽くんって名前らしい!フォローしとこ!」
爽と顔を合わせてニヤ…っと笑う。
もしかしなくても俺たちの事だ!!
_______________
CMが終わり、爽と再び顔を合わせる。
たった数十秒だったはずなのに、何時間も流れていたような長さだった。
「ハー、やばかったな」
「すっっっごい緊張した……」
ふぅーっと息を吐き出す。
白林さんは、そんな俺たちを見て軽く頭をぽんぽんしてくれた。
「周りの反応も良い感じだったね。二人ともいい仕事したよ。お祝いに昼どっか連れてってやる!白林さんの奢り」
「よっしゃー!華!どこにする?!」
「近くだと……おー、色々出てきたよ」
白林さんが候補を出してくれた。
差し出されたスマホを、爽と共に覗き込んであれやこれや議論する。
その時だった。
「おい!!!!」
少し遠くで聞こえる大きな声に、三人で顔を上げ辺りを見回す。
聞こえてきたのは、
「そこを動くな!!!!!!!!!!」
どこかで聞いたことがあるセリフと、何年も聴いていなかった大好きな声。
「えっ…」
声の主が姿を現す。
高そうなスーツに、綺麗にセットされた黒い髪。
最後に見た時と、何も変わっていない見た目。
「華っ!」
人混みを掻き分け走ってきたのは、黒川さんだった。
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