110 / 226
【第一部】
3
しおりを挟む保健室のドアには『職員室』と書かれた札が掛けてあった。
今は誰もいないのか。
ドアに手をかけると普通にスライドして開いたので、中に入り消毒液を探す。
ベッドが二つ並んでいる隣の棚に消毒液はあった。
同じ所にあったコットンに消毒液を染み込ませて肘と膝を擦ると、傷に染みて鋭い痛みが走る。
「いって~…」
ガサゴソ棚を漁って見つけた大きめの絆創膏を、特に酷い膝に貼る。
手当として合ってるのか分からないけど、何もしないよりかはマシだ。
痛いなぁ。早く戻ってもう一回謝って練習しよう。
その時、ガラッとドアが開く音が聞こえて、保健医が帰ってきたんだと思い振り向く。
「金条~大丈夫か~」
頭を掻きながらフラっと室内に入ってきたのは体育教師だった。
「はい、少し擦り剥いただけなんで」
先生は隣にくるなり肘に絆創膏を貼った俺の手首を掴む。
「え、あの」
その素早さに嫌な予感がして腕を振り払おうとするが、結構強めに掴まれていてビクともしないし体温が気持ち悪い。
「心配したんだぞ」
いやそれより今アンタが有り得ない強さで掴んでる俺の手首の心配してくれ。
「すみません、すぐ戻ります」
「いや、顔色が悪い、少し休め」
「えっ、いや、うわっ」
トン、と軽く肩を押されそのまま後ろのベッドに尻もちをつく。
すぐにカーテンをシャっと閉められどこか冷静になり、ついにこの時が来たか、と思った。
俺はオメガだけど、ヒートがきてなかったから誰かに襲われる事なんか無かった。
『オメガが強姦される』という、俺にはいつ起こってもおかしくない事に現実味を持てないでいた。
どこか他人事の様に考えていたんだ。
こうなって今更、やっぱり俺は弱いオメガなんだって実感している。
でもこの先生、ベータだった気がするから、最悪の事にはならないだろう、
「まずは熱だな」
あくまで心配している体を守りながら、先生はベッドの上に乗ってくる。
どこから取り出したのか、体温計を俺の脇に挟ませようと体操服を捲ってきた。
「いや、ちょっと、何して」
「何だ」
手を止めようとしたのにギロっと睨まれ、その威圧感に逆に俺の動きが止まる。
──アルファだ、この先生、アルファだったのか?
番ができたら狙われないって嘘だったのかよ。
「金条」
「っっっっぅ」
俺に覆いかぶさりゆっくり近づいてくる先生。
唇が触れるまで、あと数センチ。
「うわあああああああ!!!!!!」
「い゛っ、?!?」
気持ち悪さで思わず大声を上げた。
思いっきり蹴り上げた、脚の脛に当たる温かく柔らかい感触が気持ち悪くてたまらない。
蹴り上げたのは急所だ。多分しばらく動けない。
横にドサリと股間を押さえ蹲った先生の傍から離れて、ガクガク震える脚を叱咤しながら保健室から出る。
「はぁっ、っは、ちゃんと動けよ足、」
ヨロヨロと廊下に出ても誰かがいるわけない。
シーンと静まり返っている。
当たり前だ。
今は授業中だしここは1階。
1階には靴箱と保健室と食堂、少し離れた所に事務室があるだけで教室は無い。
「誰か、誰か助け、」
「逃げるな!!!!」
怒鳴り声が聞こえる。
脚は夢の中で走るように、ゆっくりにしか進まない。
俺の足音より速い足音が聞こえて振り向くと、先生があっという間に追いついてきて、俺の二の腕を掴む。
「ぁ、あ、あぁぁいやだ…」
動かない足にチッと舌打ちされ、半ば引き摺られるように保健室に逆戻りした。
あっという間にベッドに乗せられて、また先生が覆いかぶさってくる。
「いや、いや、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
黒川さんじゃない。
黒川さんは俺のこと乱暴に扱わないし、いつもフェロモンと香水のいい匂いがする。
腕を掴まれてもこんなに痛くないし、汗臭くもない。
「ぅ、ぇっ…」
急に涙はボロボロ溢れて止まらないし、手も足も震えまくって力が入らなくなってきた。
「お、おい金条、しっかりしろ」
「嫌だ嫌だ嫌だ触るな!!!!!くろか…」
狼狽えながら俺に手を伸ばす先生の腕を叩き落とすが、
その瞬間キーーーーンと嫌な耳鳴りがして、震えが酷くなってきて、その上 息が上手くできなくなる。
俺はどうなるんだろう。
番がいるのに他のアルファと行為に及んだらそのオメガは──
黒川さん、俺、黒川さんが大好き。
俺、頑張って逃げようとしたんだよ。
穢れても嫌わないで欲しいな。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
組長と俺の話
性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話
え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある?
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい
1日1話かけたらいいな〜(他人事)
面白かったら、是非コメントをお願いします!
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる