99 / 226
【第一部】
6
しおりを挟む「着いたぞ」
水族館からの数十分なんて秒だった。もうコンビニの駐車場に着いてしまう。
言われなくても分かってるし、何なら着くまでどこかで渋滞になったりしないかなとか、少なくとも5回は思った。
それくらい黒川さんとバイバイしたくない。
中々車から降りようとしない俺に、黒川さんはもう一度俺の名前を呼ぶ。
「華?」
「あの、1分だけ、…」
1分だけ、1分経ったらさよならするからそれまで許してほしい。
そう思いながらシートベルトを外し、思い切って身を乗り出して、隣の黒川さんに抱き着いた。
「おぉ、どうした?」
黒川さんは驚きながらも俺と同じようにシートベルトを外して抱き締め返してくれた。
今日の俺は変だ。
超寂しがり屋になってしまった。
車の外に出たら現実世界なんて嫌過ぎる。
「寂しくなった?」
言い当てられて体が強ばる。『寂しい』と言ったらもっと寂しくなって泣きそうな気がしたから、黒川さんの肩に頭をぐりぐり擦り付けて言えない分を精一杯アピールする。
あとちょっと匂いを嗅いでしまった。
やっぱり黒川さんはいい匂いがして、離れたくないのが酷くなった。
それから暫く無言の時間が過ぎた。
もしかしたら1分なんてとっくに経っていたのかもしれない。
「華、華~?…1分経ったけど?」
「…あと10秒です」
「10、9、は、」
「数えないでくださいよ!」
駄々っ子するとカウントダウンが始まる。しかも結構早い。
抱き着いた体は小刻みに揺れてるから、多分笑っているんだろうけど笑い事じゃない。
俺は寂しすぎて死にそうなんだ。
その後も『あと5秒』とか『やっぱりあと1分』とか繰り返す俺に黒川さんは少し笑いながら囁いてくる。
「泊まる?」
「いいんですか?!」
思わず肩から顔を離して見上げると、思っていたより距離が近くて心臓がうるさくなる。
これは…ダメそうだ…俺、絶対おかしい!!
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる