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【第二部】
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しおりを挟む「妻はキミと同じオメガだったんだ。綺麗で弱くて、脆かった。廉には、僕と同じ思いをして欲しくない」
同じ思いをして欲しくないって、つまり、あの話?
お義母さんが亡くなった事じゃなくて、オメガが子供を産む為に亡くなる事、それ自体が正臣さんのトラウマなのかな?
いや、そんな訳ないよな…。全然わかんないや…。
「キミと妻が違う事くらいわかってる、でも…」
少し身を乗り出した正臣さん。
俺より大きな手がぽふんと頭に乗せられ、そのまま何度か左右に往復した。
「重ねずにはいられないんだよ」
俺が想像していた事と全然違った。
「僕のように、愛する人を喪ってほしくない」
だから正臣さんは、子供をつくるなって黒川さんに言ってたんだ。
オメガは子供を産むと同時に死ぬんじゃないかってトラウマがあったから。
お前はこの家に必要ないって言われてんだって勝手に勘違いしてた。
カタギのクソガキなんかお荷物、足手まといにしかならないって思って落ち込んでた。
「そう廉に何度も言っていたんだけど中々伝わらなくてね…ストレスになっていたみたいなんだ。」
「で、でも…」
それは、正臣さんのせいじゃないと思う。
正臣さんがその話をしなくても、黒川さんは何かの理由で撥ねられていたかもしれないから。
責任を感じないでほしいから必死に首を振る俺を見て、正臣さんは俯いた。
前より少し増えた白髪が、それと同時にはらりと落ちる。
高校生の時はこの人が怖くて怖くて…いや、正直今も怖いけど、歳をとったからか一回り小さく見えた。
「僕のせいなんだ。ぶつかった車体もそんなに大きくなかったし、廉は受け身をとっていたから記憶を失くす程の衝撃じゃなかったのに、僕のせいで…君の番を…」
「もういいんですよ、起きた事は仕方が無いですから」
どんどん自分を責め続ける正臣さん。俺は首を振る。
それに、俺は覚悟ができている。
俺の事を思い出さなくても、ずっと廉さんを愛してる。
覚悟なんかしなくても当たり前のこと。
「心配しないで下さい、いつか孫の顔見せますから」
「…ははっ…頼もしいけどやめてもらいたいね…」
まぁ、廉さんが俺を思い出さないと何も始まらないけど。
困った顔で笑う正臣さんに、俺は新たに一つ覚悟を決める。
「…いつか、廉さんが俺を迎えに来てくれるって…待ってていいですか?」
俺のことを憶えていない廉さんに、番で恋人でした~!なんて言っても困らせるだけだろう。
俺からは何も言わない、けど廉さんがいつか俺のことを思い出してくれたら、その時は今度こそ結婚したい。
「あぁ。待っててくれるなら。キミを振り回してばかりの息子ですまない」
「俺が勝手に振り回されてるんで気にしないでください」
それから正臣さんと二人きりで、一時間近く話をした。
これまでの思い出話、これからの俺の話と廉さんとどう向き合っていくか。
思い出話をしている時、やっぱり大好きな廉さんが俺を忘れてしまった事が悲しくて、受け止めたつもりだったけど嫌だって気持ちが強くて涙が止まらなかった。
やっと涙が止まった頃に、ナイスタイミングで呼びに来た琉唯くんと蘭さん。
主役がいなくなったって、皆で正臣さんを探し回ってたらしい。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう。息子をよろしくね」
はい!と元気よく返事しようと思ったけど、また声が震えそうな気がして、大きく頷くのに変えた。
「じゃあ帰ろうか」
「はい」
色々察してくれた二人は、帰りの車内でも、たわいもない話をして気を紛らわせてくれる。
玄関前の廊下でドアを開ける前、蘭さんが
「俺はいつでもおまえの味方だよ。佐伯も早野もいる。兄貴だと思え」
そう言って、笑いながら俺の肩を数回ぽんぽん叩いた。
それだけで俺は救われた気がして、また前を向けそうな気がした。
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