a pair of fate

みか

文字の大きさ
上 下
115 / 226
【第一部】

5

しおりを挟む




「華、大丈夫か?」


あれから数分、息が整うまで抱きしめてもらった。
正直まだくっついていたかったけど渋々離れる。


「…ごめんなさい…」

「で、どうする?」


脈絡のない問に首を傾げると、黒川さんはフっと笑いながら衝撃の一言を言い放つ。


「殺すか?」

「…………え?」


『この後どうする?』みたいなテンションで聞かれたから、反応に遅れてしまう。

殺すって…殺すって事だよな…。

冗談かと思ったけど、黒川さんの顔はとてもそういう感じではない。
人の命を奪う事は黒川さんにとってどうって事ないのかもしれないが、どうも現実味が無く返事に困る。
当たり前だが俺は人の命を奪った事なんかないしらこれから先もないだろうと思っていた。

だけど今、俺の一言で人間が一人、命を奪われそうになっている。

それを意識するだけで冷や汗が出てきた。

本音を言うと殺したいくらい憎い。
でも冷静になると、自分は最後までやられてないし、殺す程ではないのかもしれない。

俺はどうしたらいい?


「…俺、多分 最後までされてないですよ?」

「確認してない。最後までしなかったから許すのか?」

「…いや…そういう訳じゃないですけど…」

「未遂だからじゃ済ませない。襲おうとしたのは事実だし華が許しても、俺は許さない。俺の番に触れてパニック起こさせた、それ相応の事はするつもりだ。」

「…でも、殺す、って…」



やっぱり答えられなくて俯くと、窒息しそうなくらい強い力で抱き寄せられる。



「…重いと思うか?これが俺の愛で、俺の愛し方だ。受け取ってもらいたい。」



息が喉で絡まって変な音をたてる。

普通に重いと思った。

他人の命と俺を天秤にかけて、間違いなく俺に傾くのが。

嬉しくないわけじゃない。
ただ、たった一人、ちょっと体を触られた俺だけのために他人を殺してまで騒ぎ立てる事なのか、そう思った。


なんて答えたらいいか分からず目を泳がせる俺に、黒川さんは溜息をついてスマホを耳にあてた。

電話をするんだと思って膝から下りようとしたら腰を押さえつけられたので動けず、せめて静かにしていようと口を押さえる。


「佐伯、全部知ってるな。明日の午前中に倉庫だ。」


相手は琉唯くんだ。

でも今授業中だから電話には出られなくね?てか倉庫って絶対物置く倉庫じゃないよな?ヤクザの倉庫ってイメージだけど、きっと暗くて寒くて血の匂いが…。


「琉唯くん授業中じゃないんですか…あと倉庫、って…」

「佐伯もここに来てる。お前が行く所には必ず着いて行ってる。二度と妙な気起こさない様に教えてやるだけだ。心配しなくていい。殺しはしない。」


黒川さんは心配しなくていいって言うけど、結局俺がどうして欲しいか言った方が、先生はまだマシな結果だったのでは無いかと思ってしまった。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...