a pair of fate

みか

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【第一部】

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着替え終わったのを伝えると凛堂さんは振り向いた。


「もう少しで社長がこちらに来られるようです」

「…あの、俺…あの…えっと…」

「私には話さなくて結構ですよ。」


どう説明しようかと悩んでいるとそう言われほっと息をつく。

…よかった。聞いても反応しにくいだろうし、聞きたくないだろうし。


お互い無言のままの時間が少し気まずくなってきた頃、廊下から騒がしい足音が聞こえ、勢いよく応接室のドアが開いた。



「華?!どうした!」



入ってきたのは少し息を切らした黒川さんで、その後ろには数人のお偉いさんみたいな人もいる。




「黒川さ、…」



驚きと安心で一気に力が抜けてソファから立ち上がれない。凛堂さんがお偉いさん達を外に押し出してくれて、室内に二人きりになる。



「どうした?」

「こ、こわかった、」



黒川さんに伸ばした震える手は、すぐにしっかり握られた。
ソファに座った黒川さんの膝の上に移動するけど、その時の手つきはやっぱり優しくて、先生なんかと全然違うのにまた安心した。



「華、話せるか?」



抱きついた腕にぎゅっと力が入る。

話さないといけないのに、どこから話したらいいのか分からない。
考えながらずっと匂いを嗅いでいると、痺れを切らした黒川さんはぐっと肩を押して俺を離す。


「あぁっ、まって」

「おい」


もう一回抱きつこうとして、ちょっと怒り気味の声にハッと我に返って動きを止める。

早く話さないと。

黒川さんからしたら、仕事中に急に押しかけられて抱きつかれて、匂いを嗅がれるっていう超絶迷惑極まりない状況なわけだ。


どこから話そう。


転けて保健室に行くってなった所から?

いや、それだとなんで転んだって聞かれたら理央と二人三脚してて~って話さないといけなくなる。

理央は黒川さんの弟だから悪く言えないし、いやまず理央は悪くないし…。


とりあえず何か話さないと



「…あの、えっと、腕掴まれて、」

「なんで、誰に」



学校の先生、そう言わないと伝わらないのに。

思い出すと気持ち悪くて怖くて、誰かに話したのが先生にバレたら、また何かされるんじゃないかという心配に支配される。
もしかしたら黒川さんにも何かするかもしれない。



「かっ、顔、…顔が近くて、っ、はっ、」

「おい、華」



俺のせいで黒川さんに何かあったらどうしよう。

息を吸っても足りなくて、苦しくて、俺を揺さぶる黒川さんにも気付かなかった。


「…っ、蹴って、けって、逃げ、…っ、逃げた、のに、はぁっ」


一生懸命吸っているのに吸っている感じがしない。
むしろどんどん水に沈んでいくみたいに肺が苦しくなる。


「逃げた、のに捕まって、…っ、」

「…逃げたのか、偉かったな」


もう息が苦しくて死ぬ、という所で一気に落ち着く匂いに包まれてハッと意識が戻った。

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