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【第一部】
水族館
しおりを挟むそれから数日後、俺は家の近くのコンビニで黒川さんを待っていた。
今日は黒川さんと水族館に行く日。
夏休みもあと数日で終わるし、学校が始まったらしばらく会えないから最後の思い出作りだ。
水族館にはあまりいい思い出がないから少し緊張してるけど、それを上回るくらい嬉しくてドキドキしている。
毎度の事ながら深呼吸を繰り返していると、駐車場に黒川さんの車が入ってきた。
今日も多分全身真っ黒だ。
まぁ何着ても絶対かっこいいんだけど。
「こんにちは」
「おう、行くぞ」
助手席に乗り込むと当たり前に握られる右手。
黒川さんはちょっとニコってして運転を始める。これも当たり前に安全運転だ。
無言の車内で黒川さんの横顔をバレない程度にチラチラ見ていると、夏休みが終わるとしばらく会えないのを意識してしまってちょっと寂しくなってくる。
だから運転中だけど構って欲しくて俺が持ってるありったけの勇気を振り絞り、握っている黒川さんの手の甲に唇を当ててみた。
「……」
…やばい!勢いでしたけど超恥ずかしいかもこれ…!!
その後すぐにちょうど赤信号で停車する。
「…さ、っきの」
「…ぁ…はい…」
黒川さんは真っ赤な顔をして俺の方を向いた。
意地悪そうに歪んだ笑みでもないし花が綻ぶような笑みでもない、初めて見る何とも言い難い可愛い照れ顔を思わず凝視してしまう。
俺の中のクールな黒川さんがどんどん崩れていく。
「…ホ、ホテル行く?」
「行きません!!イルカショー絶対みるし!!」
真っ赤になってるのが珍しくてかわいいのに言うことは可愛くなかった。
俺は今日絶対に水族館に行って特別バージョンのイルカショーを観ないといけないんだ。
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