a pair of fate

みか

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【第二部】

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バレンタイン当日。
仕事に行く黒川さんを見送ってから、チョコ作りを開始する。今日は店長さんに頼んで、出勤を少し遅らせてもらった。

今日の予定は、チョコを溶かして型に流して冷やしておく。
そしたら帰ってきた時には固まっていて、それを黒川さんに渡す。
我ながら完璧な計画かもしれない。


喜んでくれるかなぁ、と心配になるがまずは作らなければ始まらない!と気合いを入れて腕まくり。


「…ふんっ…!」


包丁に体重をかけながら、次々と板チョコを刻んでいく。

意外と板チョコって硬い…。

手元からは甘い香りがふわりと舞い、完成したチョコを渡した時の黒川さんの顔を想像してしまう。

きっと喜んでくれるはずだ。


「…よーし。次は…」


チョコの作り方が載ったサイトを見ながら作業を進める。

次は湯せんってやつらしい。
湯せんってなんだろ?湯せんの次の工程は『チョコを型に流し込む』だから、湯せんはチョコを溶かす工程だと推測する。

とりあえずチョコが溶ければいいんだな!



______________________________




俺が今日やる工程、
1 まずチョコを刻んで溶かす。
2 そしてそれを小さいカップに入れる。
3 最後に冷やす。ただ、それだけ。

それだけだったのに、なんだこれは。


「……………」


俺の目の前にあるのは焦げくず。

皿に入った黒い塊は、チョコかゴミなのか分からない。

思わず手が震えた。
まさか自分がここまで料理ができないとは。


「……」


『湯せん』が何かわからず調べるのを面倒くさがった俺は、チョコを皿に入れてレンチン。
そのままスマホでパズルゲームに没頭してしまった。
電子レンジから煙が出ているのに気付き、慌てて電子レンジを開けても後の祭り。
皿に入っていたのは、ただの焦げくずだった。

何ワットで何分加熱したかなんて覚えていない。ただ確実に溶けるには、長い時間かけた方が良いだろうと思ったのは憶えている。

情けない。溶かして入れて冷やすだけなのに。

どうしよう。チョコを全部使ってしまったし、電子レンジを汚してしまった。帰ってきてからだと固まらないし、てか黒川さんの目の前で作る訳にはいかないし…。


「…まずは片付けか…」


黒い塊、もとい焦げたチョコを捨てて、換気扇を回す。
板チョコの銀紙や汚れたまな板を洗い、キッチンに広げていた包装セット一式を、またトートバッグに突っ込む。


そうこうしているうちにバイトの時間。


「あーもう!!こんなはずじゃ!!」


結局チョコ作りは失敗に終わった。




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