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【第二部】
お隣さん
しおりを挟む次の日の朝、俺は気遣いの欠片もないインターホンの音で目覚めた。
「、っあ゛ぁぁ何?!うるさ!!」
時刻は8時前。
寝起きの体を起こし、眠たい目を擦りながらモニター画面を見る。
そこに映っていたのは、早朝だというのにやたら元気そうな蘭さん。
手まで振っちゃって…なんでそんな元気なんだよ…。
ヤクザを待たせる訳にはいかないので、当たり前だけど寝癖を直す暇もなく玄関ドアを開ける。
「おはようございます何ですかこんな朝早くに」
「いやー、俺お隣さんになったから挨拶に来た」
…お隣さん。お隣さんって、席が隣とか家が隣とかそういうお隣さん?
言葉の意味を頭の中で改めて考えていると、マンションの廊下から『蘭さん!次はベッド行きますよ!』と岩下さんの威勢の良い声が聞こえる。
また岩下さん引越しの手伝いしてるんだ…まぁ昨日は俺のだけど。
「っていうのは建前で、引越し手伝って。因みに強制ね」
「え゛」
ニっと笑った蘭さんは靴を脱ぎ、『まず寝癖なおそ~』と言いながら俺の背を洗面所へぐいぐい押して歩く。
それより蘭さんが何故急にお隣さんになるのか気になる。
「ちょっと髪の毛遊ばせてみれば?」
「俺ストレートでどうしてもうまくいかなくて」
「ふーん…ちょっと失礼」
後ろから俺の髪をちょいちょいと触り、買うだけ買って使っていなかったワックスをつけていく。
みるみるうちに変わっていく髪型。
何でお隣さんになるのか聞きたかったのに、驚きで疑問を忘れた俺は、思わずぱちぱち瞬きを繰り返した。
「うわぁ…すごいです蘭さん!」
「無理に形作ろうとしないで元を活かしてみな」
くすっと笑った蘭さんは、あっという間に俺の髪をアレンジしていった。
わざわざアイロンしなくてもこんなに変わるなんて…。
「俺天才かも~可愛くなったじゃ~ん」
「ありがとうございます…って何ですかこの手」
不意に後ろから俺の腰に回された両腕を叩き落とす。
蘭さんは不服そうな顔をしているけど許す訳にはいかない。
黒川さんにいじわるしてるみたいで心臓がチクチクした。
蘭さんは蘭さん。黒川さんは黒川さん。
そうだ、今話しているのは蘭さんなんだから、しっかりしないと。
「ふぅ…」
冷や汗をかきながら一足先に玄関へ向かう。
危なかった、顔が黒川さんだからさ~!しかも鏡越しの顔なんて本当にソックリで…。
「ちょっとちょっと塩対応やめて」
「二度と触んな、いでください」
「おい今『触んな』って言おうとしただろ!てか二度と?!」
喚き凝りもせず次は肩を組もうとしてくる蘭さんを交わしながら、岩下さんが出入りしている隣の蘭さん宅に入る。
「今日は引越し手伝いなのでスキンシップは必要無いです、はい引越し始めますよ」
「可愛くねぇな~」
「黒川さんには可愛いので」
「ウッッワ可愛くねぇ~!一応俺も黒川さんだからな!」
初めて出会った時の優しさは何処へやら、まるで俺より年下のような態度で接してくる蘭さん。俺もついつい対応が雑になってしまう。
でもヤクザオーラ全開で来られると怖いからこっちの方がいいかも…と思った俺だった。
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