194 / 226
【第二部】
運命と偶然
しおりを挟む撮影から数ヶ月、今日は待ちに待ったCM放送日だ。
ここはある大通り。
結構大きめな画面がついた商業施設があり、そこに俺たちが出る広告が映るらしい。
時刻は昼前。平日だが、結構人がいる。
念の為、マスクと帽子を被って変装…まではいかないがあまり目立たないようにしていた。
こういうの、ちょっと芸能人っぽくて憧れてたから嬉しいかも。
「誰も見向きもしなかったらどうする?」
「…ちょっとショック」
俺のネガティブな返答に爽はハハっと笑うが、それ以降俺と同じように黙り込んだ。
爽も、わりと緊張と不安が入り混じっているんだと思う。
「まぁ緊張せずにさ~、俺はアレ好きだよ」
緊張する俺たちの後ろから、肩を組んでくる白林さん。
白林さんにそう言ってもらえるだけで心強いけど、不安なもんは仕方ない。
「華くん、そんなに心配しないで。廉もきっと見てくれるよ」
力強い白林さんの言葉に頷く。
そうだ。成長した俺を廉さんに見てもらうんだ。
前の事を思い出してくれなくてもいい。ただ少しだけでも視界に入れれば…って感じ。
っていうか、もう何年も会ってないし、いっその事俺から連絡、…。
「じっっ、時間っス!!」
上擦った爽の声に、俺の思考はぶつりと途切れる。
視線を目の前の大画面に向けると、俺たちのCMはすぐに流れ始めた。
最初から最後まで無音のCMが受け入れられるか不安だ。
待ち合わせをしていた人、歩いていた人、会話していた人が、無音になった大画面を不思議に思い見上げる。
「ね、見てあれ」
始まってすぐ。俺たちの近くで、同じように画面を見上げていた大学生っぽい二人組の女の子。
一人が、隣に立っていたもう一人の子に声をかける。
「わー、かっこいい、誰?」
「わかんない、ブランドから調べよ。インスタあるかな?」
「あっ!あったかも!茶髪の方が華くんで黒髪が爽くんって名前らしい!フォローしとこ!」
爽と顔を合わせてニヤ…っと笑う。
もしかしなくても俺たちの事だ!!
_______________
CMが終わり、爽と再び顔を合わせる。
たった数十秒だったはずなのに、何時間も流れていたような長さだった。
「ハー、やばかったな」
「すっっっごい緊張した……」
ふぅーっと息を吐き出す。
白林さんは、そんな俺たちを見て軽く頭をぽんぽんしてくれた。
「周りの反応も良い感じだったね。二人ともいい仕事したよ。お祝いに昼どっか連れてってやる!白林さんの奢り」
「よっしゃー!華!どこにする?!」
「近くだと……おー、色々出てきたよ」
白林さんが候補を出してくれた。
差し出されたスマホを、爽と共に覗き込んであれやこれや議論する。
その時だった。
「おい!!!!」
少し遠くで聞こえる大きな声に、三人で顔を上げ辺りを見回す。
聞こえてきたのは、
「そこを動くな!!!!!!!!!!」
どこかで聞いたことがあるセリフと、何年も聴いていなかった大好きな声。
「えっ…」
声の主が姿を現す。
高そうなスーツに、綺麗にセットされた黒い髪。
最後に見た時と、何も変わっていない見た目。
「華っ!」
人混みを掻き分け走ってきたのは、黒川さんだった。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-
悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」
「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」
告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。
4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。
その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
グッバイ運命
星羽なま
BL
表紙イラストは【ぬか。】様に制作いただきました。
《あらすじ》
〜決意の弱さは幸か不幸か〜
社会人七年目の渚琉志(なぎさりゅうじ)には、同い年の相沢悠透(あいざわゆうと)という恋人がいる。
二人は大学で琉志が発情してしまったことをきっかけに距離を深めて行った。琉志はその出会いに"運命の人"だと感じ、二人が恋に落ちるには時間など必要なかった。
付き合って八年経つ二人は、お互いに不安なことも増えて行った。それは、お互いがオメガだったからである。
苦労することを分かっていて付き合ったはずなのに、社会に出ると現実を知っていく日々だった。
歳を重ねるにつれ、将来への心配ばかりが募る。二人はやがて、すれ違いばかりになり、関係は悪い方向へ向かっていった。
そんな中、琉志の"運命の番"が現れる。二人にとっては最悪の事態。それでも愛する気持ちは同じかと思ったが…
"運命の人"と"運命の番"。
お互いが幸せになるために、二人が選択した運命は──
《登場人物》
◯渚琉志(なぎさりゅうじ)…社会人七年目の28歳。10月16日生まれ。身長176cm。
自分がオメガであることで、他人に迷惑をかけないように生きてきた。
◯相沢悠透(あいざわゆうと)…同じく社会人七年目の28歳。10月29日生まれ。身長178cm。
アルファだと偽って生きてきた。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる