a pair of fate

みか

文字の大きさ
上 下
182 / 226
【第二部】

2

しおりを挟む




バレンタイン当日。
仕事に行く黒川さんを見送ってから、チョコ作りを開始する。今日は店長さんに頼んで、出勤を少し遅らせてもらった。

今日の予定は、チョコを溶かして型に流して冷やしておく。
そしたら帰ってきた時には固まっていて、それを黒川さんに渡す。
我ながら完璧な計画かもしれない。


喜んでくれるかなぁ、と心配になるがまずは作らなければ始まらない!と気合いを入れて腕まくり。


「…ふんっ…!」


包丁に体重をかけながら、次々と板チョコを刻んでいく。

意外と板チョコって硬い…。

手元からは甘い香りがふわりと舞い、完成したチョコを渡した時の黒川さんの顔を想像してしまう。

きっと喜んでくれるはずだ。


「…よーし。次は…」


チョコの作り方が載ったサイトを見ながら作業を進める。

次は湯せんってやつらしい。
湯せんってなんだろ?湯せんの次の工程は『チョコを型に流し込む』だから、湯せんはチョコを溶かす工程だと推測する。

とりあえずチョコが溶ければいいんだな!



______________________________




俺が今日やる工程、
1 まずチョコを刻んで溶かす。
2 そしてそれを小さいカップに入れる。
3 最後に冷やす。ただ、それだけ。

それだけだったのに、なんだこれは。


「……………」


俺の目の前にあるのは焦げくず。

皿に入った黒い塊は、チョコかゴミなのか分からない。

思わず手が震えた。
まさか自分がここまで料理ができないとは。


「……」


『湯せん』が何かわからず調べるのを面倒くさがった俺は、チョコを皿に入れてレンチン。
そのままスマホでパズルゲームに没頭してしまった。
電子レンジから煙が出ているのに気付き、慌てて電子レンジを開けても後の祭り。
皿に入っていたのは、ただの焦げくずだった。

何ワットで何分加熱したかなんて覚えていない。ただ確実に溶けるには、長い時間かけた方が良いだろうと思ったのは憶えている。

情けない。溶かして入れて冷やすだけなのに。

どうしよう。チョコを全部使ってしまったし、電子レンジを汚してしまった。帰ってきてからだと固まらないし、てか黒川さんの目の前で作る訳にはいかないし…。


「…まずは片付けか…」


黒い塊、もとい焦げたチョコを捨てて、換気扇を回す。
板チョコの銀紙や汚れたまな板を洗い、キッチンに広げていた包装セット一式を、またトートバッグに突っ込む。


そうこうしているうちにバイトの時間。


「あーもう!!こんなはずじゃ!!」


結局チョコ作りは失敗に終わった。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

インテリヤクザは子守りができない

タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。 冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。 なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。 「たまに会う」から「気になる」 「気になる」から「好き?」から……。  成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。  楽しんで頂けますように♡

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

処理中です...